第93話 護衛任務とお泊まり会(一)


 任せておけ、なんて見得を切ったはいいが、すぐさま動けるわけではない。

 いま、会議室には俺達『迷宮見廻組』に加えて清次郎、左慈支局長、警察から来たスーツの人、政府の職員、それから鷹崎兄がいる。

 他にいた大人は、左慈支局長が追い出してくれた。飄々とした苦労人の中間管理職という風体だが、なんやかんや、ちゃんと顔が利く人ではあるらしい。


「ヤクザの事務所にカチコんでぶん殴って終わり、という風にはならないのが法治国家の辛いところだね。当然、それが法治国家の良いところでもあるが。だから、今の問題は――」


 左慈支局長が、清次郎の方を見た。

 清次郎は杏奈の膝に頭を乗せて、すやすやと眠っている。

 杏奈も普通に寝ている。疲れが出ているようだ。


「――清次郎ちゃんの立場さ。彼女は被害者で、映像証拠もある。政府による保護は適法だ。だが、蘆花村は『彼女の身元を返せ』と言って、弁護士を立ててくるだろう。法的な問題となれば、けりが付くまで数年かかることもあるけど、その間、彼女の身元は児童福祉施設の預かりになる」

「襲われて奪われて終わりだろう、それは」

「その通りだ。他の被保護児童のことも考えれば、規則通りの保護っていうのは難しい」

「彼らを軒並み逮捕すれば済む話ではないのか?」

「僕もそう思うけどねぇ。どうなの、政府見解は」


 話を振られた政府の職員さんが、困った顔で頭を掻いた。


「逮捕したところで、結局は弁護士を立てられて、長期間の法廷闘争に持ち込まれるでしょう。結局、その間は清次郎さんの身元は保護施設に預けられることになります。話は変わりませんね。……ウチで預かるのは避けたいです」

「文系の組織ですからねえ、そちらは」

「はい。まあ……防衛省に頼めば、自衛隊基地なんかも使えなくはないです。が、そこがもし『呪詛組』に襲われでもしたら、他国へ弱みを見せることにもなりかねず……そもそも自衛隊は児童を保護する組織じゃないですしねぇ」


 警察の人が手を挙げた。


「あと、蘆花村のトップを捕まえたりしたら、全国の麾下組織が暴れ出して、全面戦争になるな。治安維持のコストが上がるのは避けていただきたい。……正直、闇ギルドにすら対応し切れていないのが現状だ。任侠なんていう過去の亡霊の相手をしている余裕は、まったくないんだよ。当然、保護も厳しい。ただの――と言う言い方も良くないが――虐待被害者ならともかく、蘆花村組の娘ではな」


 社会人は、誰も彼も大変だな。高校生で良かった、と心底思う。

 警察の人は、そのまま鷹崎兄へ顔を向けた。


「鷹崎君。清次郎さんの保護、頼めないかね? キミ達が護衛に付いてくれたら、どこよりも安全だと思うのだが」

「それは無理ですね。申し訳ないですけど」


 鷹崎兄が、本当に申し訳なさそうな顔で言った。


「俺ら、移動が多いんで。ダンジョン回って配信しないと、アリアの魔力ごはんが用意できなくなって、困ったことになります。つまり、常に現在地を去らし続ける必要があるわけで……しかも、ダンジョン内に清次郎ちゃんを連れて行くわけにもいきませんから、まあ無理かなと」

「ちなみに、困ったこと……とは?」

「最悪のパターンだと、俺の魔力を使い切ったあとに暴走して、その辺の人から魔力を吸い上げまくると思いますね。そうならないよう、日々、情操教育に力を入れてますけども」


 ふむ。俺も挙手して、発言してみる。


「俺は高校生だから、ちょっとよくわからん話も多いが……つまり、清次郎の身元をヤツらから隠しつつ、その間に『呪詛組』を倒して蘆花村組の組長達を洗脳から解放する必要がある、というわけだ……です、よね?」

「相変わらず敬語が下手だねぇ、段蔵くん」


 と、そこで政府職員さんが、「あっ!」と素っ頓狂な声を上げた。


「安全な場所、ひとつありましたよ! 護衛に関しては世界一とまで評された伝説の人物が、日本にはいます!」


 興奮しつつ、俺を見て言う。

 なるほど。そういえば、その手があった。

 ……何かあったら頼れと言われていたしな。


「わかった。うちの先々代――加藤段翁に頼むとしよう。幸い、しばらくはライブに行く予定もないはずだし」


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