第56話 UMA探しin台湾!(その2)
老婆は言い残した後、下山してしまった。
俺とりんのすけは目を合わせて、唾を飲み込んだ。
空は夕日で黄色に染まっていた。
「何か居る。」進一は湖の向こう側にある山を指差した。
俺とりんのすけは振り返って見たが、何も見えなかった。
「嫌な予感がする。テントを畳んで下山するぞ。」
りんのすけは、もう一つのテントに入り他の皆んなに伝える。
「えー。もう歩けないよお。」
スガッチ先生は駄々を捏ねたが、りんのすけが圧をかけて無理矢理言う事を聞かせた。
「あれ、狐がいる。」左門時先輩はテントから出ると、白い狐に近寄った。
いつの間に居たのだろうか。全然気が付かなかった。
「何も見えないが。」りんのすけは左門時先輩を見ながら言う。
「じゃ、じゃあ。妖怪なのかな。どうしたの?」左門時先輩は妖怪狐に話しかける。
「駄目だ。日本語じゃないから何言ってるか分からない。」狐の頭を撫でながら項垂れた。
狐は鼻をピクピクさせて、辺りの匂いを嗅ぐ。バッと後ろを振り返り、尻尾を上げて何かに威嚇し始めた。その後、何処かへ入って消えてしまう。
「やばい。やばい。早く逃げよう。」
左門時先輩は焦って声が震えている。
全員で急いでテントを片付け、荷物を手分けして持ち、下山を始めた。
日は沈み、辺りは暗くなってしまう。
雲の切れ間から星が綺麗に輝いていた。
俺は持って来た懐中電灯で足元を照らす。進一は電気ランタンを、りんのすけはヘッドライトを首にかけ、三つの灯りで道がよく見えた。石と低い草があるだけのガタガタ道は、灯りを遮る物が少ない。
「何が居ると言うのだね?」
和田は恐る恐る聞いた。
「分からない。」俺は首を傾げる。
「分からないものから逃げているのかね!」和田は驚く。それに対して、左門時先輩がオドオドと言う。
「で、でも、敵が近くに居るのは、狐が教えてくれたから。追いかけて来てるかは分からないけど、アソコに居続けるよりは安全だよ。」
強い風が吹いた。雲で隠れていた月が顔を出し、辺りが明るくなる。
「あ……。」俺は目の前に居る何かを目撃した。
着ぐるみに見えた。カートゥーンなデザインだ。丸い黒い目が二つ。鼻と口は無い。白い肌の人形で、坊主の様な髪は真っ黒なフェルトを貼り付けてある。上下黒い服に黒い靴。手は顔と同じく真っ白だ。
りんのすけは怪訝そうに、俺の顔を見る。
「どうした?」
「何か居る。」
俺が指を差すとその着ぐるみは居なくなった。
「この先に居たから、警戒して進もう。」
全員で辺りを警戒しながら、恐る恐る進む。
「流石の俺もちょっと怖くなって来たなあ。」
スガッチ先生は俺の肩を掴んで来た。
「重たいから離してください。」
「えー、冷たい事言うなよお。オカ研の部員はこう言うの慣れてんだろ?」
「慣れてないですよ。ホラー苦手なんで。」
俺はスガッチ先生の手を掴んで離した。
後ろから和田の叫び声がした。
全員振り返ると、和田が消えている。
「チッ。やられたか。」りんのすけが言う。
「まだ死んで無いだろ!和田!!どこ行った!!」俺は大声で叫ぶ。
降りて来た山の上に、さっきの着ぐるみが立っているのが見えた。
俺と着ぐるみが見合うと、着ぐるみはゆらりと体を横に揺らし、その後全力疾走でこちらに向かって来る。
「うわああああ!!逃げろ!!!」
俺は一目散に走り出す。他の皆も俺に続いて走った。
「何あれ。ブランクルームスープの着ぐるみじゃん!」左門時先輩は涙目になりながら走る。
「何だそれは。教えろ!」綺麗なフォームで走りながらりんのすけが聞いた。
