テラス席をご希望ですか?
寛ぎ鯛
浅草×パリス~テラス席をご希望ですか?~
連日の猛暑日が続く中、熊次郎とパリスは琵琶湖の畔へとやって来ていた。ここは琵琶湖の湖東側、近江八幡市。今回の2人の目的地は「シャーレ水ヶ浜」と呼ばれる湖畔カフェだ。元来お洒落なものに引き寄せられるパリスがかねてより気になっていたカフェである。
熊「にして、あっついなぁ~。気温35℃だってよ。」
パ「夏だからね。」
熊「俺らがガキん頃の夏はこんなに暑くなかっただろ~。
パ「どうかな、幼少期は日本じゃないから、日本の夏は分からないなぁ。」
熊「ちぇ、ぜってぇこんな暑くなかった!」
冷房をつけているはずの車内で団扇をパタパタさせながら熊次郎が気温に向かって文句を言っている。パリスは何も言わず、運転席側にもある送風口の一つを助手席側に向け、風量の設定を一段階上げた。
車道の左側には巨大な湖が構えていた。そう、日本最大の大きさの湖、琵琶湖である。パリスと熊次郎は滋賀県に来ることは初めてであったが、琵琶湖の存在は知っていた。県の真ん中に鎮座する大きな湖は基本的にどこからでも視認できるほど大きい。もはや海である。
熊「おっ!あれじゃねぇか?!」
熊次郎が突如ポツンと現れた建物を指差す。どうやら目的地の湖畔カフェに到着したようだ。
砂利の駐車場に車を停めて、車外に出るとそこは驚くほど涼しかった。山の木々で陰になっているところへ、湖からの風が心地良い、何よりほかに何もないためとても静かだ。荘厳な雰囲気を纏う石階段の向かいに、緑の玄関アーチを構えた石造りの建物。シャーレ水が浜だ。
店内に入ると、大きな薪ストーブに目を引かれる。今は真夏であるため使われてはいないが、おそらく冬は店内を温かくしてくれる代物だろう。薪が燃えるとろ火を眺めながら、コーヒーとケーキをいただくなんて、と瞬時に妄想を膨らませるパリスの元に従業員の方がやってきた。
「いらっしゃいませ~。ただいま、冷房が効いてないんですけど眺めのいいテラ ス席とこちらの室内のお席、両方ご用意できますよ。」
熊「じゃ、室n」
パ「テラス席で。二名お願いします。」
熊次郎が口を開けたままパリスを眺めている。従業員も熊次郎が何か言っていたのを聞きながらその様子を伺いつつ、少し強張った笑顔で、「テラス席へどうぞ~」と案内を始めた。
絶景であった。
テラス席は崖にへり出すように作られており、周りに遮蔽物がない。そのため空中から琵琶湖を望んでいるような感覚になる。湖からの風で冷房がなくても十分涼しい。熊次郎もパタパタ扇いでいた団扇をすっかりテーブルの上に置いている。
熊「すごい景色だな。あ、下の方に水鳥達が集まってるぞ。あそこ行けるのかな。」
熊次郎が目に入るものすべてを言語化してくれているが、一方のパリスは静かに椅子に腰かけて黙々と景色を眺めている。そんな様子を熊次郎はじっと見つめた。
物事の考え方や楽しみ方がパリスと自分とでは正反対な気がする、と熊次郎はいつも思っていた。だけど、パリスのこういう楽しみ方に憧れもする自分がいる。自分一人では絶対に行かないようなこんなお洒落な湖畔カフェもパリスと一緒だから経験できるのだ。
しみじみとそんなことを考えながら運ばれてきたケーキセットを口に運びつつ琵琶湖を眺めた。パリスの食べてるチョコレートケーキも美味しそうだな、と思った矢先。
パ「はい。」
と一言言いながら、パリスがフォークに差したケーキを自分の口元に運んでくれた。変に意識してしまい、周囲をキョロキョロと確認し、周りに見られないようにと願いながらチョコレートを口にした。
目を開けると、いつものしたり顔でパリスがこちらをにやにや見ていた。
熊「あ、あっついな。やっぱ室内にすりゃよかったかな。」
熊次郎は思い出したように団扇をパタパタさせ始めた。それを横目にパリスは美しい琵琶湖を堪能していた。
テラス席をご希望ですか? 寛ぎ鯛 @kutsurogi_bream
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