エピローグ

「それじゃあいくよ、みんな……せーのっ!」


「「「【ふりーくしょっと!】結成、いっしゅうねーーーーーん!」」」


 ≪わあああああああああああああ!≫

 ≪はじまた≫

 ≪おめでとーーーーーーーーー!≫

 ≪おめでとうございます!(4回目)≫

 ≪衣装!!!(断末魔≫

 ≪ぎゃああああお揃いの衣装ぎゃわいい≫

 ≪ユニット衣装だーーーーー!≫

 ≪冒頭から新アバターお披露目してるってことは、やばい発表があるってことだな!≫


「はろーっ! デジタルの世界から、今日はみんなと”楽しい”をお届けっ! 非実在ストリーマーの、鳥羽アルエだよっ!」


「やあみんな! 演劇Vtuberリリシア・ランカスターだ。今日はいつもの三倍、いやそれ以上の愛を遍く世界に届けていけそうで、いまからわくわくしているよ!」


「どうも、七倉シオネです」


「というわけでっ! 今回は一周年記念あーんど、初のオフコラボ配信っ! わー、目の前にシオネもリリシアもいるよーっ!」


「準備やらなにやらで、前から散々顔は合わせてたけどね」


「けれど、こうして記念日当日に、皆に配信を届けながら話すのは、また違った感慨があるじゃないか。なにより、この新しい衣装!」


 ≪めちゃめちゃかわいい!≫

 ≪みんなでお揃いいいねえ≫

 ≪アイドルっぽい≫

 ≪ベースデザインが同じで、それぞれ微妙にテイストが違うのこだわりがすごい≫

 ≪これもSaYaKaママのデザインなんだっけ?≫


「そう! サヤカがデザインしてくれて、わたしのパパがアバターにしてくれたんだっ! ふっふっふ、これで二人とも、わたしの妹ということに……」


「ならないから」


「えーっ!?」


「私は大歓迎だよ、アルエ! アルエと姉妹だなんて、愛しかない! いや、アルエ姉さん!」


「やったーっ! 今日からわたしがリリシアのお姉ちゃんだよっ」


 ≪キマシ≫

 ≪姉妹愛、いいですね……≫

 ≪SaYaKaママもパパさんもマジでありがとう≫

 ≪この場合は義理の姉妹になるの?≫

 ≪これは愛ですね≫


「ちなみに今日は、パパさんも来てくれてるから」


 ≪いるの!?≫

 ≪待ってシオネの温度差www≫

 ≪重要情報なのに緩急すさまじすぎぃ!≫

 ≪パパさんもご出演!?≫

 ≪というかSaYaKaママもアルエと一緒にいるよね≫

 ≪パパママ揃ってんじゃん!≫


「そうっ、パパもいるんだっ! わーい、パパーっ!」


 ≪新衣装ありがとうございます!≫

 ≪ありがとう、そしてありがとう≫

 ≪パパさんの声も聴きたいー≫


「ふふ、パパさんも手を振ってくれているね。残念ながら声出しはNGとのことだが、こうして一周年の節目に新しい衣装をくださったこと、本当に感謝しているよ。もちろん、サヤカにもね!」


「本当にありがとうございます」


「見ててねパパっ、今日はすーっごく楽しい配信にしちゃうからっ!」


「授業参観かなんか?」


 ≪授業参観wwwwwwwww≫

 ≪確かにそれっぽいけどwwwww≫

 ≪めっちゃ手上げてアピールするやつ!≫

 ≪ほぼ小学生の鳥羽アルエ≫


「違うもん小学生じゃないもんっ! いま小学生ってコメントした人全員覚えたからね、あとで絶対ぎゃふんって言わせるからっ!」


「いやあ、アルエはぜひそのままでいておくれ……それと、パパさんからもコメントをいただいているので、読ませていただくよ。『アルエ、シオネ、リリシア、そしてファンの皆さん。【ふりーくしょっと!】結成一周年、本当におめでとうございます。違う色を持つ三人が起こす化学反応を、いつも楽しみにしていた身として、ユニットの節目にモデラーとして関わらせていただいたこと、心から光栄に思います。これから先に待っている、新しい世界を見せてくれること、楽しみにしています』」