「人肉スープを食べさせられて泣いてる男の動画。それに映ってた着ぐるみだよ!」
「ひいい。こんな所で死にたくねえ!」
スガッチ先生は全力疾走で俺を抜き去った。
その後急停止して、「やべ。」と言った後目の前に居た着ぐるみに連れ去られて消えた。
「二体居るのかよ!!」俺も急停止する。
「どうしよう。取り敢えず、コレ。」
進一は俺の口の中に何か入れた。俺は飲み込んでしまう。
「な、何飲ませたんだ!?」
「いつもの。」進一は淡々と言い、自分も薬を飲んだ。
体から力が溢れて来るのを感じた。
「あー。いつものね。」
俺は荷物を下ろして、戦闘体制に入る。
目の前に居た着ぐるみを追いかけて飛び蹴りを喰らわせた。
「うあ!硬い?コイツ着ぐるみじゃ無いのかよ!」
俺は着地して、後方にジャンプし間合いを取る。
スガッチ先生を片手で抱えたまま、着ぐるみは殴りかかって来た。
俺はその攻撃を避け、足払いをして着ぐるみを転ばせる。
スガッチ先生が離れた隙におんぶして、一時撤退。走って戻る。
「先生、生きてますか?」
「ああ。何とか。」スガッチ先生は気力の無い低い声で言った。
戻ると、りんのすけと進一がもう一体の着ぐるみと格闘していた。攻撃は全然効いていない。
二人で挟み込み、和田を回収する。りんのすけは和田と左門時先輩を俵抱きし、進一は俺が置いた荷物を回収する。
「つかさ!!逃げるぞ!!」
三人で着ぐるみから逃げる。二体の着ぐるみは何処までも追って来た。
一気に山を下り、駐車してある白いバンが見えて来た。
「待て、誰か乗っている。」
りんのすけは手で制して、止まった。俺と進一も止まる。
暗くてよく見えないが、後部座席に人影が見える。
後ろから足音が近づいて来る。
「来てるよ。」進一が真顔で言う。
警戒しながらゆっくり移動して、車の横に行くと、スライドドアが開いた。
「ヒィ!」俺は悲鳴を上げる。
真っ黒い長い髪で赤い服をした幽霊が降りて来た。
「何が見えている?」りんのすけに聞かれ、俺は目の前の幽霊の特徴を伝える。
進一はリュックをガサゴソと漁り、幽霊可視化スプレーを適当に振りかけると、
「うわ。」進一は幽霊の姿を見て小さい声を出した。
「不味いな。」りんのすけはジリジリと近づいて来る幽霊と、山道から降って来る着ぐるみを警戒しながら、後退る。
走って来る着ぐるみ二体と幽霊が、同時にりんのすけを襲い掛かろうと手を伸ばす。
「りんのすけ!!」俺は手を伸ばしてりんのすけの服を引っ張り、引き寄せた。
目の前に居た三体の化け物は、何故か遠くに離れていた。白いバンも遠くにある。
「瞬間移動?あれ?」
りんのすけは尻餅をついて座っている。
「何が起こった?」
「分からない。あ!進一が!」
化け物はターゲットを変え、進一に手を伸ばそうとした時、車の上に誰かが仁王立ちしているのが見えた。
「アッハァー!楽しそうな事しとるやんかぁ。化け物ちゃん、わっちが相手したるで♡」
屋敷に居た使用人だ。サイドを刈り上げ、白い長髪を前髪毎後ろに三つ編みし、つり眉垂れ目の男。戦闘体制の時のサソリさんと同じ服装をしている。黒い半袖シャツに黒いカーゴパンツ。ガンホルダーは肩ではなく、左の太ももに付けていた。手には長い鉄パイプの様な物を握りしめている。
俺はりんのすけの服を持ったまま、進一に手を伸ばす。すると、また瞬間移動した。
「進一、今の隙に離れよう。」
「つかさ、スーパーパワーが宿ったの?」
進一は淡々と言う。
りんのすけと三人で走り、少し離れた所で、担いでいた人と荷物を置いた。
