第77話 『鷹崎家』(二)
スマホを片手にきゃっきゃする二人の後ろから、すっと男性が進み出た。
「すみませんね、うちのアリアが」
やや細身だが鍛えられた肉体。二十代後半から三十代前半と思しき顔つきには、柔らかい微笑みが浮かんでいる。
「いや、こちらこそ、あんまるがすまな――すみません」
「あ、苦手なら、敬語じゃなくてもいいですよ」
「しかし、年下の俺がタメというのは……」
「年齢の差はありますけど、そこはほら、立場は同じダイバーですから。気楽にやりましょう」
そこで、男性の横っぱらに鷹崎アリアが抱き着いて、それから俺を見た。
「にんじゃ! ぶんしんしてー」
「アリア、失礼だぞ。あと、配信で言ってたでしょ? 分身とか、そういうのは出来ないって」
男性が、鷹崎アリアの頭をぽんぽんと撫でた。
「改めまして……、俺は『鷹崎家』ギルドマスターの鷹崎です。呼び分けで鷹崎兄とか、鷹崎父とか、好きなように呼んでください」
そう、柔和なこの男こそが『鷹崎家』のギルドマスター。
魔道具や使い魔を生み出すダンジョンスキルを持つダイバー。
鷹崎アリアに日本国籍を与えるために奮闘し、国を相手取って法律を改正させた一連の騒動は、ダイバー界隈でもっとも巨大な事件として名高い。
危険な気配は感じないが、修羅場をいくつもくぐってきたのだろう――古木のような存在感は、鷹崎アリアの横でも揺るがない。
「では、失礼してタメで。十八代目加藤段蔵だ。よろしく頼む」
一礼したところで、最後の一人が手を挙げた。俺よりも少し年上に見えるスポーティーな茶髪ショートカットの女性だ。
「私は鷹崎妹ね、よろしく。いやー、高校生かぁ。若いなぁ……」
「お前もまだ大学生だろ、大して変わらないよ」
と、鷹崎兄が苦笑する。鷹崎アリアが意地悪く唇の端っこを上げた。
「アリアのおばさんだよ。ねー、おばさん?」
「アリアぁ? 次おばさんって言ったら叩き潰すって言ったよねェ?」
「やってみればー? アリアが勝っちゃうけど」
鷹崎アリアと睨みあえる鷹崎妹もまた、尋常ならざる胆力の持ち主なのだろう。……いや、単に家族だから気負わないだけか?
武器術の名手で、様々な武器を使いこなす人気のダイバーである。
身のこなしからして、公社を辞めた荻谷さんと同等か、それ以上の実力者なのは間違いない。
……俺も忍者として修業を積んできた身の上だ、街の喧嘩自慢程度に後れを取るつもりはないし、ことフィジカルにおいてはダイバー内でも相当"デキる"方だと自覚している。
しかし、この三人には、単なる強さ以上の
鷹崎兄が火花を散らす娘と妹を放置して、「ともあれ」と微笑んだ。
「ほかにも何人か所属しているけど、今回のコラボはこの三人で行くつもりです。どうぞよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「お願いしまッス☆」
挨拶が終わったところで、左慈支局長が「さて」と両手を打ち鳴らした。
「顔合わせも早々で恐縮だけど、さっそく指名入札の内容を説明させてもらうよ。いいかい?」
全員が椅子に座ってから、会議室の電灯が暗転し、スクリーンに地図が映し出された。
「今回カチ込んでもらいたい違法秘匿ダンジョンは、栃木の山奥、あるおしぼりレンタル会社の私有地さ。こないだ『迷宮見廻組』が捕まえた『我導會』の二人から引っ張った情報で、すでに内偵を使って実在を確認済み」
「ほう。割と気合いの入った奴らだったが、よく口を割ったな」
「はっはっは、いやいや。実に協力的な二人だったとも」
相変わらず信頼できない笑い方をする男である。
「で、このダンジョン。どうやら
「わかった。しかし、ダンジョン改造か。……杏奈」
「うん。『呪詛組』かもだね」
杏奈がきゅっと唇を引き結んだ。気合いと気負いが見て取れる。俺もまた、腹の底から焦燥が湧いてくるのを感じる。もしも、『呪詛組』が関与しているのであれば……。
「……鷹崎さん。俺たちは、このコラボをきっかけにして、たくさんの方に闇ギルドとの戦いに参加して欲しいと思っている」
姫虎が呪われてから、二か月弱。『迷宮見廻組』は活動の中で、ひとつの現実を思い知った。
俺たちは――弱く、小さい。
「もちろん、押し付けるつもりはない。危険だし、公社はケチだから大した金にならんし」
「はっはっは、手厳しいねぇ、十八代目。ウチも限られた予算の中で精いっぱいなんで、お手柔らかに頼むよ」
「失礼した。……だが、俺たちはどうしても
忍者が弱いとか、サムライが弱いとか、そういう話ではなく。十七歳と十六歳の高校生がたった二人いるだけでは、できないことが多すぎるのだ。
杏奈がうなずく。
「アタシたち、友達を助けたいんです。でも、二人だけじゃ手が足も耳も、何もかもが足りなくて。だから……」
自然と、同じタイミングで頭が下がった。
「「よろしくお願いします」」
すると、「ふっふーん」と得意げに鼻を鳴らす、舌足らずな声が返って来る。
「まかせてー。アリア、ふぁんのきたいには、こたえるタイプ!」
※※※あとがき※※※
次回からダンジョン行ってわちゃわちゃしてアレコレするのだ!
どういう次回予告だよ。
あとなんか、三年前くらいに書いたお話の原稿が余ったので(余ったってなんだよ)投稿するのだ!
「ダーティーエルフの黒澤さん」というお話なのだ。
よろしければ読んでみてくださいなのだ。
カクヨムコン参加中なのだ!
☆☆☆のやつをよろしくお願いしますなのだ!!
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