 ≪真面目だ……≫

 ≪アルエのパパさんでいてくれてありがとう……≫

 ≪一緒に新しい世界みましょう!≫


「『追伸。サヤカママの旦那ですが、女なのでご安心ください』」


 ≪wwwwwwwwww≫

 ≪気配り!wwwwwww≫

 ≪ちょっと安心してしまった自分が情けない!≫

 ≪つまりその、SaYaKaママとパパさん(女性)の間の子がアルエなわけで……≫

 ≪アルエとSaYaKaママは同じ身体にいるわけだから、おy(ry≫

 ≪そういう話はヤメロマジで!≫

 ≪アルエの家庭環境複雑すぎない?≫


「パパさん、本当にありがとうございました。いやあ、それにしても一周年か。皆に愛を届けたい一心でここまで来たけれど、思い返すといろいろあったね」


「確かに。特にこの数週間ね。誰かさんの周りでばっかりね」


「うぐ……本当にその節は……ご迷惑をおかけしました……」


 ≪やめたげてw≫

 ≪怒涛の一か月だった気がするわね≫

 ≪アルエはもともとびっくり箱みたいなところあるから!≫

 ≪いやー、全部笑って話せるように終わってよかった≫

 ≪いろんなV見てきたけど、予想外過ぎる展開だったわ≫


「なに、私はむしろ良かったと思ってるよ。一連の出来事のおかげで、私たちの間の愛はいっそう深まったと感じているよ」


「そりゃ、気兼ねとかしてるどころじゃなかったから。まあ、いい機会だったんじゃない」


「……うんっ! わたしも、こうして二人といっぱいお話できるようになって、すごくうれしいよっ!」


 ≪イイハナシダナー≫

 ≪困難が絆を深めたのだ!≫

 ≪腹割って話さざるを得ない状況ばっかりだったからなあwww≫

 ≪そういえば今SaYaKaママはどうしてるのかしら≫


「さて、これまでのことに思いを馳せたところで、そろそろ私たちのこれからの話をしていこうか。アルエ、お願いできるかな」


 ≪お?≫

 ≪これからのこととな≫

 ≪発表かな?≫


「はーいっ! 重大はっぴょーう!! これまでわたし、シオネ、リリシアの三人で活動してきた【ふりーくしょっと!】だけど……」


 ≪これは≫

 ≪ま、まさか≫

 ≪どっちだ……(ごくり)≫


「なんと今日から、新メンバーが加わることになりましたーっ!」


 ≪な、なんだってーっ!?≫

 ≪なんだってー!!≫

 ≪新メンバー!!?!!?!?≫

 ≪マジで≫

 ≪え、だれだれ≫


「それじゃ、さっそく挨拶してもらおうかなっ! どうぞっ!」


 ≪お?≫

 ≪んん?≫

 ≪アルエが、メガネを!?≫

 ≪眼鏡だ!≫

 ≪待ってまさかwwww≫


「こ、こんにちは……はじめまして、じゃない人もいるかもだけど、その、サヤカ、です。え、これ入ってる? 喋れてる?」


 ≪SaYaKaママだあああああああ≫

 ≪マジで!??!?≫

 ≪SaYaKaママが新メンバー!?≫

 ≪どういうことなの!!!!≫


「え、あ、待って待ってやっぱ無理ごめんなさい私なんかがしゃしゃり出てすみませんちょっと待ってほんとこれなに言えばいいのアルエ!」


 ≪落ち着いてwwwww≫

 ≪娘に助けを求めるwwwww≫

 ≪ゆっくりで大丈夫だよー!≫

 ≪ほんとに別人なんだよなあw≫

 ≪あ、メガネ外した≫

 ≪そこで切り替えてるのw≫


「大丈夫だよサヤカっ、みんな見守っててくれてるからっ!」


「そうとも、ここはみんなの愛にあふれた場だから、安心しておくれ」


「ほら、深呼吸して」


「う、うん……ええと。あ、改めて、これからアルエの交代人格Vtuberとしてデビューすることになった、サヤカです。よろしくお願いします」


 ≪わーよろしくー!≫

 ≪ようこそこちらの世界へ!≫

 ≪交代人格Vtuberとか初めて聞いたwww≫

 ≪どうしてそうなったの?w≫


「いろいろ話し合った末なんだけど……リアルな話として、私とアルエは、二重人格って形で身体を共有しています。これまではVtuberとして、イラストレーターとして、お互いに時間を譲り合って活動してたんだけど、今後もっと活動の幅を広げていくのに、別々に時間を作るよりも、一緒に活動したほうがいいんじゃないかって結論になって……」


