第55話 UMA探しin台湾!(その1)

 十二月下旬。成田空港。

 小さなキャリーケースとリュックを背負い、俺は空港の待合席に座っていた。

 既に、進一と和田、左門時先輩も一緒に居る。進一は相変わらずお洒落でモダンはファッションに身を包んだ居る。和田は相変わらず謎のセンスで英語がたくさん書かれたバッグプリントのパーカーを着て居た。左門時先輩はシンプルな服装で、パーカーとコートを合わせて着て居る。

 和田と左門時先輩は、二人で楽しそうに話し込んでいた。

 俺は進一に話しかけた。

「パスポート持ってたって事は、最近海外旅行に行ったのか?」

「うん。旅行じゃ無いけど、NAS◯に呼ばれたから。」進一は淡々と言った。

「え!何しに行ったんだよ?」

「国際機密だった気がするから言えないけど、ただのお手伝いだよ。」

「進一って、よく分からないけど凄いんだな。」

「そこそこ稼いでるからね。」

 俺は無言で驚いた。あの不思議な研究実験が、趣味の範疇を超えたものだったとは。

「貴様ら早いな。顧問はまだの様だが。」

 りんのすけが大きなキャリーケースを引きながらやって来た。白いワイシャツの上にグレーのコートを着て居て、いつも通り大人っぽく着こなして居る。

「一応電話してみるか。」

ポケットからスマホを取り出し、俺は顧問に電話を掛けた。

「スガッチ先生、今どこですか?」

『すまん、すまん。もう直ぐ着くから待っててくれ。あ!もしかして、寝坊したと思っただろぉ?』

「寝坊か忘れ物かどっちかだと思いました。」

『もおー。先生の事もうちっとだけでも信頼してくれて良いんだぞ?』

「はーい。」俺は電話を切る。

「寝坊か?」りんのすけは俺と同じ発想の様だ。

「いや、もう直ぐ着くって。」

「良かった。プライベートジェットと言え、他の飛行機との兼ね合いもあるから、フライト時間は決まっている。遅れるわけにはいかない。」

 りんのすけは俺の隣に腰掛けた。

 数十分程して、ボストンバッグを持ったスガッチ先生が姿を現した。

「まだ間に合う?」

 能天気な笑顔を皆んなに向けた。ブルーのシャツに茶色のセーターを合わせて、くるぶしの出る紺色のスラックス、グレーのスニーカーを履いている。寝癖もない。無精髭もない。いつもの着崩したスーツからは想像出来ない好青年に変身していた。

