第17話 オカルト研究部の大仕事。
「「せーの!」」
掛け声を合わせ、部室のドアを開ける。
錯乱した人達が、次々に襲って来た。ひゅうがは、襲いかかる攻撃を猛スピードで避け、何度も躱わす。
俺は腕でガードしたり、押し除けたりしながら道を作る。さっきより、錯乱した人達の攻撃が弱くなってる。しかも、明らかにひゅうがを狙っていた。
部室の直ぐ横にある階段を、防御しながら進む。手を伸ばして襲おうとする錯乱者を、ひゅうがはジャンプで躱わす。そのまま階段の手すりに着地し、もう一度ジャンプして一気に4階へ降りた。ひゅうがを追いかけて、錯乱者は動いた。階段が空き、俺はひゅうがを追いかける。
「和田がいる!」大声でひゅうがは言い、指を指す。「あそこだ!」
「でかした!とりあえず、塩を使ってみる。」
俺は塩を手に握り、走って和田の所まで突っ込む。和田に塩を撒いたが、変化はなかった。
「駄目だ!効いてない!とりあえず捕まえるぞ!手伝ってくれ!」
俺がひゅうがを呼ぶと、直ぐに駆けつけたくれた。錯乱者がひゅうがの後ろから迫ってくる。
「俺が腕を持つから、ひゅうがは脚を頼む。肩に担ぐぞ。」
「OK!」
和田は暴れていたが、ひゅうがの生命パワーのおかげか力が弱まっていた。元々非力なのかも知れないが、結果的にすんなりと押さえ込めた。
「行くぞ!」俺が叫んで、急いで和田を運び出す。ひゅうがは襲ってくる錯乱者達を蹴り飛ばしながら道を進み、無事に3階に辿り着いた。
すると、西条寺さんが、廊下の真ん中にある3年3組の教室から顔を出し手招きした。
「進一君を確保して、お祓いに成功しましたわ!」
「ありがとう!よかった。」俺は安堵のため息を吐き、「こっちはひゅうがの救出に成功した!」と叫んだ。
西条寺さんがタイミングを見てドアを開け、走って教室の中へ飛び込む。ひゅうがは足でドアを閉める。
「こいつも頼むよ。」ひゅうが言い、俺と掛け声を合わせて、和田を床に下ろす。
和田は暴れて立ち上がり、ひゅうがを襲おうとしたが、ひゅうがはすかさず上段回し蹴りを放つ。高速の蹴りは空気を切り、風を起こした。そして、和田のうなじに当たる。和田はそのままバタンと床に倒れた。
「あっ。やりすぎたかも。」
ひゅうがは焦って、和田に駆け寄った。俺は倒れた和田の脈と呼吸を確認した。
「大丈夫。気を失ってるだけだ。」
「よかったあ。おれ、力加減わからなくて。」
ひゅうがは、苦笑いしながら頭を掻いた。
西条寺さんが自分のリュックから縄を取り出し、気を失っている和田を拘束すると、お祓いわ始める。
「進一、無事か?」
俺は西条寺さんの近くにいる進一に話しかけた。
「うん。事情は聞いたよ。大変な事になったね。」進一は、真顔で淡々と言った。
「呪いの元を断ったんだが、ダメだった。何か良い方法あるか?」
俺は進一の近くに移動する。進一はしばらく考えた後、口を開く。
「呪いの映像を見た時の記憶を消せば、何とかなるかも知れない。現状、除霊された僕は映像を見た時の記憶が曖昧なんだ。」
「本当か?進一はやっぱり天才だな!それって今作れそうか?」俺は歓喜の声を上げた。
「今直ぐはちょっと……。でも材料があれば作れるよ。ちょっと待ってて。」
進一はそう言うと、制服のズボンのポケットからスマホを取り出し、誰かに通話で連絡した。
「しばらくしたら、道具がここに届く。」
進一と話し終えると、西条寺さんが、お祓いを終えて呟いた。
「和田君のお祓いは失敗しましたわ。彼の霊力が強くて呪いが祓いきれないみたいです。」
西条寺さんは自分の無力さに、苦しい表情をした。膝の上で拳を強く握りしめる。
それを聞いて、進一の口元が少しニヤリと上がる。
