第76話 『鷹崎家』(一)



 ダイバー事務所ギルド『鷹崎家』。


 曰く、現代に蘇った神秘。

 曰く、努力と才能の限界点。

 曰く、豪運の男。

 曰く、不屈の一家。


 そして、曰く――日本一。



 ●



 十月の初週、俺と杏奈は東京のダンジョン公社東京支局にいた。

 コラボ配信のため、もとい、その前段階の打ち合わせのためである。


 ダイバーにはダンジョン内での逮捕権が認められるが、積極的にダンジョン内で魔導犯罪者とやりあう覚悟のある人間は、そう多くない。だから、その覚悟を持つダイバーは、公社に申請するのがルールになった。


 ダンジョン公社未登録状態で、なおかつ他者によって秘匿の痕跡が見られるダンジョン――闇ギルドのねぐらになっている可能性が高いダンジョンへのダイブを、指名入札されるようになる。

 闇ギルドとの抗争の民営化を委託されることから、傭兵申請なんて言われてもいる。割は良いが、危険度は高い。そういう仕事だ。


 その危険性ゆえ、今まで傭兵申請していたギルドは『迷宮見廻組』だけだったが、先週、新たに申請したギルドがあったという。前例が俺たちしかいない急造の制度ではあるが、いちおう、先達として俺たちが現地講習をすることになった。

 これが、今回のコラボの目的である。


 当然、公社にとっても大仕事なので。


「や、十八代目。それから、出雲さんも」


 とうぜん、そんな大事な話には左慈さじ支局長が絡んでいる。

 会議室の椅子に座って、なんだか疲れた顔で俺たちを待っていた。


「お久しぶりです」

「お久しぶりでッス。あれ、てか左慈しきょくちょー、顔色悪くないスか? 体調悪いとか? 前はもっと怪しい感じだったのに」

「はっはっは、どこかの誰かさんたちが大暴れした結果、有能な部下がひとり退職してねぇ、過労と精神的ストレスがねぇ……」

「そうか。大変ですね」

「あれあれ、皮肉が通じてない……? まあいいや、おじさんも高校生にダル絡みしすぎて嫌われたくないし。座りなよ。もうすぐ来るから」


 左慈支局長は嘆息して、椅子を手で示した。

 杏奈と隣り合って座る。ミーティングの時間まで、あと十五分。相手はダイバー界の大物だ。珍しく杏奈の口数が少ないのは緊張しているからだろう。当然だ、相手は日本一のダイバーギルドだからな。


 ややあって、部屋の外に複数の気配を感じた。扉を開けて入ってきたのは、三人の――。


「――ッ」


 ――ぞわり・・・と全身が総毛立つ。

 わかってはいたが、実際に目の前にすると、忍者超感覚ニンジャ・センスが圧倒的な力を察知してしまい、まったく落ち着かない。忍者不動術ニンジャ・セルフコントロールスキルすら通じない、生物として格上・・


「うい。鷹崎アリア。ぶいぶいー」


 三人の先頭にいた、黒髪ロングで肌の白い女の子が両手でピースしながら、自己紹介した。外見年齢は俺たちと同じくらいだが、女優と見まがうような美貌に浮かんでいるのは、子供っぽい屈託ない笑顔。


 ――戦ったら、たぶん、いや十中八九、勝てない。敗ける。


 配信や切り抜きを見たことはあったが、実物はこれほどか。

 ミノタウロスですら、ここまでじゃなかった。


 世界でも数例しか確認されていない、ダンジョン生まれの亜人デミ・ヒューマン

 神秘遺贈オカルト・インヘリタンスなんて目じゃない、本物の神秘。

 鷹崎アリア――通称、蜘蛛姫アリアドネのアリア。


 存在に圧されて、不甲斐なくも俺は動きを鈍らせてしまった。隣の杏奈も、力量の差を感じ取っているのだろう。見たことないくらい震えてしまって――。


「あ――アリアちゃんッ! アタシっ、あああ、あんまるって言います!」


 杏奈は震えながら猛スピードで立ち上がり、アリアの前で頭を下げながら、しゅばっと右手を差し出した。


「大ファンなんです! 握手してくださいッ! あとツーショも!」

「おー、ぎゃるのさむらい、ふぁんがーる。いいよー」


 ……。おかげで俺の緊張がほぐれた。



※※※あとがき※※※

アリアはヒロインじゃないのだ。

ファザコンすぎてパパと結婚したがっているので……。


カクヨムコン参加中なのだ!

☆☆☆のやつをお願いしますなのだ!

一言でもレビューを頂けるととても嬉しいのだ!


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