第63話 妖怪の夜が始まる。
俺達はりんのすけの実家の前まで移動していた。
「一度作戦を立てる。和田を助けないといけないし、牛鬼達も追い払わなければならない。」
りんのすけは何も無いコンクリートの壁に手を当てた。
コンクリートの壁は変形し、小さな扉が現れる。
ドアノブを捻り中に入ると、サソリさん達の住むモダンな建物へ向かった。
建物の入り口にはサソリさんが立っていた。
「坊ちゃま!!あ、えっと。りんのすけ様、お怪我はございませんでしょうか。ご友人様方も遠方よりお越し頂き誠にありがとうございます。」
黒い半袖シャツに黒いカーゴパンツ、黒の軍靴を身に纏ったサソリさんは、礼儀正しくお辞儀をした。
「状況を確認したい。」りんのすけが言うと、サソリさんは建物の中へ案内する。
入ってすぐ左に、大きなライオンの肖像画がある。玄関を真っ直ぐ行き、突き当たりにあるドアを開けるとコンクリートの長い廊下が現れた。サソリさんは手前から三番目のドアを開け、ドアを押さえながら廊下で待つ。
三人が先に入り、サソリさんは最後に入るとドアを閉め鍵をかけた。
電気を付けると、黒いソファにシルバーのローテーブルが置かれた応接間である事が分かった。壁は音楽室の様に穴の空いた壁で、恐らく防音素材になっている。
「どうぞ、お掛けください。」
サソリさんの言葉で、俺達三人は並んで座った。
「サソリも座れ。」りんのすけの言葉にサソリさんはお辞儀し、向い側に座った。
「りんのすけ様。ここは安全です。ここから出ないで下さい。」
サソリさんは真剣な目でりんのすけを見つめた。
ひゅうがは唯ならぬ雰囲気に動揺して、サソリさんとりんのすけの顔を交互に見た。
りんのすけは大きな溜息を吐いた後、サソリさんを見つめ返した。
「それは聞けない相談だな。まずは上記を説明しろ。」
サソリさんは苦い顔をして俯いた後、真顔で説明を始めた。
「羅刹天は牛鬼に、わたくしと野崎様、つかさ様の暗殺を命じた様です。直接手を下して上手くいかなかった場合に備え、和田様を人質として攫いました。現在、野崎様と連携して羅刹天の怒りを抑える儀式と、百鬼夜行による一般市民への被害を最小限に抑えるべく動いております。わたくし達の仲間が数名、人命救助に当たっていますが、百鬼夜行の規模はかなり小さいですが、夜間の外出者も通常より多かったため、まだ万全ではございません。」
俺は自己責任に囚われる。あの時鬼門に入ってさえ居なければ。
りんのすけが口を開く。
「一般市民への被害は跡に残るか?」
「いえ、そこに関しては通常通り。跡は残りません。」
ひゅうがは不思議そうな顔をして首を傾げた。俺もよく分からず肩をすくめる。
「百鬼夜行って、京都で起こるんじゃ無いんですか?」俺は疑問を口にする。サソリさんが答える。
「今回は特例です。目的が明白。家の中にいれば安全な百鬼夜行と、家の中への襲撃を合わせて行い、確実に殺しに来てますよ。」
りんのすけが口を開く。
「元はと言えば、僕がオカルト研究部を結成した事が原因だ。和田の救助は僕も行くからな。」
「ダメです!坊ちゃまがいくら丈夫だからとは言え、流石に危険過ぎます。わたくしが鬼門で鬼を倒し過ぎたのが原因ですので、りんのすけ様は無関係でございます!」
サソリさんは前のめりになり、腰を浮かせながら説得をした。りんのすけにはまるで効いていない。
「俺が鬼門に入らなければ、サソリさんが鬼門に入る事も無かった。俺も助けに行きます。」
俺は膝の上で拳を握りしめながら言った。
「おれも手伝う!悪霊も妖怪もそんなに変わらないだろ?そこに関してはおれが一番耐性あるし、力になれるよ!」
サソリさんは呆気に取られ、ソファに腰を下ろした。片手でオデコを抑え、俯く。
「僕が頑固なのは、一番理解しているだろう?」りんのすけは腕を組み、勝ち誇った顔をした。
「つかさ様。貴方も狙われているのですよ?それは理解してますか?」
