道路に落ちていた未確認飛行物体

なめらか

道路に落ちていた未確認飛行物体

 心地よい風が吹く夏のある日。コンビニでアイスを買って帰る途中、道路に見慣れないものが落ちていた。スイカを半分に切ったみたいで、近づくとやけに甘ったるい匂いがする、不思議な物体。好奇心から目を凝らしてよーく見てみると、和服を着たチンアナゴのようなものが一匹くらい近くに浮いているみたいだった。ついついその部分をより目を凝らして見つめていると、そのチンアナゴがこちらに近づいて来たような…いや、確実にこちらへ来ていた。細長い身体をゆっくりとくねらせて、此方へ。急いでその場から離れようと思ったが、脚がすくんで動かない。


(このまま私はどうなってしまうのだろうか………というか、未確認生物と接触して無事に帰れるのだろうか…)


そう思っているうちに、その長っぽそい生物は私のすぐ近くにいた。そしてその生物は音を発した……


「あー、えーと、テストテスト。通じてる?この言葉がわかりますか…?」


すごく、分かりやすい発音で。


「通じてる通じてる〜…って、えぇ!?チンアナゴが喋ってる!?」


 割と軽く語りかけて来た。話しかけてきた。


(え、何!?言葉で油断させる系!?)

「えーと、驚かせてしまってすみません…大丈夫です、害意はないです。安心してください…」

「安心しろって怪しい奴に言われて安心できるかぁっ!てか心読まれた!?」

「えーと、えーと…まぁ、はい…」

「マジすか」

「マジです。それは置いておいてお願いしたいことがあるのですが……」


気の抜けたやりとりだ。果たして私が見ているのは現実なのか、夢なのか分からなくなりそうだった。意外と未知と遭遇してもなんともないのが不思議だ。


「なんだ、実験体にする気か。私は割と不健康だから役に立たないぞ」

「あ、いや、そういうのじゃなくて…」


 相手を困らせてしまった。申し訳ない…

(嫌でも謎の生物だしなぁ…しょうがない…よね?)

そう心の中で言い訳しつつ、申し訳無さと不安で心の容量を半分こしている。


「えっと、心配には及びません…私、宇宙人なんですけど…」

「あ、宇宙人なんだ。」


衝撃だ。というか、宇宙人が自分で宇宙人というのはフィクションではなかったのか。ノンフィクションだったのか。そもそも宇宙人が…


「えーと、考え事中すみません。そこに落ちている半球型の宇宙船、燃料不足で落ちてしまって…此処でいう糖類があれば動きそうなんですけど…」

(メルヘンだな…甘いもので空が飛べるって…)

「どうして燃料不足に?なんかしっかり必要な燃料の量とか考えてから飛ぶと思うけど…」

「途中で燃料漏れが起きてしまいまして。やっぱり点検って大事ですね〜…」


のほほんとした顔でチンアナゴ(仮)は語る。なるほど、通りでここらへんに甘い匂いが漂ってるのか。


(と、いうか……点検なしで飛ぶとは一体どういう了見なんだ……)

「なので、甘いものを所持しているのなら提供して下さると有難いのですが……」


袋の中にはアイスクリームが一個。暑い中溶けてしまいそうで買ってきた一品。渡すには惜しい、惜し過ぎる。私にとっては蜘蛛の糸よりも有り難い品。しかし、炎天下で彼を放置していくのも可哀想である。アイスならまた買ってくれば良いけど、目の前のチンアナゴが熱中症で死んでも戻せない。それに、多分彼は甘いものを買うための地球の通貨なんて持ってないだろう………


(しょうがない)


ここは優しい私が助けてあげるべきではないだろうか。


「いいよ。このアイスクリーム、持っていきな。」

「良いんですか!?ありがとうございます!このご恩、返すことができたら返します!」

(忘れないか、必ず返しますじゃないのか。そこは)


目の前で、アイスクリームを買ってもらった子供のように飛び跳ね…いや、身体をくねらせている和服の生物はステップっぽいくねり方でスイカのような物体に近づいていった。

 スイカに辿り着くと、それについた切り込みを開け、私のあげたアイスをスイカにぶち込んだ。するとスイカから唸り声が上がり始めた。アイスクリームひとつで動くんだ。どうなってるんだろう。


「ありがとうございました〜、これで帰れます!では、さようなら〜」

「そう言っているうちに飛んで行ったりしないのか…?」

(それに、燃料が漏れてここに来たって言ってなかったか…?)

「「あ。」」

 その瞬間、スイカが唸りを上げて空へ飛び立った。下の地面にアイスクリームの甘い液を落としながら。近いうちに落ちるんじゃないだろうか。

 それよりもまず、帰る足を失ってしまったチンアナゴだ。結構ショックを受けてるみたいだけど大丈夫だろうか。めっちゃさようならな雰囲気を漂わせていたのに帰れなかったし。


「あー…えーっと…大丈夫?」

「これじゃあ帰れない……私は一体どうすれば…」


案の定、めっちゃ落ち込んでいた。そりゃぁそうだ。しかし、私は宇宙船を開発できるわけでも、彼を故郷に連れていくことができるわけでもない、ただの人である。一般人である。路端の石ころである。彼に対して出来ることはない。


「あー…わ、私はこれでー…御愁傷様……」


ショックを受ける彼を置いて、そのまま私は家に帰った。

(変なこともあるもんだ)

きっと、あまりの暑さに見た幻覚だったのだろう。気にすることなく、というか気にしないようにしつつ、家へと舞い戻った。

次の朝起きると、居間から何か音がする。料理をしているようだ。しかし、私にそんな同居人はいない。恐る恐る、居間にいると思われる不法侵入者を確認しにいくと……


昨日のチンアナゴがいた。そうだ、帰れなかったもんな。


「てかどうやって入った。魚なのに普通に料理出来るのか。てか宇宙人…」

「まぁ、それは置いておいて……お邪魔してます。」


帰れなかったから、近くにあった私の家に居候する事にしたらしい。何故だ。


 私の家には、未だに謎の生命体が暮らしている。人と同じように生活をして。

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