二之巻:ロリガキヤンキー巫女極道

第71話 伸び悩むニンジャたち



 カテゴリー。タイプ。幻想深度。

 ダンジョンを測定する三つの基準。


 カテゴリーは、そのダンジョンが含有する神秘体系を。

 タイプは神秘体系のうち、さらに細分化された神話を。

 幻想深度はその神秘の深さ・・を示す。


 そのうち、ダンジョン配信者ライバー、通称ダイバーが最重要視するのは、幻想深度であるとされている。

 この数値が高ければ高いほど、ダンジョンの危険度が増すからだ。



 ●



「整理するぞ、あんまる」


 ぜえはあ、と荒い息を吐くあんまるに告げる。


「伊賀の奥里ダンジョン、幻想深度10000。道中は一本道の広い岩の階段で、牛鬼がひたすら襲い掛かってくるだけ。フィジカルを試される道中だったが、危なげなくクリアできた」


 過去形なのは、すでに通って来た道だからだ。

 俺たちはいま、伊賀の奥里ダンジョンにいる。周囲にはがらんとした広場のような場所。その向こうには深い霧が漂っている。


「第六階層は中ボスの土蜘蛛。加えて六頭の牛鬼が同時出現。土蜘蛛の毒糸は厄介だが、あんまるは鮫丸斬撃波サメマルインパクトの連発で、正面からゴリ押して撃破した――これが、ここまでの攻略過程だ」


 『激闘だった』

 『ひとりで倒したの凄いよ』

 『ひめこ:お疲れさまです、あんまるさん』


 ダイブ用カメラ『目玉くん』の下部ホログラフィックディスプレイに、いくつものコメントが流れていく。

 俺は土蜘蛛を倒したことで出現した階段を指差す。


「第七階層以降はまた階段の一本道。だが出てくる牛鬼は剣術、槍術などの技を使う。第五階層までの牛鬼とは別格の強さを持つ」


 いつもは活発にコメントとやりとりする金髪サムライギャルが、膝に手をついて、まったく話せないでいる。かなり疲労しているらしい。

 さもありなん。ここまで、俺はまったく攻略に手を貸していない。ソロでここまでやってきたのだ、あんまるは。


「どうする、あんまる。困難を超えなければ修行にはならんが、無理をしては本末転倒だ。俺は、あんまるならもう少し行けると思うが……」

「……ぎ、ぎぶ☆ ここまで。もーむりっ」


 荒い息のまま、あんまるが俺の腕をパンパンと叩いた。


「わかった。引き際が大事だからな。今日の修行はここまでとしよう」

「うう、悔しい……。段蔵くんとリスナーのみんなに、カッコいいとこ見せるつもりだったのに」

「どちらにせよ、第十階層――ボス攻略は止めるつもりだった。幻想深度10000の大ボスだ、今の俺たちでは勝てない」


 息を整えたあんまるが、顔を起こす。


「そんなに強いの? てか、段蔵くんはソロで倒したことあるんでしょ? しかも、ダンジョンスキルなしで」

「ボスの双童子フタツドウジは特殊なんだ。挑戦者の強さに比例して強くなるタイプでな」


 要するに、俺が強くなったから、相対的に難易度が上昇しているはずなのだ。


 『うわ厄介なボス』

 『ひめこ:ちなみに私は挑戦すらしていません』

 『謎のどや顔でコメントしてるんだろうな、この駄姫は』

 『そんなボスもいるんやな』


「ああ、そんなボスもいる。日本だけでも、毎日最低一つは新しいダンジョンが生まれているからな。どんなボスがいても不思議ではないとも」

「多様性の時代だしねー。なにがあっても不思議じゃないってカンジ?」


 その通り。なにがあっても不思議じゃない――現代はそれが当たり前なのだ。


 なんせ、世界で最初にダンジョンが開いた・・・のは、もう八十年も前のこと。

 終戦直後の日本、九州は福岡だったらしい。それを皮切りにして、いまも新たなダンジョンが世界中で生まれ続けている。


 地形を無視した広大な内部構造を持つ、異界への入り口。異形の生物たち。未知の素材と新技術の開発――。その時の動乱について、俺は社会の授業でしか知らない。世界がどう向き合ってきて、どう向き合っていくのかも知らない。


「というわけで、今日の修行配信はここまでっ☆ 明るく楽しい、あんまるのダンジョン配信――のっ、修行編でしたっ! みんなー、今日もご視聴ありがとねーっ☆」

「諸君、見てくれて感謝する。また会おう」


 ……世界がどう向き合っていくのかは知らないが、それはさておき、俺たちの・・・・向き合い方は考えなければならない。


 配信を切って、少し休憩してから、俺たちはダンジョンを引き返す。広い階段状の岩場を降りながら、あんまること出雲杏奈いずもあんなが大きな溜息を吐いた。


「マジで悔しいんだケド。もっと強くならないと……」

「焦るな。杏奈は強くなっている。前回は牛鬼一頭倒すのも難儀していたからな」

「だけど、ばんばん闇ギルド捕まえて、ばんばんダンジョン攻略していかないと、姫虎ちゃんが……」


 言葉が途切れる。

 夏休みが終わって、あっという間にもうすぐ十月。その間、二人の闇ギルド構成員を捕まえたが、俺たちの成果はそれだけだ。

 呪いに侵された友人、上杉姫虎うえすぎひめこを助けるすべは、手がかりすらも見つけられていない。杏奈の不安も、無理はない。


「大丈夫だ。姫虎を救うすべは、必ず見つける」


 断言する。いつだって必ず助けると約束したのだ。呪いは必ず解く。

 ……ただ、俺だって、不安がないわけではない。杏奈もそれがわかっているのだろう。俺の肩に軽くグーでパンチして、けれど何も言わなかった。


 宙に浮かぶ黒い穴、ダンジョンホールを出ると、そこは山だ。

 秋色に色づいた山の木々が、なお赤い夕陽に照らされて、どこか物寂しい光景に見える。

 見慣れた我が故郷、ド田舎こと伊賀の奥里の風景……、なのだが。

 ダンジョンホールの前の山道に、見慣れない者が立っている。


「ニンジャとサムライのダイバー衣装。アンタらが『迷宮見廻組』で、間違いないな?」


 子供。おそらく女子小学生だ。ブレザースカートのかわいらしい制服の上に、なぜかスカジャンを羽織って、腕組み仁王立ちという威圧的なポーズをとっている。

 そして……とにかく目つきが悪い。眼光鋭く、俺と杏奈を――特に俺のほうを、親の仇のごとく睨みつけてくる。


 その子供は腕組みを解いて、俺に小さな指先を勢いよく突き付けた。


「――ウチと決闘しろ!」

「そうか、わかった」

「わかんな」


 クナイを逆手で構えると、あんまるが俺の後頭部をスパンと叩いた。痛い。


※※※あとがき※※※

第二之巻、更新開始なのだ。

隔日更新を目標にやっていきますなのだ。

お付き合いいただけると嬉しいのだ!


あとカクヨムコン参加中だから☆☆☆のやつをやってくれると、もっと嬉しいのだ!!

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