「この変な能力って、進一の薬のせいじゃ無いのか?」
「違う。」進一は小さく首を振った。
ぬっぺぽうが俺の溝落ち辺りから姿を出して、小さな手でピースをした。
「コイツの能力か?!」俺は驚いて大声を出す。
「コイツって、あの妖怪か?」りんのすけが聞く。
「そうっぽい。それより、あの人一人で三匹相手するなんて無謀だ!俺も助けに行く。」
俺は立ち上がって一歩踏み出した所で、りんのすけに腕を掴まれる。
「待て。あの使用人の攻撃に巻き込まれるぞ。」
「え?どう言う事?」俺は振り返ってりんのすけを見る。
「彼奴の名前はソヤクモ。サソリから話を聞いた事が一度だけあるが、戦闘中は周りが見えなくなって仲間に怪我をさせてしまうらしい。サソリも彼奴のせいで大怪我をした事がある。」
「それって、サソリさんより強いって事?」
俺は顔を強張らせる。
「さあな。サソリより強いかは分からないが、サソリくらい強いんだろう。」
俺達は、ソヤクモさんの戦いを見守る事にした。
着ぐるみが一体、ソヤクモさんの足に掴みかかり、そのまま振り回して地面に叩きつける。
ソヤクモさんは鉄パイプを地面に突き刺し、叩き付けを阻止した後、太腿から拳銃を取り出し狙いを定めた。
「着ぐるみちゃん、こっち向いてぇー♡」
着ぐるみがソヤクモさんを見た瞬間に引き金を引く。静かな麓の森に銃声の音が轟いだ。
足から手が離れた隙に、鉄パイプを両手で掴みバク転し、その勢いのまま鉄パイプを思い切り抜いた。
幽霊と着ぐるみが同時にソヤクモさんを襲う。体を思い切り反り返し、攻撃を避ける。次々に来る攻撃を躱し、受け止めて、受け流しながら、頬を赤らめニヤニヤした顔のまま、二人同時に鉄パイプで殴る。
「ッハァ。気持ちええ。気持ちええなあ!!」
銃で撃たれた着ぐるみもフラフラと立ち上がり、三体同時にソヤクモさんを襲いに来る。
「あら〜。銃弾一発じゃ効かへんのんかー。なかなかやるやんけ。……アッハァー!楽しなってきたわー!」ソヤクモさんは嬉しそうに舌舐めずりをする。
「りんのすけ、あの人変態だ!」俺はソヤクモさんを指差しながら言った。
「屋敷に居る時の奴しか見た事が無いから、僕も今ドン引きしている所だ。」
りんのすけは気持ち悪い物を見る様な目でソヤクモさんを見た。
ソヤクモさんは鉄パイプを振り回しながら、化け物三体を一箇所に集める。飛び上がり、鉄パイプを横にして、その上に拳銃を乗せる。
「バンバンバンバンバンバンバァーン!」
拳銃の弾が無くなるまで引き金を引き続けた。容赦無い弾薬の雨が化け物に降り注いだ。
カチカチと言う音を聞き、着地した後、太腿のホルダーに拳銃を収める。
化け物三匹は、ピクリとも動かなくなり、暫くすると煙の様に消えてしまった。
「はぁー。終わった、終わった。サソリに一つ貸しやなあ。」
鉄パイプを首の後ろに担いで、両手を掛ける。ソヤクモさんは、ハッと我に帰り、鉄パイプを片手で持ち、体の横に立てて持つ。
俺たちの居る方に向き直り、綺麗な立ち姿をした後、綺麗なお辞儀をする。
「りんのすけ様、ご友人様方。大変お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。お車は私は運転致しますので、どうぞお乗り下さいませ。」
俺とりんのすけはお互いの顔を見合わせる。
抱えられて走ったせいか、ぐったりしている和田と左門時先輩、スガッチ先生の三人。俺達は三人を起き上がらせて車に乗り込んだ。
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