第28話 俺にとっては、最高の罰ゲーム。
夕飯を作る時、他のみんなが手伝おうとしてくれた。そこまで大変な料理ではなかったため、配膳だけお願いした。
カレールーを一箱使って、チキンカレーを作った。玉ねぎのみじん切りを、弱火で熱している間に、人参、じゃがいも、鶏肉を切る。鶏肉は料理酒に漬けて置く。じゃがいもは、溶かす用を細かく、具材用を大きめに、大きさを変えて切って置く。玉ねぎと肉を炒め終えたら、水を加えて他の具材を投下。煮込んでいる間に、サラダ代わりの塩昆布キャベツを作った。煮込み終えたら、ルーを加え、少量の醤油とチョコレートを加える。野菜の旨みが滲み出た、ドロドロ系カレーだ。
「完成。俺流の究極カレー!」
「めっちゃ良い匂い!」ひゅうがはキッチンまで駆け寄って来た。
皆んなそれぞれ、好きな量をお皿に盛りテーブルまで運ぶ。
川島は一口食べた後、俺にハグして言った。
「母さんには悪いけど、家で食べるカレーより全然美味しいよ。」
「そこまで言われると、ちょっと照れる。分量テキトーだから、作るたびに味が変わるんだけどな。」
りんのすけが、俺に真剣な眼差しを向けた。
「つかさ……。」言い切る前に、俺は言葉を遮って「住まないからな。」と、返した。
「おれ毎日コレが良いなー。」
ひゅうがは、ウットリした顔で呟いた。
「うん。今回はかなり成功した気がする。皆んなが美味しいって言ってくれる度に、料理の成功率が上がってる気がするよ。」
八人前程作っていたカレーは、全て無くなった。
後片付けを手分けして終えると、川島がトランプを取り出し、テーブルの上に置いた。
「よし!じゃあやりますか。7並べ真剣勝負。」
川島は優しい笑顔で笑う。
「りんのすけ、罰ゲームは何を用意したんだ?」俺が言うと、りんのすけは不的な笑みを浮かべる。
「進一君に頼んで、薬を三種類作ってもらった。この中から一つ選んで飲んでもらう。ちなみに、効果は飲んでからのお楽しみだ。効果時間は数時間と短いが、効き目は充分らしい。」
俺とひゅうがは、心底嫌な顔をした。
その表情を見て、川島が質問した。
「え、進一君ってマッドサイエンティストなの?」
「だいたいそんな感じだ。」
俺は俯きながら答えた。
「まあ、勝てば良いんだ!勝てば!」
ひゅうがは、胡座をかいたまま腰に拳を当てて気合いを入れた。
川島がカードをシャッフルして、全員に配り終える。
俺は自分の手札を確認する。7並べはお互いが勝ち方を知っていたらただの運ゲーになりかねない。
手札にあったスペードの7を場に出す。
ダイヤの7はりんのすけが持っていた。りんのすけから時計回りでゲームを開始する。
「パスは三回までで良いか?」
俺が確認すると、「良いと思う!」と川島が賛同し、他の二人も続いて賛同した。
「一本勝負だ。ちゃんと本気を出せ。」
りんのすけが、相手の顔色を伺いながら言った。
皆んなは無言で頷く。
張り詰めた緊張感のある空気。相手の持っているカードを自分の手札から想像する。
順番に手札を出していくが、川島はいきなり「パス。」を宣言する。
順番的に、川島が一番最後に出す。後手に回らない様に、初手パスを選択するのは上級者だ。
7並べは、数字を止めて自分が有利に立てば勝率が上がる。しかし、全員で止め過ぎると自分が出せなくなる可能性も上がる。結論、後手に回った奴が敗者だ。
ターンが進んで行き、手札が減って来た。俺の手札は残り5枚だが、他の人の手札が場に出て、後2枚出せる状態を作る事が出来れば、勝ちだ。
