第65話 夜だね。全員集合。
「和田を助けられた事を左門時先輩に伝えよう。」
俺が提案すると、和田は言った。
「そうだったのだよ。左門時先輩と神社で喋っていて気がついたら眠っていたのだよ!」
「あのじょーきょーで寝れるのすごいよなあ。」ひゅうがは笑いながら言った。
「まあ和田だからな。」りんのすけはジト目で言う。
「うん。和田だからな。」俺も同意する。
「どう言う意味なのだよ!全く!」
和田はプンスカしながら言った。
俺は左門時先輩とポンスケの事をぼんやり思い出した。すると、ヒューっと風が吹いた。
「あれ!何処ここ?」左門時先輩が目の前に現れた。
左門時先輩はまんまるの狸を抱えている。
「あ、やっちゃった。」
俺は無意識に二人を転移させてしまった事を察した。
「和田!無事だったのかおまええ!」
左門時先輩は和田に駆け寄って涙目で言った。
「うむ。皆んなが助けてくれたのだよ!」
「ありがとう!本当にありがとう!」
左門時先輩は俺達一人一人に駆け寄って握手をした。
「まだ百鬼夜行が終わっていない。何とかしなければ。」りんのすけは顎に手を当てる。
「つかさ様の力も更新されたみたいですし、一回作戦立て直しますかねえ?」サソリさんが提案した。
「野崎先輩は、今どういう条件なんだろう?」
俺は野崎先輩の事が心配になる。危ない目に遭っていないと良いが。
「そうですね。俺、連絡取ってみますよ!」
サソリさんは、カーゴパンツの下のポケットからスマホを取り出して耳に当てた。
ヒューっと風の吹く音がする。
「ちがう。ここはこの形だ。」
「あれ、こう?」
「違う違う!アァァ!もう!!」
目の前に野崎兄弟が現れる。
陰陽師衣装の野崎先輩は、陰陽師衣装の陰丸君の後ろから手を握り、何か指導をしていた。野崎先輩の腰につけているポーチからスマホの着信音がする。
「あ、やっちゃった。」俺は頭を抱える。
「うわっ!!何だテメェら!!つーか、ここ何処だよォ!?クソ親父何処行った?!」
野崎先輩は陰丸君から手を離して、辺りを見回した。
「すみません。俺が召喚しちゃいました。」
俺は立ち上がり頭を深々と下げる。
「つーちゃんがやったのかよォ!ぬらりひょん……?」野崎先輩は俺の背後を睨みつつ言った。
「ぬっぺぽうがぬらりひょんに進化したと言うか、なんと言うか。それで、ぬらりひょんの力を使える様になったんですけど、上手くコントロール出来なくて。」
「ヘェー。すげェじゃん。って、やべ。儀式の途中だった。クソ親父から電話だ。」
野崎先輩はスマホを取り出し耳に当てる。
「無事なのが確認出来たから良かったんじゃないっすか?ついでに、皆んなで連携取り直しましょう!」サソリさんはニコニコ顔で言った。
俺は先程何となく出来た空間認知を展開する。意識を研ぎ澄ませると、周りの建物からそこに置かれたインテリアまで全てわかる様な感覚になる。視野が広がるというより、視野を感じると言う表現が近い。
「周りは俺が警戒しているから、話合いを進められる。」
「助かる。野崎先輩の電話が終わるのを待とう。」りんのすけが言った。
しばらく経つと、野崎先輩は溜め息を吐きながらスマホを腰のポーチに仕舞う。
「アニキ、父さんは何て?」陰丸君が聞いた。
「ああ。儀式はやっておくから他の事しろってさァ。かなりご立腹だったぜ。」
野崎先輩は面倒臭そうに首の後ろに手を当てた。
「ああ、後でドヤされる。」陰丸君は頭を抱えた。
「俺のせいなんで!俺が代わりに怒られます!」俺は必死に弁解する。
「いーよ、いーよ。それより、これからどうするか決めるんだろォ?」野崎先輩は俺に笑顔を向けた。
「そうだ。進一君のドローン映像を見る限り、我が家の部隊たちは人命救助優先で、百鬼夜行にはほとんど手付かずだ。倒すなり、追い払うなりする必要がある。」
りんのすけは腕を組んでへの字口で言った。
左門時先輩はオドオドしながら発言した。
「倒すのは、ちょっと可哀想だよ。巻き込まれちゃっただけの妖怪も居ると思う。」
「確かになあ。和田のところまで案内してくれた妖怪は悪い奴じゃなさそーだった。」
ひゅうがは頭の後ろで両手を組みながら言った。
野崎先輩が提案する。
「一箇所に集めて、閉じ込めて、強制的に返すンならやりようはあるなァ。この小規模な百鬼夜行なら行けるはずだぜ。」
「そんな事が可能なんですか?」サソリさんは驚きながら言う。野崎先輩は頷いて、ひゅうがの方を見ながら言った。
「ああ。黄色のガキンチョ、地下室の木札は持ってるか?」