「だからこれからは、わたしとサヤカ、二つの人格を持つVtuber兼イラストレーターとして活動していこうと思ってるんだっ! どう、かな……?」


 ≪なにそれめちゃめちゃ面白い≫

 ≪これからはアルエの配信にSaYaKaママも一緒に出るってこと?≫

 ≪いいと思います!≫

 ≪ひとつの身体に二人のVtuber……わかるかこの意味が!≫

 ≪新しいVtuberの誕生を見ている≫


「ほらっ、みんないいって言ってくれてるよっ!」


「うああぅぁ……その、喋るのはそんなに得意じゃないので、基本は裏方してるから!」


 ≪なんでwwww≫

 ≪出てきてー!w≫

 ≪リアルだとSaYaKaママが主人格で、配信だとアルエが主人格な感じ?≫

 ≪お絵描き配信とかしますか?≫


「あっ、そうそう! 配信だとわたしの身体がメインだから、わたしの中に推しがいる! って感じなんだっ」


「確かに普段と逆の感覚かも。い、一応リアルでもイラストレーターとしていろいろ進めてて、今後発表できることもあると思います。あ、お絵描き配信はしてみたいな」


 ≪うおー! 楽しみ!≫

 ≪すごい、どんどん新しい世界に踏み込んでいく≫

 ≪○○Vtuberって肩書はいろいろ見たけど、これは新しい≫

 ≪イラストレーターとしての時間にはアルエは関わるの?≫

 ≪まあVとして配信で描くのは広報活動になるかしら≫


「なんとっ! わたしがモデルをしたりしてます」


 ≪どういう状況wwwwwww≫

 ≪交代人格見えてるの!??!?!?!?≫

 ≪二重人格ってそういうのだっけ?wwww≫


「というわけで、これから【ふりーくしょっと!】は四人で活動していくから」


「これでまた、世界に届けられる愛が増えていくね。よろしくお願いするよ、サヤカ!」


「いっぱいみんなに”楽しい”を届けようねっ!」


「うん、観てくれてるみんなも、よろしくね。もちろんユニットの公式イラストレーターとしても、いっぱい活動していくつもりだから」


 ≪よろしくーっ!≫

 ≪配信楽しみにしてます!≫

 ≪そうだった公式イラストレーターだった≫

 ≪そう考えるともう一員みたいなものだったかも≫

 ≪っていうか衣装デザインとかありがとう≫


「それじゃあっ、サヤカのお披露目も済んだところで、次の大発表っ! ここからはシオネ、おねがいっ!」


「はいはい。えーと、新曲作りました」


 ≪そんなあっさりと!?wwww≫

 ≪新曲だあああああああああああああ≫

 ≪やったーーーー!!≫

 ≪もっと発表もったいぶっていいのよwwwwww≫

 ≪相変わらずクール過ぎる……≫


「今回は、ユニット曲に初挑戦です」


 ≪マジで!?!!?≫

 ≪すげえええええええ≫

 ≪じゃあ全員歌うんですか!?≫


「そうっ! わたしたちみんなで、一緒に歌ってるよっ!」


「同じ曲を一緒に練習して収録するのは、とても新鮮な体験だったね。それに曲には、シオネのユニットに対する愛が詰まっていて、歌うのも本当に楽しかった!」


「いいからもう、流そうよ」


 ≪照れてる≫

 ≪シオネ照れてる≫

 ≪照れシオネ≫

 ≪待って! もっと話を聞かせておくれよ!≫

 ≪SaYaKaママも歌ってるの?≫


「照れてないから」


「あ、えっと、ほんとに恐縮ながら、私も歌わせてもらってます。でもリリシアの言う通り曲が本当によくって、メンバーそれぞれの特徴や進む先への希望が籠められた歌詞がふりしょのこれまでとこれからを思わせてイラストも描かせてもらったんだけど次から次へとイメージが湧いてくるからどこを切り取ろうか本当に悩んで」


 ≪待って待って待ってwwwww≫

 ≪その話は曲を聴いてから聞きたいwwww≫

 ≪めっちゃ語るやん≫

 ≪わかった、SaYaKaママ完全に俺ら側だ≫

 ≪オタクの早口長文過ぎる!wwww≫


「あああああああごめんごめんなさいほんとすみません黙ります大人しくしてます」


「はあ……それじゃ、流すよ。聴いてください」


『FREEK'S WAY』


 画面が切り替わり、イントロが流れ始める。


 ポップでアップテンポなメロディに乗せ、三人がそれぞれに活動を始め、やがてユニットとして合流していく様を描いていく。これから先へ続く未来へのきざはしを登っていく。少し遅れて、私もそこに入れてもらう。ギリギリでの追加収録だったが、アルエがこの身体で練習していたこともあってか、どうにか形になっているのではないだろうか。


 イラストも、土壇場で筆を加えることになった。三人しか描いていなかったイラストに、急遽もうひとりのアルエ……つまり私を描き加えることになった。おかげで少し寝不足なのは内緒だ。


 流れる曲を聞き、コメントの感想を見ながら、みんなの顔を見回してみる。シオネも、リリシアも、アルエも、真央も、みな満足そうに聞き入っている。


 きっと鏡を見れば、私も同じ顔をしているのだろう。


 これから先の私たちがどうなるかは、まだわからない。二重人格Vtuberになにが出来るのか、四人になったユニットになにができるのか。そして、先日正式に受託が決まったソーシャルゲームのキャラクターデザインも、手掛けていかなくてはいけない。なにもかもわからないことだらけだ。


 それでもひとつ確かなことがある。目の前にあるのは、曲がりくねって、いびつで、おかしな道だけれど、それでも先へ続いていること。そして私はこれからも、私が大好きなみんなと一緒に、この道を進んで行きたいと思っていること。


 それさえわかっていれば、大丈夫だ。きっと私は進んで行ける。みんなと、もうひとりの私と手を取り合いながら。


※※※


 ひとまず完結です。ありがとうございました。感想お待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る