第57話 UMA探しin台湾!(その3)
帰りの車中。助手席に俺、後部座席に他の人達が乗っている。運転席はソヤクモさんだ。
りんのすけと俺以外の人達は疲れたのかグッスリ寝てしまう。
「そのままお屋敷に戻っても宜しかったでしょうか?」ソヤクモが聞いた。
「ああ。構わない。他の使用人が見ていない時は堅苦しくなくて良い。さっきはありがとう、助かったよ。」
りんのすけは腕組みをしてへの字口のまま言った。
「お気遣い痛み入ります。じゃあ、訛らせてもらいますわー。」
「ソヤクモさんはサソリさんと仲良いんですか?」俺は質問した。
「ソヤクモって呼びにくくないです?クモさんで良いですよ。ウチの主人様含めて皆んなそう呼ぶんで。」
クモさんは作り笑いをしたが、目は笑っていなかった。
「サソリは従兄弟ですわ。俺のが一つ年上なんですけどね。仲良いと言うか何と言うか。腐れ縁みたいなもんです。名前聞いても良いです?」
「〇〇つかさです。サソリさんも下の名前で呼んでくれるので、つかさで良いですよ。」
「さよか。つかさ様はサソリと仲良いんで?」
「多分、仲良いと思います。」
「そこ自信無いんかい!」
クモさんは吹き出して笑った。笑うと目がなくなる程細くなる。
「何でソヤクモはこんな所に居たんだ?」
りんのすけが質問した。
「そこ気になりますよねえ。りんのすけ様のお母様経由で、ウチの主人様から頼まれたんですわ。サソリが別件の仕事に行ってるからって。まあ、サソリからしたら面白く無いやろけど。」
「何でだ?」
「そりゃ、サソリの大好きなお坊ちゃんを俺が取ったみたいに難癖付けて来るんとちゃいますか?アイツそう言うとこあるんで。」
りんのすけは小さく溜息をついた後、窓の外を眺めた。
「サソリさんって何の仕事で忙しいんですか?」
俺が聞くと、クモさんとりんのすけが驚いた顔をする。
「それ聞いちゃいますか?まあ教えられない系のアレですわ。ご想像にお任せします言う事で。」
「あ。なるほど?」俺は察して黙った。
「ソヤクモも大学に行っているんだよな?サソリと同じ所か?」りんのすけが質問する。
「大学は行ってますけど、サソリとは別です。分家の方は、大阪が本拠地なんで、そっちの大学ですけど。それでも、東京の方と顔合わせる事は結構あるんで、サソリとも会いますね。そいえば、何であの化け物に追いかけられてたんです?」
クモさんの質問に俺が答える。
「オカ研の野外活動です。透明な巨人が居るって聞いて探しに行ったら、別の化け物に絡まれました。」
「透明な巨人かあ。アレもう居なくなったんですよね。」
「ソヤクモ、何か知っているのか?」
りんのすけはバッグミラー越しにクモさんを見た。クモさんは目を逸らす。
「あー。本当は秘密のアレですけど。まあ、ええか。サソリが倒しちゃったんです。何でかって言うのは教えられないんで、勘弁してください。」クモさんは苦笑いをする。
「ええ!そうだったんですか!……だから、鬼より大きいの倒した事あるって言ってたのか。」俺は俯いて、鬼門の事を思い出した。
「鬼ぃ?!そんなんとも戦ってんねや。」
クモさんは驚いた顔をして俺を見つめた。
俺は鬼門に入った時の事を、かいつまんで話す。
「ほあー。えらい大変な目に遭ってるんですね。不幸なのか幸運なのかよう分からん話ですわ。」
りんのすけは気がついたら眠ってしまった。
「つかさ様は寝なくて良いんです?」
「運転してもらってるのに、寝れないですよ。あと、何故か目が冴えちゃって。」
「じゃあ、いっぱいお話ししましょ♡」
クモは俺にウインクした。その顔は一瞬だけサソリさんに似ていた。
「あの。変な話しても良いですか?」
俺は恐る恐る聞く。
「どうぞ、どうぞ!遠慮はいらないですよ。」
「……むかしむかし、人間に化ける動物達に助けられた人間が居て、その人は動物達と暮らすようになったんですけど、正体をバラさない様に約束してたそうです。その後、助けられた人は寿命を全うして死んじゃうんですけど、動物達はどうなったと思いますか?」
クモさんは、眉を少し上げた後、眉間に皺を寄せた。
「それってどっかのおとぎ話に書いてあったとかです?」
「そ、そんな感じです。」
怪訝そうな顔でクモさんが見てくる。俺、不味い事聞いちゃったな。
クモさんは優しく微笑んで、正面を向いた。
「お互いに恩人なんやろ?命の恩人と、生活を与えてくれた恩人。それだけなら、他の人にも言って良かった筈や。お金を稼ぐ役割と、守る役割に分かれて、時間が進んで行く。唯それだけの事やと思うで。あ、すんません。タメ口になってました。」クモさんは舌を出した。
