第66話 決戦百鬼夜行。(その1)
真っ暗な道路の真ん中に立っていた。霧が立ち込めている。
カチカチと言う音が辺りに響く。
頭の中でぬらりひょんの声が響く。
「オンボノヤスと言う妖怪の霧じゃ。道を惑わせてくるぞ。」
「分かった。教えてくれてありがとう。」
俺は辺りを警戒する。
霧の中に空気の流れがある。何かが動いている。
「尻尾が見えた!空間認知発動。」
俺は尻尾を追いかけながら、神経を研ぎ澄ませる。
巨大なヤモリの様な輪郭を感じ取る。
俺は妖怪に向かって叫んだ。
「オンボノなんとか!俺はここだぞ!」
霧の中で大きな瞳が光る。俺に向かって突進して来た。
俺は全力で走る。東の方角、陰丸君が張っている結界へ向かう。
どこまで行っても霧の中だ。視界は完全に塞がれているが、空間認知のお陰で走り続けられる。置き去りにされた車を避けながら、妖怪を誘導する。
「結界まで遠すぎるな。」
俺は呟いて、空間転移を部分的に使う。
少し飛んで、走り、また少し飛ぶ。妖怪が俺を見失わない様に。
移動を繰り返すうちに、和田と左門時先輩、陰丸君の輪郭を感じ取る。
「霧の妖怪連れて来ちゃった!!ごめん!!」
俺は叫んで、部分転移を続けた。
「うわあ!」左門時先輩の声がする。
「何も見えないのだよ!」和田の声が聞こえる。
「つかささん!こっちです!」陰丸が遠くで両手を振って待っている。
「陰丸君!ありがとう!!」
俺は陰丸君目掛けて走る。
妖怪が口を開いて突進してくるのを感じる。
俺は上に空間転移をして避け、落ちる瞬間にまた転移して、妖怪の脳天目掛けて落下する。
「オラァァァ!!」
両足に柔らかい感触がある。ヤモリ妖怪は結界の上で気を失った。
濃い霧が晴れていく。
地面に張られた結界が白く光り、しばらくするとヤモリ妖怪は姿を消した。
「一体倒せた!」俺はガッツポーズする。
「凄いです!さすがアニキの認めた男!」
陰丸君は目を輝かせて俺に尊敬の眼差しを向ける。
「え?俺、野崎先輩に認められてたっけ?」
俺はキョトンとした顔で聞く。
「そうですよ!悔しいですけど、会うたびにつかささんは凄い奴だって言われるので、僕も認めざるを得ないです。」
陰丸君は悔しそうにそっぽを向いた。
「そ、それは意外過ぎる。なんか照れるなあ。」俺は顔を赤くして頭を掻いた。
陰丸君に睨みつけられる。さっきの尊敬の眼差しは何だったのか。
「僕はつかささんと一緒に行動します。和田さん達は既に三人組ですからね。」
陰丸君は着物の袂を整えた。
「ありがとう、助かるよ。」
【一方その頃、サソリさん。】
こんな危険な場所に坊ちゃまが一人で居られるなんて、心配で集中出来ない。
そんな事を言ったら、きっと坊ちゃまに怒られそう。
今はとにかく、さっさとこの妖怪達を片付けるのみ。
目の前にいるカマイタチとろくろ首、のっぺらぼう達を誘導するか。少々怪我をさせる程度はお許しを。
両手に拳銃を構え、足を狙う。
カマイタチは姿を消し、風が起きる。右腕が切れて血が出る。
「へえ。攻撃が見えないんですね。面白い。」
草や葉の揺れで、風を先に読む。両足で飛び、カマイタチを捉える。
引き金を引き、動きを止める。
後は、雑魚だけだな。
周りの妖怪達を銃弾一発で動きを封じる。
銃口に息を吹きかけ、ホルダーに仕舞う。
妖怪達の足を掴み、抱え、引き摺って持って行く。
結界の近くに、野崎君が居ました。
「おーい!連れて来ましたよー!」
野崎君は俺を見て冷ややかな目を向ける。
「おお、相変わらず強すぎるなァ。無鉄砲馬鹿。ここに置けば数分して勝手に消える。」
「了解でーす!」