「誰ですか!?」俺はつい突っ込んでしまった。

「スガッチだよぉー。おはよー。」

 スガッチ先生は気の抜ける様な声で手を振った。

「いつものやる気の無さそうな汚い格好じゃ無いと、こうも変わるんだな。」

りんのすけは真顔で言った。

「酷い!おじさん泣いちゃうよ!若い子が虐めてくるーって。とりあえず、喫煙所寄って来ていい?」

 そう言い残して、スガッチ先生はタバコを吸いに行った。

「本当にあの先生が大人の同行者で大丈夫なの?」進一は少し心配そうな顔をして、俺に耳打ちする。

「不安はあるが、何とかなるだろ。」

 俺は苦笑いをしながら言った。

「ねえ。た、探索するのは明日なんだよね?」

 左門時先輩が質問した。りんのすけが答える。

「ああ。今日は移動だけだ。明日から二日間探索をして、明々後日の夜帰る。」

「今日は観光出来ると言う事なのかね?」

和田は眼鏡を光らせて言った。

「そうだな。今日の夜は台北市の別荘に泊まる予定だ。近くの観光名所は回れるだろう。」

 和田は分かりやすくニヤニヤと笑う。

「和田って海外旅行初めてだっけ?」俺の質問に和田は大きく頷いた。

「その通り!言葉の通じない不便さを初めて体験するのだよ。まあ、僕にかかれば英語は話せるがな!」

「台湾の共用語は北京語だよ。」

進一が淡々と言う。和田は大袈裟にショックを受けた。

「で、でも、英語なら大体どこの国でも通じるのでは無いのかね?」和田は動揺しながら聞いた。りんのすけが答える。

「台湾では殆ど英語は通じない。空港やホテルでは使えるかも知れないが、それ以外だと通じないと思っておいた方が良い。」

 和田は更にショックを受けた。左門時先輩は和田の背中を摩って慰める。

「りんのすけって何ヶ国語喋れるんだ?」

 俺は何と無く聞いてみた。

「さあ、数えた事無いな。北京語は話せるから安心してくれ。」りんのすけは真顔で言う。

「僕は翻訳機を持って来たから、台湾語が必要になったら使って。」進一はリュックをポンと叩いた。

「台湾語もあるのか。そりゃそうか、台湾だもんな。」俺はテキトーに一人で納得する。

「お年寄りだと台湾語しか話せない人もいる。UMAの目撃情報を集める為にも翻訳機は必要だな。進一君、助かるよ。」

 りんのすけは進一に微笑んだ。進一はコクリと頷く。

 スガッチ先生が戻って来た。出国手続きをして、搭乗口まで行く。

 小型のプライベートジェットに乗り込み、台北桃園空港に着く。

 飛行機から降りると、俺は暑さにやられた、

「上着いらないな。」俺は着ていたブルゾンのジャケットを脱いだ。

 他の皆んなも上着を脱いで、出国手続きをして外に出た。

「これからどこ向かうのだね?」

和田が眼鏡を上げながら聞く。

「取り敢えず、荷物を置きに別荘へ行く。先生は国際免許持ってるか?」

りんのすけはスガッチ先生を見る。

「おー。持ってるぞお。レンタカー借りるのか?」

「そうして貰えるとありがたい。左門時先輩と話し合ったが、明日の目的地はレンタカーで行くのが一番良さそうだからな。」

 スガッチ先生は、空港の近くのレンタカー屋で白い大きなバンを借りて来る。

 全員で乗り込み、りんのすけのナビで別荘へ向かった。

「でっけー。」俺は別荘を見上げながら呟いた。

 白い壁で出来た大きな洋風の屋敷だ。

 中に入ると大きなシャンデリアのある玄関が広がる。大理石の床で出来た、ザ金持ちと言う家だった。

「お久しぶりでございます。りんのすけ様。元気なお姿を拝見できた事、大変嬉しく思います。それでは、皆様のお荷物をお預かり致します。」

 使用人の男性が綺麗なお辞儀をして出迎える。黒いスーツに身を包み、髪型はサイドを刈り上げ、真っ白な長髪を前髪も全て後ろにまとめ三つ編みにしている。つり眉垂れ目のかなり若い人だった。

 複数のメイドさんが俺たちの荷物を預かって、各部屋まで運んでくれた。

「使用人の方に同行してもらっても良かったんじゃ無いか?」俺は耳打ちしてりんのすけに伝える。

「ここの別荘は、分家の持ち物だ。本家の使用人では無い為、此方から依頼する事は出来ない。」

「色々あるんだな。」俺は肩をすくめた。

「こんなに沢山の使用人が、常にこの別荘に居るの?」進一は質問する。

「いや、僕がここを借りたいと母上に伝えたら、叔父上に連絡してくれたらしい。必要ないと言ったんだがな。」

 りんのすけは不貞腐れた顔をする。

 メイドさんに案内されて、部屋に入る。ホテルのスイートルームくらい広い。部屋毎に洗面台と風呂場が付いているらしい。俺は上着を置いて、リュックだけ持って部屋を出た。

 廊下にはスガッチ先生が居た。

「昼飯食いに行くかあ?皆んな集めてる間に、俺は外でタバコ吸って待ってるな。」

 ヒラヒラと手を振って、スガッチ先生は外に出て行った。

 俺は皆んなの部屋に行って、玄関に集めた。

「何か食べたい物ある?」俺は皆んなに聞く。

「こ、ここって何が有名な国なの?」

左門時先輩がオドオドしながら聞いた。メイドさん達の視線が気になるらしい。

「小籠包やフカヒレじゃないか?」りんのすけは顎に手を当てながら答える。

「へえ。ここでしか食べられない物の方が、僕は食べたいかも。」進一は淡々と言った。

「ご当地グルメ系かあ。俺も高級食より、庶民的な物の方が好きかもなあ。まあ、何でも良いんだけど。」俺は腕を組んで考える。

「何でも良いが一番困るのだよ!」和田は眼鏡をカチャカチャ上げながら反論する。

「そう言う和田は、何が食べたいんだよ?」

俺は和田にジト目を向ける。

「麺線とローズアップルだ!」和田はドヤ顔で言う。

「何それ?調べて来たの?」左門時先輩は驚いた顔で和田を見る。

「フフフフ。この日の為に、ネットの海を駆け巡っていたのだよ。日本で馴染みの無い物を食べた方が、海外に来た感じを満喫できるだろう。」

「へえ。和田にしてはやるなあ。」俺は感心して和田を見る。

「和田のくせに。」進一がボソリと言った。

「聞こえているのだよ!!全く!!ぷん!!」

和田はプンスカしながら言った。ぷんって何。

「麺線は屋台に良くある料理だな。ローズアップルは南国の果物だ。両方食べれば、腹は膨れるか。行くぞ。」

 スガッチ先生の運転で、繁華街へ向かった。駐車場に停め、台北の街を歩く。

 大きな派手な看板や少しボロくなったビル。路地裏の怪しい暗さ、室外機が沢山設置されたマンション。目のキラキラしたキャラクターの貼ってあるウィンドウガラス。何を売っているのかわからない店。日本に近い様で、少し違う独特な雰囲気と鼻につく謎の香りで、海外に来た事を分からせられている。

