第5話 おまけ②【師弟】

ルーズリベラル

師弟



 おまけ②【師弟】




























 「・・・・・・」


 ガキを拾った。それも、可愛くねえガキ。


 愛想も無けりゃ目つきも悪い。


 懐きもしなけりゃ泣きもしない。


 「おい、坊主」


 「・・・・・・」


 「そんなもんで俺を殺せると思うなよ」


 「・・・・・・」


 そもそも、喋れるのかさえ分からねえ。


 幾つなのかも知らねえ。


 今このガキは、俺に刀を向けている。


 そんな何処で拾ったと言やぁ、多分その辺からかっぱらってきたんだろう。


 生意気な目ぇ向けやがって。


 俺はガキのことなんか気にせず、飯を食った。


 ガキは腹を空かせてるくせに、俺に隙を見せたくねえのか、座ろうともしねぇ。


 ぐーぐーと腹の虫が鳴いても、ガキは俺を睨みつけることを止めねえ。


 なんだってんだ、ったく・・・。


 俺が飯を食い終えて、昼寝でもしようかと思ったが、ガキが気になって眠れねえんで、散歩に行くことにした。


 案の定、ガキは俺についてくる。


 そもそも、なんでガキを拾った俺が、拾ったガキに警戒されなきゃならねんだ?


 まあ、今はそんなこと考えてもしょうがねえから、欠伸でもするか。


 ちょこちょことついてくるガキ。


 俺は適当な場所に座って、足元にある石ころを拾い上げて、それを落ちてくる葉っぱに当てるというなんとも寂しい遊びをしてた。


 季節でいやぁ秋だ、落ち葉が丁度良い。


 これから寒くなるんだなぁ、また朝起きられなくなるんだろうなぁ、なんて考えながらもずっと石ころを投げ続けてたら、俺の後ろから何かが飛んできて、それが見事にひらひら舞っている葉っぱに当たった。


