第27話 ほのぼの勉強回。

屋上のいつもの場所に座る。

 今日は青空で、少し雲が漂っている気持ちのいい天気だ。

 りんのすけの不登校が終わった後、昼休みを一緒に過ごすメンバーが増えた。

 川島と俺の他に、ひゅうがとりんのすけが加わった。

 ひゅうがは、クラスに友達が多いそうだが、俺と食べたいと言ってくれた。

 りんのすけは、西条寺さんからのストーカー被害が完全になくなり、隠れる必要がなくなったからと言う事だ。

 俺はカレーパンの袋を開けながら、勉強会の話を切り出した。

「期末試験の勉強会、いつやろうか?」

「え、勉強会?楽しそうだね。俺も行っていい?」川島が言う。

「みんなで一緒にやろうぜ?なあ、りんのすけ。」ひゅうがは、りんのすけを肘で突いた。

 りんのすけは、ひゅうがの肘をつねり上げる。

「痛い痛い!」

「まあ、人数の多い方が、苦手分野もフォロー出来るだろう。」

りんのすけは、漆の弁当箱を開けた。

「りんのすけは、苦手な科目って無さそうだよね。」

川島がコンビニのおにぎりを、袋の中から取り出して言った。

「まあな。」りんのすけがドヤ顔をする。

「四人だと、俺の部屋が狭くて集まれなさそうだな。りんのすけの家に集まってやらないか?無駄に広いし。」

俺はそう言って、カレーパンを頬張る。

「一言余計だぞ、つかさ。僕の家を使うのは、別に構わないよ。期末試験直前の土日に、泊まりでやっても良い。つかさが、料理をしてくれるならな。」りんのすけは俺の方を見て、ニッコリと笑顔を向けた。

 土日は使用人がいないから、俺にやらせたいんだな。と、すぐに察した。

「期末試験の前なら、サッカー部休みだ。おれも泊まりたい!つかさの料理食べたい!」

ひゅうがは、俺に満面の笑みを向けた。

「へえ。つかさって料理出来るんだな。いつも購買のパンばっかり食べてるから、意外かも。」川島は少し驚いて言った。

「毎朝作るのは、流石にめんどくさくてさ。わかったよ。朝昼晩、作ろう。」

「やったー!」ひゅうがは万歳をして喜ぶ。

 りんのすけは、勝ち誇った顔をする。

「せっかくお泊まり会するならさ、何か罰ゲーム賭けたゲーム、やらない?」

川島は優しい笑顔で、鬼の様な提案をした。

「ほう、面白い。是非やろう。」

りんのすけは、何か企んでいる様な怪しい顔をする。

「罰ゲームって、嫌な予感しかしないんだけど。」俺は苦い顔で言う。

「イイじゃん!面白そう!」ひゅうがは楽しそうだ。

「無難にトランプで勝負してみない?大富豪とかさ。」川島が提案する。

「大富豪、おれ、よくわかんない。」

ひゅうがは申し訳なさそうに言って、シュンとした。

「7並べならわかるか?」俺が聞くと、ひゅうがは見えない尻尾を振っている様な顔で、俺を見る。

「うん!7から順に並べるやつ!」

「よし。罰ゲームは、僕が用意しよう。」

りんのすけは不敵な笑みを浮かべる。

「今後の人生に支障が出ないもので、お願いします。」俺は釘を刺した。

「僕も鬼ではない。適度にお遊び程度のモノを用意する。」

「ヨシ……。負けない様に、7並べも勉強しとこっと。」

川島は紙パックのジュースのストローを咥え、遠くの景色を眺めながら呟いた。




 勉強会当日。午前中からりんのすけの家に集まった。

 川島が初めてりんのすけの家を見た反応は、俺やひゅうがと大体同じだった。

「料理の材料は、使用人に一通り頼んで揃えてもらった。いくらでも好きなものを使ってくれて構わないよ。」

 りんのすけの家に着くと、最初にりんのすけはそう言って、俺をキッチンに案内する。

 冷蔵庫や床下収納に、有りとあらゆる食材が入っている。

「絶対使い切れないけど、いいのか?」

「余ったら、家に来る使用人が後で使う。問題ないよ。」

 リビングに置かれた、ガラス製のローテーブルに勉強道具を広げる。

 りんのすけ先生が、わかりやすく内容を解説してくれる。川島も、たくさん教えてくれた。

 あっという間に、お昼の時間になる。

 一度テーブルの上を片付けて、俺は料理に取り掛かる。

「今日のお昼は、天津飯と牛肉炒めと中華スープだ。中華はまだ作った事ないなと思って、作ってみた。」

 本物のカニが冷凍庫にあったため、かなり豪華な天津飯が出来た。

 溶き卵にほぐしたカニと、和風ダシを少し入れて、ふんわり焼く。上にかけるためのあんは、少し胡麻油を追加して風味を付けてある。フワフワでトロトロな天津飯は、レンゲが止まらない美味しさ、の筈だ。

 大食いのひゅうが用で、牛肉とアスパラ炒めを作った。明らかに高そうな牛肉を、派手な味にしたくなかったため、油を玉ねぎで香り付けし、塩と鷹の爪、生姜、ブラックペッパーでシンプルに味付けをした。香り付けのために炒めた玉ねぎは、スープの具として利用する。スープは卵とコーンを加え中華風に味付けた。