 りんのすけは、すれ違った人に声を掛けて、美味しいお店を聞き出している。若い女性がりんのすけの顔を顔を赤らめながら見上げ、多分お世辞を言っている。顔面国宝だな。

「麺線の店を教えてもらった。逸れるなよ。」

「ひょー。本当に何でもできるお坊ちゃんだねえ。俺も見習いたいなあ。」

 スガッチ先生は呑気にテキトーな事を言った。感情が篭っていないから、棒読みに近かった。

 店に着くと、豚モツとパクチーの匂いが漂っていた。

「パクチー苦手。」進一はボソリと呟く。

「そうか。じゃあ別の物探すか?隣のお店も食べ物屋さんだぞ。ぎゅうにく麺?」

 俺は看板の漢字をそのまま読んだ。

「ニューロウ麺だ。それならパクチーは入って無いんじゃないか?」りんのすけは俺の隣に移動して言った。

「先に食べてて良い?」左門時先輩が控えめに手を挙げて言った。

「無論だ。ここからは自由にしてくれ。」

りんのすけが言うと、和田と左門時先輩、スガッチ先生はお店に入って行った。

「つかさは、どっち食べたいの?」

進一は俺の顔を覗き込む。

「迷うなぁ。どっちも食べたい。」

「僕はニューロウ麺にする。」りんのすけは進一の隣に一歩で移動した。

「えー。じゃあ、俺もそれにする。」

 三人でお店の中に入る。

 狭い店内に、プラスチックの丸い椅子と白い四角い机が並んでいた。

 席に着くと、りんのすけは店員さんに注文をしてくれた。

 しばらくすると、白いどんぶりに入ったニューロウ麺が三つ運ばれて来た。

 透き通った茶色のスープに、うどんに近い太さの白い麺、その上にチンゲンサイと牛肉、ネギが乗っている。

 俺はレンゲでスープを掬って一口飲む。

「八角か?独特な匂いがするけど、美味しい。進一、八角の匂いは大丈夫か?」

 進一はコクリと頷いた。

「まあまあ、美味しいな。」

 りんのすけは真顔で麺を食べている。あんまり好きな味では無かったのかも知れない。舌が肥えてると、食べられる物が絞られてしまうから仕方ない。

「俺はこの味好きだから、残したくなったら言えよ。」

 暫く食べ進めた後、りんのすけはそっとどんぶりを俺の方に差し出した。

「苦手な割に結構食べたな。偉い。」

 俺はりんのすけに笑顔を向ける。りんのすけは頬を膨らませて、そっぽを向く。

「ふん。別に苦手とは言っていないがな。」

 昼飯を食べた後、土産物屋や夜市を見て回り、その日を終えた。

 高級な屋敷のベッドはフカフカでよく眠れた。

 早朝になり、半袖半ズボンの動きやすい格好に着替える。リュックには、懐中電灯や方位磁石、タオル、プロテインバー、ペットボトルの水を入れた。何があるか分からないから、最悪を想定し、遭難しても大丈夫な様に準備をした。

 りんのすけは大きな荷物を用意していた。キャンプ用品だろう。

 荷物を乗せ、車に乗り込み出発する。

 途中で休憩を挟みながら、UMAが居ると言われる湖のある山へ向かった。

 途中で車を降りて登山道を登る。

 湖の場所までかなり遠く、登山慣れしていない為、三時間近くかかった。

 午後四時過ぎに湖に到着する。

 木の無い、草の生えた山肌に囲まれた小さな湖だ。苦労してたどり着いた達成感と綺麗な景色で、テンションが上がる。

「やっと着いた!」俺は万歳をする。

「もう無理ぃ。しんどいわあ。」スガッチ先生はその場に仰向けで寝転んだ。

「す、すごい。写真で見た所だ。うわー。」左門時先輩は興奮して辺りを見回す。

「この近くにテントを張って、UMAを探索しよう。」

 日が落ちる前にテントを設営する。大きなテントを二つ組み立て、中に折りたたみベッドとその上に寝袋を置いた。

 途中コンビニで買ったおにぎりやパンを食べ、腹ごしらえをしてから、湖周辺を探索する事にした。

 テントを出ると老婆が立っていた。

「あれ。いつの間にか誰かいるな。」俺はりんのすけに話しかける。

「観光地でもあるから、誰か居てもおかしくないだろう。話を聞いてみる。」

 りんのすけは北京語で老婆に話しかける。老婆は何か喋ったがりんのすけは首を傾げた。

「台湾語だな。進一君。翻訳機を貸してくれないか?」

 進一はリュックから小さな機械を取り出してりんのすけに渡した。

 りんのすけが話した言葉を変換して、翻訳機から棒読みの音声が流れる。その後老婆が話した内容を翻訳機が語った。

「巨人は居ない。早く逃げた方が良い。」

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