止めているハートの9からジャックまでは、俺の手の中にある。
「上がり!」川島は最後の一枚を出した。
「何いぃ!!」俺は驚きの声を上げた。
「他の人の罰ゲーム見るの、楽しみだな。」
川島は優しい笑顔で鬼の様な事を言った。高みの見物か。気分が良いだろう。
続いてりんのすけも上がる。
「この程度のお遊び、僕にかかればどうって事ないね。」ドヤ顔をし、ソファの上で足を組んだ。
「ハートの9止めてる人誰だよー!」
ひゅうがは頭を抱え、手札を場に出した。
この瞬間、俺の勝ちが確定した。
「ゲーム終了!」俺は最後の手札を出し切り、ビリから免れた
ひゅうがは絶望した顔をして、頭を抱える。
「うわーーー!おれの負けかよ!!!イヤだー!飲みたくない!飲みたくないよー!」
ジタバタするひゅうがを、りんのすけが上から押さえつける。楽しそうだが、不敵な笑みを浮かべていた。
「さあ、選べ。好きなモノを選んで良いよ。」
「ヒィィィィ!!……わかった。わかったから!」
大人しくなったひゅうがを自由にして、りんのすけは小さなプラスチックの薬入れを出した。
薬入れには、青く丸い錠剤・茶色のカプセル・黄色の楕円形の錠剤が入っている。
「じゃあ。黄色が好きだから、黄色で。」
ひゅうがは錠剤を選んだ。
りんのすけは、グラスに水を入れてテーブルに置いた。
「今すぐ飲まなきゃダメ?」
ひゅうがは唇を尖らせて、上目遣いをする。
「硬化時間短いなら、早く飲んだ方が良いんじゃないか?」
俺はニヤニヤしながら言った。
ひゅうがは、目をギュッと瞑って悔しそうな顔をした。
「わかった。飲むよ!」
ゆっくりと口の中に薬を入れ、コップの中の水を一気に飲んだ。
「一体、何が起こるの?」川島はゴクリと唾を飲み込み、ひゅうがに注目した。
「おれ、何か変わった?」ひゅうがは、恐る恐る皆んなの顔を見る。
「まだ変化は無いみたいだね。」
りんのすけもひゅうがを注視する。
「ん?なんか、全身筋肉痛みたいに痛くなって来た。イタタタタタ!何コレ!こわい!」
ひゅうがは、床の上でゴロゴロ転がった。
次の瞬間、ひゅうがは服だけを残して消えてしまった。
「え?何?」川島は動揺して、立ち上がった。
俺はすかさず、ひゅうがの服へ駆け寄った。
「大丈夫か?!」
俺はひゅうがの服をめくった。
服の中には、幼稚園児くらいの男の子がいた。フワフワの金髪癖っ毛で、クリクリの目をしている。
「あ!つかさだ!いっしょにあそぼうよお!」
幼稚園児は、全裸の状態で俺の足元まで駆け寄り手を広げた。
俺は困惑し、ひゅうがの着ていたTシャツをその子に着せた。ブカブカすぎて胸元が隠れない。裾が地面についてしまう。
「自分の名前言えるかな?」
俺はしゃがんで、幼稚園児と目線を合わせる。
「おれねー。ひゅう君っていうのー!」
幼稚園児はバンザイをして笑顔を向ける。
「自分の名前言えてえらいねえ。ひゅうが君で合ってるかな?」
「うんー。そーだよー?」
俺は後ろを振り返り、りんのすけと川島の顔を見た。
「幼稚園児になる薬だったんだな。」
りんのすけは、顎に手を当ててニヤニヤしながら言った。
「本当に小さくなったの?手品じゃなくて?」
川島は驚き、興味津々で俺の隣まで駆け寄った。そして、スマホを取り出し、写真を撮る。
「小さくなっただけって感じがしない。言動が幼稚園児過ぎる。弟の友達と同じ様な喋り方だ。」
俺も小さくて可愛いひゅうがの写真を撮る。
「可愛過ぎる……!」俺は噛み締める様に言った。
