第11話 俺についての噂話。

 和田に『西条寺』と言うお寺まで案内してもらう事になった。が、和田があまりにも方向音痴である事が発覚した。

「ここを右だね!」自信満々に先陣を切る和田。

 また見覚えのある家だ。同じ所をぐるぐる回っている様にしか感じない。

 そんな時に、進一がスマホでマップアプリを使い「ここ左だよ。」と案内を代わってくれた。

 和田は「解せぬ。」と言う顔をしたが、進一の案内に代わってから、ほんの数分で目的地に到着した。

 とても立派な大きなお寺だった。鳥居を潜り、お寺の関係者を探す。

 お守りや絵馬を販売している巫女さんに話しかけると、お祓いが出来る人を呼んでくれる事になった。本当は予約制だが、今日は特別に空いていたらしい。

「お祓いってお金たくさんいるよな。所持金で足りると良いが……。」

俺は財布の中身を確認する。千円札が一枚しか入っていない。

「お祓い、見た事ないから見学料で僕が出すよ。研究にも使えそう。」

進一が言う。

「いや!それは申し訳ないから大丈夫だ。……後で返すから、立て替えだけお願いして良いか?」

俺は進一に頭を下げた。

 しばらくすると、神主さんらしい男の人が出てきた。寺の中に案内され、三人で中に入る。

 立派な仏像が置かれた畳の部屋に着くと、

「腕に憑いてる霊魂、色が特殊ですね。」

と神主さんが言った。それについて、進一が説明すると、「未来の技術だ……!」と感心された。

 除霊の前にいくつか注意事項を言われた。長かったので要約する。


①腕に憑いているものは本体ではないため、本体の除霊にはならないこと。

②霊魂は、霊体につき一つとは限らないこと。

③俺に憑いてる霊魂は、塩を撒いたお陰で弱っているから除霊が簡単に済むこと。


以上が大まかな内容だ。

「先ほど説明した様に今回の除霊は簡単に済みます。もしよろしければ、家の姪っ子に除霊させたいのですが、よろしいですか?その分料金はいただきません。」

神主さんの言葉に、俺は進一と和田に目配せをする。二人とも好きにしろって感じの反応だ。

「じゃあ、それでお願いします。」と俺が言う。

 神主さんは一度退席し、その姪っ子を呼びに行く。しばらくして、巫女装束に着替えた、例のストーカー少女西条寺さんが出てきた。

「あら、オカルト研究部の方々じゃありませんか。」

西条寺さんは、凛とした顔を崩さずに言った。

「すみません。今日はりんのすけがいないんですよね。」俺は何となく謝った。

「別に構いませんわ。りんのすけ様と私は運命の糸で繋がっておりますから。」

西条寺さんは頬に手をあて、顔を赤らめた。俺は愛想笑いをする。和田が口を挟んだ。

「この美女と知り合いなのかね?」

「いや、知り合いって程でもない。偶然だが顔を合わせる事が多いだけだ。」

俺は小声で、意味ありげに言うが、和田には全く伝わらなかった。

「わたくしも暇ではないです。早く始めますわよ。」西条寺さんは、木の棒に和紙のついた、お祓いで使う道具を手に取る。

 お祓いの儀式が始まった。取り憑かれてる腕を上に上げろと言われて、腕が限界になるまで掲げ続けた。結構しんどい。俺は正座をし、目を瞑って儀式が終わるのを待った。

「はい、終わりましたわ。」

西条寺さんの声に、俺は目を開ける。腕に憑いていたものが、綺麗さっぱり居なくなっていた。

「ありがとうございます。助かりました。」

俺は正座のまま、西条寺さんにお辞儀をした。

「西条寺さんってお寺の人なんですね?知らなかった。」俺は顔を上げて話しかける。

「わたくしにとってコレは、社会科見学の一環ですわ。お母様の事業を継ぐのが本業です。お寺の子と呼ばれるのは悪くないですが、後継ぎだと思われるとデマ情報ですので、くれぐれも勘違い遊ばされませんように。」

