第4話 おまけ①「ルート」

ルーズリベラル

おまけ①「ルート」



 おまけ①【ルート】




























 少年は、小さな村で生まれた。


 名を、”ジーノ”と言う。


 田畑を耕しながらの生活は、贅沢は出来なかったが、毎日が平和だった。


 いや、そもそも、贅沢という言葉を知らなかったのかもしれない。


 とにかく、それだけで良かった。


 多くを望まずとも生きていけるのだからと、質素な暮らしに感謝しながら生きていた。


 少年が10になった頃だろうか。


 それは、突然訪れた。


 草木も眠る丑三つ時、自然を目が覚めた少年は、何やら外が騒がしいことに気付いた。


 覗き見るようにして外に視線を向けると、村を包み込むような業火と、その中で逃げ惑う村人たちが見えた。


 それはまるで踊り狂っているようにもみえるが、それとは違う。


 目の前を通る影と、その影を追いかける影。


 切り裂かれた影は、力無く地面へと倒れ込んで行った。


 少年は思わず身体を後ろに動かし、両親に助けを求めようとした。


 少年の両親も、周りの様子を窺いながら、なんとか逃げるタイミングを見計らっていたようだ。


 両親は少年の腕を掴み、一斉に走り出した。


 だが、待ちかまえていたかのように、そこには男たちが立っていた。


 両親の背中越しに見ていたその男の顔は、人間とは思えなかった。


 まるで闇に浮かぶ三日月のような笑みで、まるで地獄へと誘う死神のように。


 あっという間に、両親の身体からは、鮮血が流れ出るように溢れだし、少年の手を握っていた大きな手は、離れてしまった。


 男と目が合った少年は、そこから先、何があったか覚えていない。


 ただ無我夢中で、一心不乱で。


 村ではない何処かに辿りついていて、少年はしばらく見知らぬ土地で暮らした。


 暮らしたとは言っても、子供1人で生きていける場所などなく、ゴミを漁ってそこから何とか食べられるものを口に入れていた。


 それから少しして、少年は村へ戻った。


 覚えていたわけではない、ただ、身体が動く方へと足を動かしていただけだが、そこは確かに自分がいた村だった。


 すっかり、焼け野原となってしまっていたが。


 子供ながらに、みな死んだんだと悟った。


 だから、数日かけて、全員のお墓を作ろうと思った。


 石に文字を刻むのは結構大変なことで、結局、全部のお墓を作るのに、一カ月以上かかってしまった。


 いや、もはや時間なんて分からなかったのかもしれない。


 なにしろ、少年の時間は、あの時すでに止まってしまったのだから。








 少年は大きくなり、青年となった。


 名を変えながら、色んなところを渡り歩いていた。


 その日青年は、世界的に有名な古代遺跡へと足を向けていた。


 興味があるのかと聞かれると、ない。


 では、どうしてこんな場所に来たのかと言うと、なんとなく、だろうか。


 一攫千金を狙う者達が何人も訪れたそうだが、その度に、まるで呪いのように次々亡くなって行くという不穏な噂のある場所だ。


 ただ遺跡の近くに腰を下ろし、ぼーっとしていた青年の耳には、どこからかの叫び声が聞こえてきた。


 だがまあ、他人だから放っておこうと思っていると、そこへバイクに跨った男が1人、やってきた。


 茶色の髪には赤いターバンを巻き、カーキ色の上着を羽織っていた。


 男は叫び声が聞こえているにも関わらず、マイペースに銃を背負い、リュックを背負うと遺跡の入り口へと向かった。


 頬杖をついて見ていると、その入り口兼出口から、1人の男が走ってきた。


 多分、先程叫んでいた男だ。


 わーわー叫んで、物凄い形相でそこから出てきたため、入ろうとしていた男はひょいっと避けた。


 勢い余ってこけてしまった男だが、すぐさま目の前の男の服を掴んで、助けてくれと言っていた。


 「!」


 男に服を掴まれていた男、ああ、もう分からなくなるから、このマイペースな男はバイクマンと呼ぼう。


 このバイクマン、何かに気付いたらしく、男を掴みあげると適当な場所に投げ捨てた。