 川島は、天津飯を一口頬張ると、目を瞑って唸った。

「んんーー!うまぁぁぁ……。」

「良かった。中華は普段作らないから、少し心配していた。」

俺は川島の幸せそうな顔を見て、笑顔になる。

 ひゅうがは、一瞬で天津飯を平らげ、野菜炒めに手を出す。

「本当に美味しい!全部さいこー!つかさ、良いお嫁さんになれるな。」

 ひゅうがは俺の方をポン、と叩き親指を立てた。目がキラキラと輝いている。

「つかさ。真面目に土日だけ僕の家に住まないか?」りんのすけは真顔で俺に言った。

 真剣な眼差しが綺麗すぎて、俺は圧倒される。

「うっ……。ならないよ!大学生になったら考えてやる。」

俺は眩しい眼差しを手で遮りながら言った。

 ひゅうがは、ショックを受けた様な顔になった。お箸で掴んでいたアスパラが、取り皿の上に落ちる。

「ルームシェアするなら、おれも誘えよ?なあ!絶対だぞ!」

ひゅうがは箸を置き、涙目になりながら俺の肩をポカポカ殴る。

「ああ。わかった、わかったから!料理が冷めるぞ?」

「よし!」と、ひゅうがはガッツポーズをして、お箸を持ち直す。幸せそうに料理をたくさん頬張った。

 お皿洗いは、俺以外の三人がやってくれた。りんのすけは、俺のいない土日にもしっかり家事をやれている様子で、手際が良くなっていた。親心の様な感動が、俺の中に芽生える。

 ご飯を食べ終え、午後の勉強に取り掛かる。

 英語の勉強になると、俺は川島やひゅうがに教える事が出来た。

 小学生の頃に、少しだけアメリカのスクールに通っていたり、父親が英語の学習を積極的にしてくれたおかげで、英語だけは得意だった。

「リスニングの時、ここに連続でリエゾンかかるから気をつけた方が良いぞ。」

俺はひゅうがの教科書を指さして言う。

「りえぞん?って何?」ひゅうがは、教科書を近距離で見つめながら言った、

「この比較で使う、as+なんとか+asの、間に挟まれてる単語が、発音する時に全部繋がって聞こえがちだ。I can run as fast as Jun.の例文を大袈裟に言うと『アイキャンラナスファスタスジュン』みたいな感じで。」

「待って、つかさ発音良くね?」

ひゅうがは驚いた顔で、俺を見た。

「おい、勉強に集中しろ。」りんのすけがひゅうがを睨んだ。

「ごめんごめん!」ひゅうがは、りんのすけの視線をノートで防いだ。

「英語だけは俺の数少ない特技だな。アメリカに一人だけ友達もいるし。」

「へえ!おれサッカー選手になるために、英語はちゃんとやらないとって思ってるんだよなあ。つかさ、もっとたくさん教えて!」

 その後も勉強を進めて行き、15:00に一旦休憩をする。

「よし!今のうちに、筋トレやろうぜ!」

ひゅうがは立ち上がって、拳を上に向けて掲げる。

「元気だねえ。俺はちょっと横になるよ。」

川島はソファの上に寝転がった。

「夏休みのためにも、やるぞ!」

俺もひゅうがに倣って立ち上がる。そして、りんのすけの方をチラッと見る。

「はあ。わかったよ。僕も付き合ってやる。」

りんのすけも立ち上がった。

 ひゅうが先生の筋トレ塾が始まった。

「はい!じゃあ、まずは、ムキムキにしたい場所はどこですか!」

ひゅうがは元気よく手を挙げて言う。

「全部です!」俺は手を挙げて答える。

「欲張りさんだなぁ。じゃあまずは、軽くプランクからやるかー。俺と同じ姿勢になってね⭐︎」ピースを目に当ててウインクした。

 ひゅうがは、うつ伏せの状態で肘を曲げて床につき、つま先だけを床につけて腰を持ち上げ、身体全体をつま先と肘で支える、プランクのポーズを取る。俺とりんのすけも同じポーズを取った。

「頭から踵まで一直線になるようにね!つかさ、ちょっと腰が沈んでる。」

「うぅ。これ結構キツイな。」

 りんのすけは、涼しい顔で綺麗な姿勢を取っていた。

「とりあえず、3分やるよー。」

「3分!?長くないか?」


 3分後。


「はい終了!」ひゅうがは膝を床につけた。

「脚の裏が、プルプルしてる。」

俺は潰れる様に、床の上でうつ伏せになった。

「それだと自重が後ろに寄りすぎてるなー。肘とつま先の両方に分散させれば、もっと楽になるぞ!」

 その後、身体を捻りながらやる腹筋や、膝を伸ばし切る事を禁じたスクワットをやり筋トレは終了した。

「これは絶対筋肉痛になる。俺にはわかる。」

俺は息切れしながら、仰向けで寝転がった。

「思ったより、かなりしっかりしたトレーニングだったよ。少し見直したね。」

りんのすけは、涼しい顔でひゅうがに言った。

「へへへ。ありがとう!皆んなと筋トレ出来て楽しかったー!」

ひゅうがは両手をグーにして、バンザイする形で伸びをした。

 また勉強に戻り、あっという間に夕飯の時間を迎えた。

 罰ゲーム付きのトランプ対決の時が、刻一刻と迫っている。

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