 「・・・上手いじゃねえの」


 どうやら、ガキが投げたものらしい。


 ガキが投げてるとは思えないほど、その的中率は高かった。


 敵を捕えるのが上手い、と言いたいところだが、相手はガキだ。


 俺みたいに薄汚れた人間にならないためにも、そういうことは言わないでおこうと思った矢先、嫌な気配を感じた。


 ザザザ、と数人の忍者のような格好をした男たちが俺達を取り囲んだ。


 1人の男が、ガキの腕を引っ張って人質にしやがった。


 ガキはこう言う時、騒いだり大泣きしたりするんだろなと思っていたが、そのガキは一切騒がなかったし、泣きもしなかった。


 だが、怯えていたことだけは分かった。


 「俺に何か用か?」


 「頭がお前を呼んでる。ついてこい。さもないとこのガキを殺す」


 「頭?知らねえな。それに、用があるならてめぇで来いって伝えな」


 「このガキがどうなってもいいのか」


 「勝手にしろよ。別にその辺で拾ったガキだ。俺には関係ねぇからよ」


 誰だこいつら、と思った。


 俺はこいつらのことなんざ知らねえし、知ってたとしても、この暮らしを変えるつもりなんざなかった。


 「ならば、力付くで連れて行く」


 「やってみな」


 男たちが一斉に飛びかかってきたもんで、俺は足元の石を拾って、男の1人に当てた。


 それから、蹴ったり殴ったり、まあ、簡単に言えば暴力だ。


 あまり無駄な体力は使いたくなかったが、仕方ねぇ。


 あとは、ガキを捕まえてる男だけになった。


 ガキの首元に短刀を押し当ててやがるから、ガキの首は少し斬れていて、そこから血が薄らと出ていた。


 それでもガキは、泣いてなかった。


 「どうした?さっさと殺せばいいだろ?俺もそんなガキ、邪魔でしょうがなかったんだ」


 ただでさえデカイ目を、これでもかってくらいまで見開いて、まるで俺がガキを裏切ったみたいな顔しやがった。


 「どうした坊主、そのまま殺されれば、楽になれるぞ」


 だから、試してみた。


 「この世界じゃあ、助けを求めるだけじゃ生きていけねえんだよ」


 こいつの命を。


 「死人みてぇな面しやがって」


 そしたら、ガキは悔しそうに自分の唇を思いっきり噛みしめたもんだから、そこからも血が出始めた。


 俺のことを目いっぱい睨みつけてから、ガキは自分の身体の自由を奪っている男の腕に噛みついた。


 ガキの力とは言え、これは痛い。


 男の腕が緩んだ隙に、ガキはそこから逃げ出した。


 男はガキに向けて短剣、ではなく、毒が塗ってある細長いクナイのようなものを投げてきた。


 ばさっ、と音を出して倒れたのは、男の方。


 俺が石ころで男の手元を狂わせて、もっといえば倒れてる男の懐から盗んで・・・いや、借りておいた同じ毒の塗ってあるソレを投げたから。


 ピクピクと痙攣しているのが分かるが、俺はガキを肩車して、そこから消えた。


 「やれば出来んじゃねえの」


 「・・・・・・」


 相変わらず、可愛くねえガキだが。


 「もしかして、俺が言ったこと怒ってんのか?けどな、生きようとも思わねえ奴を、俺は助けねぇからな」


 「・・・・・・」


 俺の髪の毛を強く掴みやがって。


 これだから、ガキはよく分からねえ。


 家に帰ると、多分別の男たちによって焼き払われていたもんだから、しょうがねえかと諦めて、旅をした。


 「失ったもんをいつまでも追うな」


 「・・・・・・」


 大人しくなりやがった、と思ったが、俺の頭の上で寝てやがった。


 そんな不安定なところで寝るなと思ったが、そのままにしておいた。


 少ししてから気付いたのだが、ガキの奴、寝るのは良いとして、俺の頭に涎を垂らしてやがった。


 空家がすぐ見つかったから、ガキを寝かせて頭の涎を急いで拭った。


 まあ、こう見えても一時期はトレジャーハンターとして稼いでいた俺だが、最近はたまにしかやらねえ。


 モラルも礼儀もあったもんじゃねえ奴らが増えたからだ。


 だから俺は何度も止めたんだ。


 もっと真っ当な路があるのだからと、この世界だけが全てじゃないぞと。


 何度も何度も言って止めたんだ。


 それなのに、すくすく育ちやがったあのガキは、俺と同じ路を選びやった。


 図体ばっかりでかくなって、中身はどうなったのかなんて、知ったこっちゃねぇ。


 俺のもとから離れて、どのくらい経っただろうか。


 コンコン・・・


 「・・・・・・」


 ほとんど誰も来ることのないこの場所で、ノックが響く。


 俺は浴衣のまま扉に近づく。


 開けた途端、額に銃を向けられて、良い気分なわけねぇだろ。


 一体何の用かと聞けば、ガキについて詳しく聞きてぇとかで、そんなもん本人に聞けよと言ったが、当の本人が見つからないそうだ。


 どうして追ってるのか、その俺の質問には答えねぇくせに、得たいものだけを得ようなんざ、これだからお役所仕事の奴らは嫌いなんだよ。


 だいたい、話しを聞きてぇなら、銃なんざ向けていいと思ってんのか。


 俺は丁重にお断りをしたんだが、奴等は納得しなかったようで、俺に向かってきやがったんで、そこは正当防衛で返り打ちだ。


 それからも、何度か同じような奴等がやってきたが、その度に俺は良い運動をすることとなった。


 コンコン・・・


 またノックが聞こえたが、ノックをしているのが誰か分かった俺は、あえて出なかった。


 すると、勝手に扉は開いて、そこには図体だけでかくなった野郎が立っていた。


 「何だ」


 「師匠にまで迷惑をおかけしたようで、すみませんでした」


 そう言って、頭を下げやがった。


 あんなに死にかけてたガキが、今じゃやる気の無い目ん玉の奥に、何かぎらぎらしたもん持ってるから、俺は面白い拾いもんをしたって思ってる。


 「別に気にするほどの事じゃねえよ」


 俺は師匠になんざなった心算は一ミリもねえんだが、こいつがそう呼ぶもんだから、もう勝手に呼ばせてる。


 俺が好きな酒を持ってくるところは、俺よりも気が利くと思う。


 煙草も吸わねえし、酒も飲まねえ。


 それで人生楽しいのか聞いてみたら、趣味があるからそれなりに楽しいらしい。


 なら楽しい顔をしろと言ったんだが、多分、こいつはこれでも楽しい顔をしている心算なんだろう。


 夕方には帰って行ったが、どうやら、相当面倒なことに巻き込まれていたらしい。


 まあ、俺が言うのもなんだが、あいつは器用だから何でもそつなくこなすだろう。


 感情に流されることもないから、組織からしてみりゃ良い犬なんだろうが、あいつは犬には向かねえ。


 なんてったって、あいつが持ってる牙は、犬っころなんかよりももっと鋭くて、でかい。


 首輪をつけて可愛らしく散歩なんざ出来るほど、あいつを忠実に動かすには、動かす奴の人間性が問われる。


 飼うのが難しい、というか飼うなんざ無理な話だ。


 「ったく、誰に似たんだかな」


 あいつは、この世の全てに裏切られて生まれた。


 それでも、誰も恨まず裏切らず、ずっと信じて待ってるんだ。


 ―自分を呼ぶ、その声を。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルーズリベラル maria159357 @maria159753

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る