大量に引き摺って来た妖怪達を結界の中に置くと、結果が光り輝いた。
「俺様は空を飛んでる雑魚を堕としてくる。テメェもあんま無茶して死ぬんじゃ無ェぞ!!」
野崎君は謎の機械で飛んで行った。
城の跡地にいる妖怪達を一掃し終わると、遠くのビルの窓ガラスが割れる音がした。
心配になり駆け寄ると、クモと玉藻前が戦っていた。クモはボロボロだが、顔はイキイキしていた。
相変わらずの変態クソ野郎っすね。
「おーい。クモ。時間かかり過ぎだぞ。」
俺は上を向いて、クモに声をかける。
「うっさいわ!!今良いとこなんや!!邪魔すんなや!!」
クモは瓦礫から起き上がり、頭から血を流しながら立ち上がる。
玉藻前はフワリと道路の真ん中に着地すると、高笑いをした。
「後少しでそこの白い成り損ないを殺す。そしたら、赤い成り損ない、貴様も殺してやる。ヒーヒッヒッヒッ。」
はあ。とても面倒臭い。
クモはとっくに限界を超えている。そのお陰で玉藻前の体力も削れているが、まだ倒すには至らない。
俺は大きなため息を吐き、片手で顔を覆い、クモに伝える。
「クモ。俺もほんっっとーに嫌なんですけど、共闘するしか無いっすよ。」
クモはビルから飛び降りて、俺の目の前に着地する。クモのが少しだけ背が高くてムカつく。
「手助けなんぞ要らん!!すっこんどれや!!」
「うるせぇ。頭から血ぃ流してるやつが粋がってんじゃねえぞ。テメェが死んだら、主人様が困る。勝手に命使ってんなよ。」
俺は睨みを聞かせてクモに言った。
クモはニヤリと笑った。その後腰に手を当てて大笑いする。
「アーッハッハッハァァ!!良い!!良い顔しとるぞ!サソリィィ!!さっさとあのババア倒して、わっちとやり合おうや!!」
クモは鉄パイプを構えて言った。
「はいはい。気が向いたら付き合ってやりますよ。」
俺はダガーナイフを二本取り出して構える。
「妾をまた侮辱するとは、許せん……許せん、許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん!!!!」
玉藻前は女狐の姿に形を変えた。鋭い牙に鋭い爪、鋭い瞳。
「あーあ。クモが煽るから本気出して来ますよ。アイツ。」俺は呆れた顔をする。
「アーッハァ!!さいっこー!!わっちらにかかれば、神をも倒せる!!」
クモはいつもそうだ。天然。マヌケ。捻くれ者。俺の事を虐めるのが楽しみなくせに、俺の事を無意識に認めてくる。
「取り敢えず、俺の事は狙わないで下さいよ。あんたに怪我された時が一番治るの遅かったんですからね。」
「ふん。もうそんなヘマせんわ。安心せえ。」
「安心出来ないから言ってるんだけどなあ。」
玉藻前は九本の尻尾火の玉を発生させ、容赦無く放つ。
俺とクモはそれを全て避けるが、火の玉は追尾して来た。
「クモ!!!」俺は叫んで大きく迂回しながらクモに向かって走る。
「分かってる!」クモも迂回しながら走り俺に向かって走る。
クモはスライディングして俺に突っ込む。俺はそれをギリギリの所でバク転して避ける。
お互いを追尾していた火の玉が互いにぶつかり、爆発して消滅した。
「ギェェエエエエ!!!」玉藻前が雄叫びを上げる。
四つん這いになり虫の様に駆け巡り、直接俺を狙ってくる。
左に飛んで避けるが、鋭い爪が右足を裂いた。
「いたたー。」俺は傷口を押さえる。
玉藻前は旋回し、口を大きく開けて突進する。
俺は玉藻前に向かって走り、スライディングして、巨体の下を潜る。玉藻前は走り続け、俺は体の下を通過。
「なーに遊んどんねん、どアホ!」
クモが俺に向かって叫んだ。