りんのすけは、壁掛け時計が夜の9時を指し示しているのを見て言った。
「もうこんな時間か。そろそろ寝る支度をしないとな。またリビングで寝るか?」
「皆んなで一緒に寝るの良いねー。お泊まり会って感じ!」川島はノリノリだ。
「そうだな。ひゅうがも幼児になってしまったし、ベッドより布団の方が安心だ。」
俺も賛成する。
ひゅうが以外の三人で、リビングに布団を用意し、順番にお風呂に入る事になった。
「俺が先にひゅうがと一緒に入るよ。良い子は寝る時間だしな。」俺が提案する。
「おふろ、はいりたーい!」ひゅうがは元気よく言った。
「子供の扱いは慣れていない。頼むぞ。」
りんのすけは、ソファに座り川島と一緒にテレビを見ながら待つ。
お風呂場に行き、ひゅうがの頭と体を洗ってあげた。弟と一緒にお風呂に入った経験がここで生きるとは、昔の俺だったら予想もつかなかないだろう。そもそも、友達が幼児化するなんてあり得ない。
ひゅうがは、とても大人しく言う事を聞いてくれる良い子だった。
自分のシャワーも済ませ、体も拭いてあげた。
「着替えが困るな。」
俺は自分の着替えを済ませ、裸のひゅうがを連れてリビングに戻る。とりあえず、ひゅうがの荷物を開けさせてもらい、赤色のパジャマを取り出す。ひゅうがに着させたが、案の定ブカブカだ。
「りんのすけ、子供用の着替えは流石にないよな?」俺はりんのすけに聞いてみる。
「備えていないな。一応、サソリに頼んでみるか。」そう言うと、スマホで連絡を取った。
次に川島が風呂へ行く。
俺とひゅうがもソファに座る。すると、りんのすけが誰かとビデオ通話を始めた。
「進一君、罰ゲームはひゅうがに決まったよ。約束通り、結果を知らせる。」
りんのすけは、俺とひゅうがの方にスマホのカメラを向けた。
「進一と通話してるのか!おーい。またエゲツないモノを開発したな。いつ効果が切れるんだ?」
スマホの向こうの進一が答える。
『おおよそ6時間くらいかな。人によって差はあるだろうけど。夜にゲームをすると思って、朝には効果が切れる様に設定した。』
「ねえねえ、だれとおはなししてるのー?」
ひゅうがは、俺の服の裾を引っ張って上目遣いで聞いた。なんて可愛いんだ。
『なるほど。見た目だけじゃなくて、思考も幼児化する事に成功してるね。良かったよ。』
進一はスマホの向こうで淡々と話した。
「一体どう言う仕組みで、こんなモノ作れるんだ?」俺は興味本位で聞く。
『それは、ナイショ。また学校で詳しく聞かせてね。』
りんのすけは、スマホを自分に向けて言った。
「ああ。勿論だ。面白いモノを見せてくれて感謝するよ。」
『こちらこそ。おやすみ。』通話は終了した。
「おれ、ここに座りたい。」
ひゅうがは、俺の膝の上を通って、俺とりんのすけの間に座った。
「本当に子供になっているな。興味深い。」
りんのすけは、ひゅうがの顔を覗き見る。
ひゅうがは無言でりんのすけの鼻を摘んだ。
「つかさ、助けろ。」りんのすけは、俺の膝をバンバン叩いた。
「ははは。イタズラっ子だなあ。ひゅうが、高い高いしようか?」
俺はひゅうがの手を優しく触る。ひゅうがは、りんのすけから手を離し俺に抱きついた。
「するー!」
あまりの可愛さに俺は頭を抱えた。
そして、座ったままひゅうがを高い高いする。ひゅうがは、キャッキャッと喜んだ。
「つかさは、子供の扱いに慣れているんだな。僕は、下手に触ると壊しそうで、近寄るのも嫌だ。」
りんのすけは、そっぽを向いてため息を吐いた。