「へえ、興味深いね。和田を実験台にしよう。和田が治れば皆んなを治せる可能性が高い。」
「……殺すなよ?」俺は恐る恐る言う。
「それは大丈夫。」進一は真顔でコクリと頷く。
教室の窓が廊下からバンバンと叩かれる。
「集まって来てますわ!」西条寺さんが叫ぶ。
「このままだと、窓を破られるかも!」
ひゅうがは身構える。
「そうなる前に俺が囮になる。」俺が立ち上がって言った。
俺の目の前に腕を伸ばし、ひゅうがは止めた。
「嫌、おれが行く。アイツらおれの方を狙って来てたし。おれの方がアイツらの攻撃を避けられるよ!」
廊下側の窓に友永さんがいる事に気がつき、ひゅうがは一瞬怖気付く。しかし、頭を振って、下を向いた。
「……。つかさ、おれにパワーを分けてくれ………そしたら、おれ頑張れるよ!!」
ひゅうがは目を瞑ったまま顔を上げ、両手を広げた。少し顔が赤い。
俺はひゅうがを強く抱きしめた。
「パワー注入!!!でも、本当に無理するなよ。ヤバくなったら校舎の外に逃げるんだ。」
ひゅうがは、少し戸惑った後、俺を優しく抱きしめ返す。
「ああ、わかってるよ。はあ。ったく、本当にパワーもらっちゃったな。」
抱きしめたまま俺の耳元で囁いた。
ドアの前まで、ひゅうがは早足で向かい。開ける直前に振り返った。
「進一、時間はどれくらい必要そう?」
「90分欲しい。」進一はボソリと言う。
「サッカー1試合分だな!それだけで済むなら余裕で全力ダッシュ出来るぜ!」
親指を立て、ウインクした。
ドアを思い切り開け、直ぐに閉める。
「おい、友永。こっち来いよ。」
ひゅうがは冷や汗を垂らしながら、錯乱する友永さんに挑発の手招きをした。廊下に溜まっていた錯乱者を引き連れ、別の階へと向かった。廊下は一気に静まり返る。
俺の頭の中に、りんのすけの事が浮かんだ。急に不安になる。
「俺はりんのすけを探してくる。このメチャクチャな校内の状況をりんのすけに見せるのは……かなり嫌だが。でも、あいつの事が心配でじっとしていられない。」
俺もドアの方へ向かった。西条寺さんも立ち上がる。
「わたくしも行きますわ。」
人がいなくなった廊下を、走った。
途中、ひゅうがを追いかける錯乱者を見かけたが、りんのすけの姿は見えなかった。
「まだ体育館に残ってるかも知れない。行ってみよう。」
俺の提案に西条寺さんは頷いた。
体育館の周りは、まだ錯乱者が何人か留まっている。また遠回りして、体育館に向かう
体育館の外から中の様子を注意深く観察する。数人の錯乱者がいたが、またしてもりんのすけの姿は無かった。
「ここで待っていてくださる?」
西条寺さんは、体育館の真ん中まで走る。襲ってくる錯乱者を、うなじや腹、顎を殴り気絶させた。
体育館の中が安全になり、俺も中に入る。
「別の場所にいるのか?」俺は体育館の中を走って見渡す。ふと、視線を上に向ける。
体育館の2階。観客席にポツンと立つ後ろ姿。人影が見えた。
「いた!りんのすけだ!」俺は指し示した。
西条寺さんも上を見上げる。表情が一気に柔らかくなった。
「りんのすけ様!そちらにいらしたんですのね?」大声で話しかける西条寺さんを、りんのすけは振り返ってこちらを見た。
目は虚で、顔色が悪い。呪われている。
「西条寺さん、気をつけて!」
俺が西条寺さんの方に向き直ると同時に、りんのすけは2階から飛び降り、西条寺さんにそのまま殴りかかった。
バキッ!
何かの折れる音が体育館に響く。
俺は頭が真っ白になり、頭のてっぺんが冷たくなる感覚に襲われた。
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