第92話 幕間:蘆花村九代目清次郎の回想(二)


 ニンジャは、だいぶ変で、ちょっと意地悪だけど、いいヤツだった。

 サムライも楽しいお姉ちゃんって感じで……清次郎ちゃんって呼んでくれた。

 段蔵の爺ちゃんは面白い人だった。唐揚げも美味しかった。料理の手伝いするなんて、初めてだった。


 ……それから、段蔵にちょっと叱られた。大人に心配かけちゃダメだって。

 段蔵は、次の決闘も約束してくれた。

 決闘なのに、とっても楽しみで……もう、段蔵が爺ちゃん達を倒しに来るかも、なんて不安はなくなっていた。

 龍一が迎えに来て、私は家に帰った――帰るんじゃ、なかった。


 帰ったら、そいつらがいたんだ。

 二人組の、悪いヤツら。

 『呪詛組』の坂上銀五郎と、ヤヨ・ビシュハーマンが。

 爺ちゃんは笑いながら「新しい仲間だ」なんて言ってたけど、その時にはもう、おかしく・・・・されてたんだと思う。


 龍一を交えた、新しいビジネスのための話し合いが終わってから、龍一は私の部屋に来て言った。


「俺の出したもん以外は食わんでください、お嬢さん。飲むのも駄目です」


 龍一は、唇から血を流していた。奥歯を噛みしめて、噛みしめすぎて、割れたんだって。その表情が鬼みたいで、怖かった。

 何か、大変なことが起こり始めているんだと思った。


 それから何日かして、私はダンジョンに連れ込まれた。

 ヤヨが用意した、変な服を着せられて。

 爺ちゃんはずっと笑っていて、会話が噛み合わなくて……。

 私に「これを打て」と言って、オレンジ色の液体が詰め込まれた、注射器みたいなヤツを手渡してきた。

 それが何なのか聞いても、笑うだけで教えてくれなかった。


「正規品じゃん。呪詛溶液マントラリソースにしようよぉ♥」

「呼び出す前に人間の作った呪いが混ざると、儀式が不純だと見做されて、降りて来ねえだろうよ。細工するのは呼び出してからだな」


 『呪詛組』の二人はそんな会話をしていた。

 私は、嫌だ、やりたくない、と言った。

 だって、針が太くて、痛そうだったし。……怪しいし。

 だから、嫌だ嫌だって言ってたら、爺ちゃんが――私をぶった。


「お嬢さん! 組長オヤジ、何を……!?」

「儂のやることに意見するか、龍一ィ! 誰が拾ってやったと思っちょる!?」


 生まれて初めて、ぶたれた。

 一億円の壺を割ったときも笑って許してくれた爺ちゃんに。

 びっくりした。それから、怖くなって、何も言えなくなって……私は、そのオレンジ色の液体を打った。


 ……その後の記憶は、ない。


 気づいたら、家に帰って、布団で寝かされていた。

 そばには怖い顔をした龍一がいて、部屋の端ではヤヨと坂上が何か丸い円盤みたいなヤツ――魔術か呪術かに使う道具らしい――を、いじくり回しながら、楽しそうに会話していた。


「お試しだったけど、うまくいったね♥ でも出力不足はどうするの?」

「上位発動させるしかねぇだろ。正規のアンプルをかき集めねえとな。いや、いっそどっかのダンジョンコアかっさらって自作するかぁ?」


 龍一は、私が起きたことに気づいて、深く頭を下げた。


「……お嬢さん。俺は組長オヤジの言うことには逆らえんのです」


 再び頭を上げたとき、龍一の顔には、何の表情も浮かんでいなかった。怒りすぎておかしくなったのか、何もかもを諦めたのか、わからないけれど。

 それからすぐに、私はまたダンジョンに連れ込まれた。それから、ゴスロリの人たちと会って、龍一が戦って――そうだ。


 ふっと、視界の横から手が伸びてきて、カツ丼を触った。


「清次郎。冷めてるじゃないか。温め直して貰うか?」


 ――そこで、急にニンジャが出てきたんだ。


「加藤……段蔵……?」


 ニンジャが、私の顔を覗き込んでいる。

 スーツの大人達が遠巻きに私達を見張っているけれど、段蔵はまったく気にしたそぶりもなく、割り箸を割った。


「メシを食わず、何も喋らないと聞いた。どこか痛いのか? 頬が痛むか?」

「……ううん。もう、痛くない」

「そうか。なら、食え。食わないと力が出ない。力が出ないと決闘に勝てないぞ」


 決闘。はっとして、段蔵を見上げる。

 その表情は、ただただ真面目で、けれど、瞳には力があった。

 何もかもを諦めない、そういう強い意思がみなぎっている。


「いや、決闘の前に、清次郎のおじいさんと、石田龍一を助けないとな。『呪詛組』には個人的な用事もある。あいつらを叩きのめさなければな。だから――まずは食え、清次郎」


 割った箸を、私に差し出してきた。


「どんなときでも腹一杯食える奴は強い。杏奈はさっき、カツ丼二杯食ったぞ。――それとも、清次郎。蘆花村九代目は弱いのか?」

「……うるさい! 弱くない!」


 私は割り箸をひったくて、カツ丼に食らいついた。

 冷めていたけれど、目から勝手に涙が流れちゃうくらい、美味しかった。

 爺ちゃん。龍一。組員のみんな。


「蘆花村組は、強いんだ! 楽しいお祭り屋さんなんだ!」


 いろんなことを考えてしまう。そのたびに手が止まりそうになる。

 でも、私は食べた。段蔵はずっと隣で見守ってくれていた。

 最後は声を上げて泣きながら、食べ切った。


「よく食ったな。さて――」


 わあわあ泣く私の頭を、段蔵の手が撫でた。


「――あとは任せておけ」


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