西条寺さんは、颯爽と立ち去った。

 その後、神主さんに挨拶をして、俺たちは帰路についた。

「なあ、和田。最後にちょっと付き合ってもらいたい所あるんだけど。いいか?」

俺は歩きながら和田に聞いた。

「私をこき使わないでくれたまえよ。」

和田は、早歩きで先へ行こうとする。

「そっちじゃないぞー。」と俺は呼び止め、頭を下げて言う。「本当このとおり。頼む。」

「そ、そこまでされたら仕方ないね。ふん。頭を上げたまえよ。」

「ちょろいなー。」俺はつい言葉が漏れた。

「なんか言ったかね?」和田がメガネをくいとあげる。

「いや!何でもない。」俺は首を横にぶんぶん振った。

「つかさもあんまり人のこと言えないけどね。」進一が真顔で言う。

「ぐうの音も出ない。」俺は唇を突き出す。

「ひゅうがに霊が取り憑いてないか、確認して欲しいんだ。部活中だから薬は撒けないが、遠くから確認したい。」俺は二人に説明した。

 進一は珍しく、明らかに嫌そうな顔をした。

「ひゅうがって、あの陽キャの人だよね。僕は行きたくないから帰るよ。」

「苦手だったのか、進一。知らなかった。」

俺は驚いた顔で言った。

「声がデカくて、馴れ馴れしい人は苦手。それじゃ、また明日ね。」

進一は手を振って、去ってしまった。俺と和田も手を振り返す。

「よし、学校へ戻るぞ。」俺が言うと、

「また戻るなんて、段取りが悪いのだよ。」と和田が小さい声で文句を言った。

 お寺から学校までは10分ほどで着いた。行きの時間を考えると、半分以上も短い。和田は、学校の近さに驚いていたが、俺は無視した。

 サッカー部のいるグラウンドの端に着くと、すぐに練習中のひゅうがを見つけた。

 練習している所を見るのは初めてだ。素人目だが、先輩達に引けを取らない、と言うより先輩達より上手い様に見えた。ひゅうがの真剣な顔は、普段の天真爛漫さとは違う、少し大人びた雰囲気を感じた。

「和田、あの金髪で一番顔の可愛い子わかるか?」俺は和田の肩を叩く。

「ああ、彼の事は知っているよ。クラスの女子達がよく噂しているからね。

「盗み聞きしてるのか。良い趣味してるな。」

俺は少し引いた。

「うるさい!人間観察をしているだけなのだよ。ちなみに君は、女子から嫌われているぞ。」和田は俺の胸を人差し指で突いた。

 俺はあまりのショックにしばらく固まった。

「身に覚えが無い……訳でもないけど何でだ?」

 俺は、入学式の帰りでひゅうがを無理矢理連れ出した事と、面接で女の子に睨まれた事が頭をよぎる。

「伝説の番長で一人で何人もの不良を倒したとか、ヤリチンとか、ナルシストとか色々だね。」和田は肩をすくめて首を振った。

「俺童貞なのに!ヤリチンは酷すぎる。」俺はその場に崩折れ、突っ伏した。

「こらこら、制服が汚れるぞ。全く。ただの嫉妬が生んだ噂に過ぎないだろう。目立つ男二人も手中に収めていると大変だな。同情するよ。」和田は俺に手を差し伸べ起き上がらせる。

「ありがとう。でも一部の女子が言ってるだけの可能性もあるからな。俺はまだ諦めない。女友達に振り回される青春を。」

俺は立ちあがり、拳を固める。

「まあ、精々頑張りたまえよ。」和田はメガネをくいと上げた。

「すまん。だいぶ話が逸れたが、ひゅうがの身体に何か憑いてる様に見えるか?」

「ふん。特に憑いてない様だね。彼からは、黄色く燃える炎が見えるのだよ。やけどをしないか心配ではある。」

和田は自分の両肘を触りながら行った。

「テレビで見た事あるけど、生命エネルギーみたいな事か?俺には見えないけど。ていう事は、あの幽霊はそんなひゅうがの体調崩させたのか。うっ考えただけで恐ろしい。」俺は身震いをした。

 とりあえず、ひゅうがの安全を確認できて安心できた。俺もそろそろ家に帰る事にする。

「これで用事は済んだ。和田、付き合ってくれてありがとう。まっすぐ家に帰れよ。」

「どういたしまして。言われなくても真っ直ぐ帰るのだよ。」

 和田と別れ、一人で帰路に着く。いつもより落ち着いた放課後を過ごせた気がする。

 しかし、家に帰ってからも俺の頭の中には、言われのない噂をしている女の子達の顔が、被害妄想だが離れなかった。

 明日の学校は普通の時間に行って、みんなに挨拶をする事から始めよう。俺は気を紛らわせるために、音楽を流しながら学校の課題を進める事にした。

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