「弟のめんどうを見るので慣れただけだ。抱っこしてみるか?脇の下に手を入れて、そのまま持ち上げれば軽々上がるぞ。」
俺はりんのすけに提案して、ひゅうがを自分の膝に乗せた。
「……。やってみよう。」
りんのすけは、恐る恐るひゅうがに手を近づける。脇の下に手を入れ、持ち上げた。
ひゅうがは、満面の笑みをりんのすけに向ける。
「あのね。おれね。おおきくなったらサッカーせんしゅになるんだよー!」
それを見て、りんのすけも釣られて笑顔になる。とても優しい笑顔だった。
「そうか。お前ならきっと立派なサッカー選手になれるぞ。」
俺はその横顔をニヤニヤしながら眺めていたら、りんのすけに気付かれた。
「何を見ているんだ。」りんのすけは、俺を睨みながら、ひゅうがを差し出した。
「いや、別に。」俺は、ひゅうがを自分の膝の上に乗せ、そっぽを向いた。
川島が風呂から上がり、りんのすけは風呂へ向かう。
テーブルにあるトランプを使い、川島は簡単な手品を見せた。消えるカードを見て、ひゅうがは不思議そうな顔をしながら楽しそうだった。
りんのすけが風呂から出てくると、チャイムが鳴った。
りんのすけの指示で、俺がサソリさんから荷物を受け取る。家に上げようとしたが、「邪魔しては悪い。」と、荷物だけ置いて帰って行った。
リビングで荷物を開けると、子供用の下着やパジャマ、着替えが入っていた。
「体が元に戻ったら、着てた服って、どうなるんだろうな?」俺は二人に聞いた。
「確かにねー。大事なところが潰れたら痛そうだから、とりあえず、パジャマだけ着せる?」
川島が提案する。
「そうだな。パジャマだけなら、ひゅうがの筋肉で破れるだろう。多分。」
りんのすけはテキトーな事を言う。
「本当かよ?うーん。それでも、裸で寝かせるよりはマシだよな。そうするしかないか。」
俺は二人の意見に従い、パジャマを着替えさせた。サイズは少しだけ大きめだが、大人用よりはかなりマシだった。
部屋を暗くし、俺は先にひゅうがを寝かしつける。
まだ寝るには少し早い時間だったため、三人で映画鑑賞会をした。
「何でホラー映画なんだよ。」
俺はりんのすけのチョイスに文句を言った。
「つかさのためを思ってだ。感謝しろよ。」
りんのすけは、偉そうに腕組みしながら言った。
「オカ研なのに幽霊苦手なの、なんかウケるね。」川島は小さい声で笑った。
「そう言うなって。いつか、ホラー映画を克服してやる。」
俺は気合を入れて、ホラー映画に挑む。
ネットで話題になっていた、和製ホラー映画だ。ホラー好きでも恐怖するレベルの強敵。この暗い部屋で見ると、恐怖レベルはさらに上がるだろう。
りんのすけは、目を輝かせながら映画に見入る。川島は全然平気そうだ。俺はずっと痩せ我慢をしたが、結局隣に居るりんのすけの後ろに隠れると言う、醜態を晒してしまった。
良い時間になり、俺達は布団に入った。
俺の上にりんのすけ、俺の隣はひゅうがだ。川島はりんのすけの隣の位置にいる。
隣で眠るひゅうがの寝顔を確認する。スヤスヤと気持ちよさそうな寝ている。
安心して横になると、ひゅうがはコロコロ転がって、俺の隣に来た。寝相が悪いのかも知れない。
下手に触って起こしてしまうのも大変だ。また寝かし付けなければならない。
俺はそのまま、同じ布団で寝る事にした。ひゅうがに、自分の掛け布団を分けた。
幼児の温かな体温を感じながら、俺はいつの間にか寝てしまった。
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