サソリさんは俯いたまま、小さな声で言う。
「分かってます。今はぬっぺぽうのおかげで空間移動が出来るので、人命救助に一番向いてるのは俺だと断言出来ますよ。」
サソリさんはひゅうがにも聞く。
「ひゅうが様は本当に無関係です。百鬼夜行は近づいただけでも死ぬと言われています。未来を失う可能性を背負ってまで行く必要は無いです。」
「いや!絶対行く!友達が戦ってるのに、おれだけ安全な場所で見てるだけなんて、それこそ一生後悔する。」
サソリさんは両手で顔を覆った。暫く沈黙が続く。
「よし!分かりました!」
サソリさんは両手で頬を叩いて立ち上がる。
「俺も囚われのお姫様みたいなのは性に合わないっす。ターゲットは大人しくしてろって言われてたんですけど、坊ちゃま達を見てたらなんか馬鹿らしくなっちゃいました!じゃあ、皆んなで行きますか?レッツパーティータイムぅ!」
サソリさんはニコニコの笑顔でハイテンションに言う。
緊迫していた雰囲気が一気に解け、俺は顔の筋肉が緩む。ニヤケ顔のまま、りんのすけとひゅうがと目配せをする。
「サソリの命令違反の処罰は僕が取り下げよう。」
「坊ちゃま!それは助かります!」
「作戦会議しよう。まずは……。」
俺は現状から、目的達成までの道筋を考えながら言った。
試合での戦略論を読み込んでいるひゅうが。恐らく実戦経験豊富なサソリさん。天才的頭脳を持ったりんのすけ。最強の知識が集結し、作戦は直ぐに決まった。
「それでは、行きますか。」俺が立ち上がってぬっぺぽうを抱き抱える。
しかし、ぬっぺぽうはグッタリしている。
「た、大変だ!大丈夫か?」
俺がぬっぺぽうに聞くと、小さな手で肉の塊の下の方、お腹らしい場所を摩った。
「あららー。お腹空いてるみたいですねえ。俺、何か持ってきますよ!」
サソリさんは何処かから沢山の食べ物を持って来てくれた。サンドイッチやおにぎり、ケーキ等がシルバーの机の上に溢れかえった。
ぬっぺぽうはムシャムシャと食べ物を食べた。余った分は巾着袋に包んで貰い、俺はサソリさんから借りたカラビナでベルト通しに付ける。
「あ、俺スマホ置いて来ちゃった。」俺は頭を抱えて思い出す。
「トランシーバーで連携を取る。サソリ、用意してくれ。」
「畏まりました。」サソリさんは直ぐに道具を用意する。
「作戦会議の時、進一に依頼した周辺情報のライブ映像は僕のスマホで見よう。」
りんのすけは私服のジャケットのポケットからスマホを取り出す。
スマホを囲んで、画面を確認する。複数のドローンから撮影された百鬼夜行の映像が映し出された。画面横にある数字をタッチすると映像が切り替わる。
妖怪達の間隔は一定の距離で離れている。国道一号線沿いを東から西へ向かって歩いており、終着は城跡地の公園だった。範囲はおよそ十キロメートル程だ。
俺は作戦を改めて確認する。
「作戦通り、城跡地の公園に直接奇襲を仕掛けよう。公園は広いから、着いたら俺とひゅうが、サソリさんとりんのすけのチームで別れる。見つけ次第、無線で連絡。目標に対しては総攻撃で行こう。」
俺以外の三人は頷く。
サソリさんは何か思い出した様に、「あ!」と声に出す。
「クモに会ったら近づかないで下さいね。多分奴も百鬼夜行討伐作戦に参加してるんで。」
りんのすけは明らかに嫌そうな顔をする。
「分かった。気をつけよう。」
四人で円陣を組む。りんのすけが皆んなに言う。
「和田救出作戦及び百鬼夜行討伐作戦を開始する。」
「えいえいおー!」ひゅうがはテンション高めに掛け声を上げた。
「移動を始めるぞ。」俺は目を瞑り集中する。
城跡地の公園の敷地内を思い出す。お堀に囲まれ、立派な石垣がある。コンクリートの地面。木々。ぬっぺぽうと出会ったあの場所。
自分の声が聞こえる。
『うわ。うんち踏んだかも。』
空間転移が始まった。
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