第58話 全国高校オカルト研究大会。
遂にこの日がやって来た。全国高校オカルト研究部大会である。
目標があった方がやり甲斐がある。と言う、半ば良い加減な部長の発言が、本当になってしまうとは。
全国のオカ研達が集う大会と言う事だが、開催地は鳥取県。会場はまさかの貸し会議室。
一応、審査員には心霊研究をしている専門家や、ホラー小説の作家等、凄そうな人が集まっているらしい。
控え室も貸し会議室だ。
我らが静丘県立静丘学園高等学校オカルト研究部は、俺とりんのすけ、進一の三人が代表して参加をする。
俺達は全員、入り口で貰った手作り感溢れるネームプレートを首から下げている。ネームプレートには学校名のみが書かれていた。
控え室には、俺達以外に五つの学校から生徒が集まっている様だ。
ネームプレートをチラリと覗く。
東京代表。広島代表。岡山代表。島根代表。鳥取代表。日本地図を思い浮かべても、偏りが凄い。オカ研自体がマイナーな部活だから仕方ないのかも知れない。
どの高校も二人か三人の少人数だった。偶然かも知れないが、全員男子生徒だ。
発表の時間が迫り、大会の運営をしている女性スタッフが控え室に入って来た。
「発表の順番をくじ引きで決めます。この箱の中から、一枚紙を取ってくださいね。」
りんのすけ部長は立ち上がる。他の生徒は一列に並び、くじを引いていく。
りんのすけはドヤ顔でくじを見せびらかした。
「あ、ビリじゃん。」俺は紙に書かれた『6』の数字を見て呟く。
「トリが一番美味しいんだよ。」りんのすけはニヤリと笑う。
「それじゃあ、会場の部屋に移動します。最初に発表する人は、部屋に入ったら準備を始めて下さい。それ以外の人は空いている席に座って下さい。」
女性スタッフの後に着いて行き、大きな貸し会議室へ移動する。
一番前の席は、審査員が座っていた。
俺達は前から三番目の左端の席に座った。
「何でか、全然緊張していない。」俺は小声で言う。
「いっぱい練習したからね。見てる人達が少ないのもあるけど。」進一は真顔で言う。
りんのすけは無言で腕を組み、への字口で座っていた。
トップバッターは、島根代表だ。模造紙をホワイトボードに貼り出す。内容はUFOについてらしい。UFOの写っている写真が模造紙に貼り付けられている。
意外と論理的な内容で、面白かった。話している生徒もユーモアがあり引き込まれる。
あれ。これ勝てるのか。と、少し不安になってしまう。
しかし、他の発表はそこそこだった。トップバッターの発表が良かったせいか、物足りなさを感じてしまう。
この、流れは良く無い。島根代表の生徒達も勝ち誇った顔をし始めている。
俺はジワジワと緊張感が込み上げ、胸の辺りが重たくなった。
隣に座るりんのすけに、背中を叩かれた。普通に痛い。
「勝ちに行くぞ。」りんのすけは真剣な顔で俺を見つめた。
「ああ。任せろ。」俺は背中の痛みから勇気を貰った。
遂に順番が回って来た。早速、発表の準備を始める。
会議室に備え付けられていたスクリーンを出して貰う。会議室の天井に付いているプロジェクターと、持ち込んだノートパソコンを繋げて、点検をする。
俺とりんのすけが準備をしている間に、進一はコソコソと床に何かを置いていた。
部屋を暗くし発表を始める。
主な進行は俺が務め、補足をりんのすけが行う。そして、進一は演出担当だ。演出の具体的な部分はサプライズらしい。
「皆さん。鬼門について、何処まで知っていますか?」俺が話し始めると、世にも奇妙なBGMが流れ始めた。
俺は構わずに話し始める。スライドを動かして進めて行く。
「何故不吉と呼ばれるのか、その真実を探るべく、鬼門に迷い込んだ一人の男性に話を聞きました。」
話を進め、友永さんに描いてもらったイラストの出番が来る。スライドに大きく、赤鬼、青鬼、羅刹天のリアルな絵が映し出される。
すると、進一がコッソリ置いていた機会が動き始めた。
「うわあ。」席に座っている人達から小さな悲鳴が聞こえる。
絵が飛び出し、動き出したのだ。
ホログラムとプロジェクションマッピングを足した様な謎の技術で、リアルに動く鬼達。
俺は呆気に取られて、眺めてしまった。
りんのすけがフォローする。
「鬼には、理性も知性も無い。鬼門に迷い込んだ者を排除するです。しかし、羅刹天は知性があり言葉が話せたそうです。鬼の攻撃を避け続け、耐え忍んでいると現れてしまう。この破壊の神が現れたら逃げ切る事は困難でしょう。実際、鬼門に入り込んでしまった男性は大怪我を負いました。」
バーチャル羅刹天の手から槍が出て会議室の後ろまで飛んで行った。
俺は我に帰り、発表を続けた。
そして最後に締め括る。
「不吉な事だと言われる理由は、この様に存在しました。迷信だと思わずに、不吉になり得る行動は避けて生活するのが一番だと、僕達は伝えていきたいです。発表は以上です。ご清聴ありがとうございました。」
真ん中に移動して三人同時にお辞儀をする。
島根代表の生徒が拍手をしてくれた。他の生徒も拍手をする。
俺は顔を上げて口元が緩んでしまう。
一度控え室に戻って、結果を待つ。
さっきの島根代表の子が話しかけてくれた。
「凄く良かったよ!あの鬼どう言う仕組みなんだ?」
「ありがとう!UFOの話も面白かった。」
俺はお礼を言った後、進一を肘で突いた。
「鬼の仕組みは企業秘密って事で。」
進一はボソリと言った。
しばらく島根代表の二人と話していると、控え室に女性スタッフが入って来た。
「表彰式を始めますので、移動をお願いします。」
再び大きい会議室に戻る。さっきと同じ席に座った。
三位から順番に呼ばれ、賞状を受け取る。
二位は島根代表だった。その瞬間にりんのすけは勝ち誇った顔をする。
「優勝は静丘県代表です。おめでとうございます。」
俺は嬉しくてガッツポーズをした。進一も笑顔になる。
三人で前に出る。審査員長のオカルト研究専門家から賞状と盾、記念品のお食事券を受け取る。
審査員長から一言貰った。
「たいへん興味深い内容でした。鬼門を閉じる儀式は見た事ありますが、開ける儀式は初めて聞きました。また是非参加して下さいね。」
大会は幕を下ろし、俺達は帰路に付きながらお互いを称賛し合った。
「それで、来年も参加するのか?」
「いや、一位が獲れたからもう良いだろう。来年からは本格的に心霊スポットを回るぞ。全国制覇だ。」
りんのすけは拳を突き上げた。
「おいおい、マジかよ。どれだけ心霊スポットがあると思ってるんだ?」
俺は呆れた顔をする。
「サクッと終わる様な場所も多いだろう。一都道府県に一スポット巡るくらい、造作も無い。」
「僕は行けたら行く。」
「それ、行かない奴の台詞だぞ!まあ、俺は何処までもお供するよ。」
「期待しているぞ。奇跡の鬼門の生き残り君。」
りんのすけはイタズラっぽく笑う。
無邪気に輝く顔を見て、俺もつられて笑顔になった。
「任せろ。相棒。」
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