「うん!持ってるよ。いつも首にかけてる。」
ひゅうがは服の中の紐を掴み、木札を見せた。
野崎先輩は頷いて続きを話す。
「よし。ソイツは最終手段だ。妖怪の誘導は他の奴が考えてくれ。俺様が出来るのは、妖怪を元の場所に送る結界を張るってコト。結界まで妖怪を誘導すりゃあ、殺さずに送り返せる。万が一暴れて言う事の聞かない妖怪が出てきてどうしようもなくなったら、その木札を使う。暴れる妖怪を建物まで誘導したら、建物の中で木札を割れば、地縛霊の呪いが発動してその妖怪は建物から出られなくなる。その隙に結界を建物全体に張れば強制送還だ。」
サソリさんは腰に手を当てながら発言した。
「結界に留まらせる必要があるって事ですか。うーん。誘導だけなら、誰でも行けそうですね。結界を二箇所から三箇所置いて、百鬼夜行の行われているゾーンをブロック分けし、分担しましょう。野崎お兄さんと弟さんで結界を張って、出来次第、他の人に加担して欲しいです。俺とつかさ様、ひゅうが様は一人で行けますね。」
りんのすけは不機嫌そうな顔で言った。
「僕を抜かすな。」
「でも坊ちゃまに何かあったら!」
「うるさい。僕も強いんだから戦力に入れろ。」りんのすけはサソリさんを睨む。サソリさんは困り眉で笑顔を作った。
「わ、分かりました。和田様と左門時様は待機で大丈夫ですよ。もし手伝って貰えたら嬉しいですけど。」
和田と左門時先輩は顔を見合わせ、苦い顔をした。和田が言う。
「私が行っても、足を引っ張るのが目に見えているのだよ。」
左門時先輩もそれに続いた。
「僕も、何も出来ない。」
その発言を聞き、ポンスケは左門時先輩を往復ビンタする。
「ポ、ポンスケ、分かったよ。僕は和田を守る。また誘拐されない様に。ポンスケの力を借りて、和田を守りながら僕も誘導するよ。」
ポンスケは満足そうな顔をした。
「そ、それだとサモン先輩の負担が大きくなるのだよ!私も囮でも何でもやろうじゃないか!」和田は汗をかきながら眼鏡を中指で上げる。
「良いぞ!和田。それでは、分担場所を決める。」りんのすけは仁王立ちして偉そうに言う。
「坊ちゃま。俺の担当はりんのすけ様の隣でお願いします。」サソリさんは焦りながらりんのすけに縋る。
りんのすけはサソリさんの手を払いのける。
「分かったから、肩を掴もうとするな。まず結界を張る位置は、城の跡地と電器屋の並ぶこの地域。そしてその中間の大きな神社の三箇所に張って欲しい。一番危険なのは城の跡地だ、そこをサソリ、街中から駅までを僕、大きい神社周辺をひゅうが、その隣をつかさ、一番妖怪の少ない電器屋周辺をサモン和田コンビに任せよう。」
野崎先輩は背中にさしていた棒状の機械を取り出す。リレーの時にプレゼントした箒型の機械だ。
野崎先輩は箒に跨って言った。
「陰丸は電器屋の方に結界張れ。俺様は後の二箇所だ。もう動くぞ。乗れ。」
陰丸君は頷いて野崎先輩の後ろに跨る。機械の起動音がして静かに浮上した。
「気をつけてください!よろしくお願いします!」俺が大声で言うと、
「お前ェらもな!!」と言って先輩は飛んで行ってしまった。
俺は皆んなに言った。
「俺と左門時先輩、和田、ひゅうがは少し距離があるから、俺が移動させます。」
りんのすけは頷く。
「頼んだぞ。作戦開始だ。」
サソリさんとりんのすけは駆け出して夜の闇に消えた。
俺はひゅうがに手をかざして言う。
「無理はするなよ。」
ひゅうがは嬉しそうに笑いながら言った。
「つかさもな!大声で呼べばおれが助けに行くからな!」
「ありがとう。ひゅうがも大声で呼んでくれ。」
そう言って俺は意識を集中させる。ヒューと風が吹き、ひゅうがは姿を消した。
俺は両手をかざして、和田と左門時先輩に向ける。和田は眼鏡を上げながら言う。
「命だいじに!」
俺は笑顔を向けた後、俯く。
「ああ、命だいじに!巻き込んでしまって本当に申し訳ない。」
「何を言っているのだよ。そういう仲ではもう無いだろう?友達だと思っていたのは私だけか?」
和田の言葉に少し涙腺が緩む。
「いいや。俺も思ってるよ。先輩、ポンスケさん。和田。くれぐれも気をつけて。」
ヒューと風が吹き、二人と一匹を移動させた。
「行くか、ぬらりひょん。」俺は虚空に言う。
頭の中に声が響く。
「ああ。お主を信じておる。」
俺は目を瞑り意識を集中させる。周りの景色が歪み始めた。
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