 すると、大きな物音を立てて、遺跡の中から奏でた音に匹敵するくらい大きなムカデが現れた。


 通常のムカデと比べれば、10倍以上、確実にあるだろう。


 男は小便をちびりながら、気絶してしまったらしい。


 青年はというと、助けることもなく、ただそこからバイクマンがどうするのかを観察することにした。


 幾らなんでもあれをどうにか出来るわけないだろうと思っていると、バイクマンは徐にリュックを前に持ってきて、そこから何か手に収まるくらいの黒いものを取りだした。


 そして指で何かを引っ張ると、その黒いものをムカデに向かって投げた。


 口の中でキャッチしたムカデは、それを飲み込んだ。


 瞬間、バイクマンは駆けだしてバイクに跨り、一気に走った。


 同時にムカデのお腹の中で何かが爆発し、ムカデはよろよろとしていたのだが、それだけではなかった。


 徐々にドロドロとした液体へと変わっていったムカデは、その姿だけを消してしまった。


 青年がいるところくらいまでの離れた遺跡の影まで来ていたバイクマンは、それを確認したあと、別の入り口からその遺跡へと入って行った。


 そしてしばらくしてそこから出てくると、バイクマンの手には何やら古いものがあり、それを手で綺麗にすると、リュックへと押し込んでいた。


 バイクマンがバイクへ戻ろうとしたとき、気絶していた男がタイミング悪く起きてしまって、バイクマンに喧嘩を売っていた。


 いや、お前助けてもらったんだろうに、と思ったが、青年はただ見ていた。


 男はバイクマンに何やらいちゃもんをつけているようだが、バイクマンは未だ一言も話してはいない。


 それに痺れを切らしたのか、男はバイクマンの胸倉を掴みあげようとしたのだが、バイクマンの方が背が高くて、想像していたようなものにはなっていなかった。


 バイクマンは気だるげにため息を吐くと、男の額に頭突きをした。


 男は胸倉を掴んでいた腕を離し、くらくらと足元をふらつかせながら後ろへと後ずさっていた。


 バイクマンは気にせず足を進めるが、男は尚もバイクマンに突っかかる。


 どうやら、遺跡の中から持ってきた価値なる何かを渡せと言っているようだが、助けてもらっておいて欲しい物まで手に入れようなんて、なんて浅はかな奴だろう。


 あまりにしつこい男に、バイクマンは手加減しなかった。


 男の腹に一発入れると、男はその場に倒れてしまった。


 バイクマンはバイクに跨ってアクセルをふかせながら、青年を見た。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 互いに互いを見ていたが、その時は特に何も話さなかった。


 背中を向けて去って行くバイクマンに、青年は同じ匂いを感じた。


 男が目を覚ます頃を見計らって近づけば、先程の男を赦さないとか、またわけのわからないことを言っていたため、さっきの奴を知っているのかと聞く。


 「知らねえよ!!だが、きっとありゃあ、“タカヒサ”だな」


 「タカヒサ・・・?」


 「ああ。タカヒサってのは、縄張りなんか気にしねえトレジャーハンターだ。くそ!ここは俺の縄張りだってのに」


 「縄張りって、そんなのあるんだ。でも、ここって何人もの奴が死んでるとこだろ?」


 「だから、死ぬから縄張りじゃなくなるんだよ。俺の新しい縄張りなんだよ。なのにあいつ・・・!!」


 「・・・・・・」


 もう面倒臭いから、男をもう一度気絶させた。


 タカヒサという、その世界では有名な男のようだ。


 銃の腕前も、バイクの腕前も、超一流。


 だからこそ、タカヒサを味方につけようと考えている輩が多いようだが、幾ら金を積んでもタカヒサは誰にもつかない。


 故に、タカヒサをよく思わず、敵視する連中が増えてきたとか。


 まあ正直、青年にとっては全く関係ないことだった。


 だが、興味を持った。


 「タカヒサ、ね」


 もう一度会う事があれば、その時は。


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