「うるさいなあ。遊んでる様に見えます?」
俺直ぐに立ち上がり、玉藻前の動きを見ながら走る。玉藻前は未だ俺を狙い続けている。
尻尾からまた火の玉を出して、全弾俺に狙いを定め放つ。
「うわ、ヤバそー。」
視界に玉藻前を入れながら、全力で走り、追いかける火の玉は熱さで距離を計算する。
「クモ!ビリヤード作戦!」
俺が叫ぶと、クモは眉間に皺寄せ首を傾げる。
「えーと、ビリヤードって分かります?」俺は念のため聞く。
「あ!あー!分かったわ!よっしゃ、やったんぞ!!」
クモは鉄パイプを槍投げの様に構え、俺の動きを見ながら走り出す。
俺は走りながら大きく迂回して、玉藻前を目指す。走りながらナイフを一本仕舞い、拳銃を一丁出す。右手に銃、左手にナイフを用意する。
玉藻前は後ろ足で立ち上がり、前足を上げ攻撃体制に入る。
俺は攻撃範囲に入らない様、玉藻前の頭上目掛けて飛び、空中で一発拳銃を撃つ。銃撃の勢いで、飛び上がりの勢いを殺し、そのまま玉藻前の真上に落下する。
玉藻前は大きな口を開けて上を向く。
「ナイスショットォォォ!!」
クモは大声で言いながら、鉄パイプを槍投げの様に放り投げる。
鉄パイプが俺の左脇腹に当たるのを見越して、ナイフで脇腹を防ぐ。金属のぶつかる音が響く。鉄パイプの勢いに押し出され、俺は空中で真横に勢いよくぶっ飛んだ。
追尾していた火の玉は玉藻前に直撃し爆発した。
「クモ、ナイスショットは棒が玉に当たってから言うんですよ。」俺は地面に足を擦り付け、勢いを殺しながら着地して言う。
大きな音を立てて鉄パイプが地面に落ち、転がった。
「そんなん知らんわ。はよ鉄パイプ返せ!」
俺は拳銃をホルダーに仕舞いながら立ち上がり、鉄パイプを拾うと直ぐにクモに投げ返す。
「あと少しですよー。」
俺はナイフを取り出し、両手で構える。
「早よ倒そうや!ほんで、わっちとやり合おう!!」
クモは鉄パイプをクルクルと振り回した後、脇に挟んで構える。
「はいはい。分かりました。」
テキトーに返事をして玉藻前に向かう。
クモは爆風による煙の残る風下へ、俺は風上に向かう。
玉藻前は前足を俺に向け、肉球から炎を噴射させる。左に避け、炎の上を飛び越え、右に避けを繰り返し、右往左往しながら距離を詰める。
前足を横に振り、噴射を止めると、口を開けて俺を狙う。初動の遅れから、敵の動きが鈍くなっているのが分かった。
「隙ありですよ。」俺は玉藻前の頭上に飛び上がる。
玉藻前が俺を見上げる一瞬の隙に、クモが鉄パイプを思い切り、左耳の大きな穴に突き刺す。
「グァァァァァァ!!!おのれぇ、おのれらぁぁ!!!」
左腕を振り被り鋭い爪でクモを狙う。
俺は頭上から体を捻りながら回転し、うなじの関節の隙間を狙って刃を通す。
「アッ……ア、ア。」
クモの頬に玉藻前の爪が触れて、そのまま地面に倒れ込む。
「やったか?」クモは頭の血を拭いながら言う。
「どうですかねぇ。今のうちに結界の中に入れましょう。」
俺は大きな玉藻前の尻尾を担ぎ、引き摺って歩き始める。
「おいサソリ!わっちとの勝負、が、まだ……。」バタン
クモはその場に倒れ込んだ。
「クモ!」俺は尻尾を離して駆け寄る。
普通の人間より丈夫だ。外傷を確認するが、致命傷になるものは無い。疲れて眠ってしまった様だ。
クモを俵抱きし、玉藻前の尻尾を掴み結界を目指す。
確か、何処かに救護班のいる野営地があったはず。
玉藻前を送り返した後、俺はクモを背負い直して野営地に向かった。
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