「タメ口で良いですよ!俺のが年下だし。」
「ほんまに?優しいなー、つかさ様は。こんな優しい子なかなか居ないで。」
「そんな事無いですよ。俺は至って普通の健康優良少年です。」
「ハハハ!漫画好きなん?りんのすけ様がつかさ様の事気に入ってる理由も、なんか分かる気いするわ。」
クモさんは運転席の窓を開けて、片肘を突き、片手でハンドルを持った。
その後、漫画の話で盛り上がった。サソリさんの影響でクモさんも漫画を読むらしい。
趣味の話で盛り上がる時は楽しく、あっという間に感じられた。
屋敷に着くと、メイドさん達が寝ている人を起こさない様にベッドへ運んでくれた。
俺はクモさんとメイドさんにお礼を言って、自分の部屋に入る。シャワーを浴び、寝支度を整え、ベッドに入るとストンと眠ってしまった。
予定が変わり暇になった次の日。
皆んなで有名な観光地まで足を運んだ。赤い提灯が並ぶ九份と言う場所だ。
観光客で溢れかえり、日本人も沢山居たため、外国感は薄かった。
お茶屋で烏龍茶を飲んだり、くっさい揚げ豆腐を食べたりして過ごした。
結局今回の野外部活動は、ハチャメチャな目に遭い、普通に観光して日本に帰ると言う結果に終わった。
空港に着き、キャリーケースが流れて来るのを待っている時、自動ドアの向こう側から大声が聞こえた。
「りんのすけ様ァァァァ!!!ご無事ですかァァァァ!!!」
サソリさんが大きく手を振って待ち構えている。
大声で呼ばれたりんのすけは、その声を完全に無視した。
キャリーケースを受け取り、自動ドアから出ると、りんのすけはサソリさんの目の前まで歩いて行った。
「クモに変な事されてないですか?大丈夫でブフッ!!」サソリさんは顔面を掴まれ地面に叩きつけられた。
「喧しい。周りに迷惑をかけるな。戯け。」
りんのすけのオデコに血管が浮いていた。
「サソリさん、仕事じゃ無いんですか?」
俺は屈んでサソリさんに聞く。
「ちょっとだけ抜け出して来ちゃいました!クモから変な写真が送られて来たから!心配で!」サソリさんは黒いスーツの内ポケットからスマホを取り出して画面を見せる。
りんのすけの寝顔を収めた写真が映し出されていた。
「いつの間に……。」りんのすけは眉毛をピクピクと動かした。
まだ長くなりそうなので、他の人達には先に帰ってもらった。俺は他の皆んなにお礼を言う。
別れ際、スガッチ先生に「もう夜だから、遅くなるなよぉ。」と、釘を刺された。
「それで、貴様は仕事をすっぽかして、ここに来たと言うわけだな。こんな悪戯写真一枚で。」
りんのすけは怖い顔をして仁王立ちしながらサソリさんを見下ろす。
サソリさんは正座しながら、何度も謝っていた。
「でも、坊ちゃま?クモは性根の腐った性悪男なんですよ?皆さんの前では猫被ってたかも知れないですけど、人の心を踏みにじる最悪な奴なんです!」
「それで、そのソヤクモに振り回されている貴様は何なんだ?ソヤクモの玩具か?」
「申し訳ございませんんんん!!!」
サソリさんは綺麗な土下座をした。
「りんのすけ、周りの人達に見られてるぞ。そろそろ帰ろう。」
クスクス笑われたているのが恥ずかしくなり、俺はりんのすけな耳打ちする。
「チッ。今日はこの辺にしてやる。さっさと仕事に戻れ。」
「送ります!荷物持ちます!やらせて下バフッ!!」
りんのすけはまたしてもサソリさんの顔面を鷲掴みして床に叩きつける。
「仕事を全うしてから言え。」
「だ、大丈夫ですよ!一応、明日の早朝までに戻れば問題無い様に整えてありますから!」
サソリさんはまたしても正座をする。
りんのすけは腕を組み、サソリさんを見下ろす。
「ふん。出まかせじゃ無いだろうな?」
「じゃ無いです!」サソリさんは首を横にブンブン振った。
その後、りんのすけと俺の荷物を全て抱えてサソリさんは運んでくれた。
「夕飯どうする?」俺は空港の出口に向かって歩きながら聞いた。
「つかさの手料理が食べたい。ついでに僕の家に泊まって行け。」りんのすけは笑顔で言う。
「分かった。何作ろうかなあ。」
夜の空気の冷たさで、日本に帰って来た事を実感した。
パシリの如く腰の低くなったサソリさんをよそに、俺は夕飯のメニューを考えながら車に揺られる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます