おまけ

第70話 上杉姫虎の入院生活



 誰でもある程度はそうだと思うのですが、入院生活は時間を持て余しがちです。


 私、上杉姫虎の場合は、特にそうです。気分転換したくても、外泊許可どころか、短時間の外出許可すらとれません。いえ、自業自得なので、仕方ありませんけれど。


 呪詛溶液マントラリソースの不正購入を筆頭に、ダンジョン関連法違反が多数。少年法があるから前科はつかないだろう……、と上杉家の顧問弁護士に言われていますけれど、罪を犯したことには変わりなく。

 毎日の検査、診察に加えて警察による聴取などもあり、病室で待機する時間が非常に長いのです。


 そういうわけで、お父様が取ってくれた個室に、ゲーミングノートPCを持ち込んで、寝転がって推しの配信ダイブを見る日々を送っています。

 『鷹崎家』や『カフェ・ド・リリィ』もいいですけれど、最推しはやっぱり『迷宮見廻組』。私のヒーローたちです。


「あら、また配信を見ているの? 例のニンジャの子?」


 ベッド脇のパネルを操作する看護師さんに「ええ」と頷きます。スタイリッシュな流線型のスマートベッドは、私の健康をチェックするためのハイテク医療器具だそうです。おかげでまったく夜更かしができません。


「ダンジョン配信って、戦ったりするのよね? お友達が心配なのはわかるけれど、あまり過激な動画は見ないようにしてくださいね。脳や魂魄への後遺症がありますから」

「大丈夫ですよ、今日はダンジョン配信ではなく、ただの雑談配信ですから。今後の予定などを告知しながらお菓子を食べるそうです」

「平和ねぇ。じゃあ、心配ないわね」


 看護師さんが去っていきました。……さて、さっそく視聴しましょう。イヤホンをつけて、と。

 画面には、横並びで座る二人、段蔵と杏奈さん――あんまるさんが収まっています。


『二人パーティーだと、どうしても対応力に限りがある。うちの私有ダンジョンのボスが修行にちょうどいい。時間を取りたいと思っている』

『あとコラボとか? 情報収集しつつ経験値上げてく的な。強い人と絡むの、勉強になりそうじゃない?』

『道理だな。俺たちとのコラボを受けてもらえるかどうかは不安だが……』


 ちゃぶ台の上にはドーナツショップで買ったと思しきドーナツが並んでいます。あ、季節限定のやつだ……。ここの病院食は美味しいですが、いかんせん、量と塩気に物足りなさは感じてしまいます。ドーナツ、久々に食べたいですね。


「……ん? え、ていうか、ここって……」


 配信やってる場所、よく見たら段蔵の部屋じゃないですか! こ、こんなのほぼカップル、おうちデートの距離感で……!


「うっ、ふぐぐッ、おッ、脳にキくぅ~……!」

「大丈夫ですか、上杉さん! モニターにものすごい動悸の乱れが!」


 個室に駆けこんできた看護師さんに「なんでもないです」と両手を見せます。危ない危ない。トリップするところでした。


 さておき、二人には「距離近くないですか? 節度を持ってください」とコメントしておきます。あんまるさんは優しい方ですが、こと段蔵との関係については牽制しておかないと……!


『姫虎からコメントだ』

『まじ? うぇーい、ひめこちゃん見てるー? アタシはいま段蔵くんのお部屋でドーナツ食ってまーす! ほら段蔵くんもダブルピースして』


 段蔵が首をかしげながらダブルピースしました。


「おッふ」

「上杉さん!? またしても動悸が!」


 再び駆け込んできた看護師さんに両手を見せて「なんでもないです」します。ふゥ~……、いけません。自分ちでもないのに、脳が半分トびかけましたね。気を付けないと。親フラならぬ看護師フラなんて、笑い話にもなりませんから。


『いや、わざわざ言わなくても姫虎なら見ればわかると思うが』

『様式美ってヤツだよ、段蔵くん』


 あ! やっぱり故意にこっち煽ってましたね、この女!? しょ、性悪! 私が言えたことじゃないですが、性悪ですよ!


『そだ! 次はひめこちゃんも一緒に騒ご☆ 病院じゃドーナツは売ってないっしょ?』


 わ。優しい……。あんまるさん好き……。

 い、いえ、いけません。そんな激チョロ女ではないのです、私は。段蔵ではないですけれど、不動の心を保たなければ。ええ、少なくとも入院中はセルフコントロールを万全なものにしないと。深呼吸、深呼吸……。


『あ、段蔵くんそっちのチョコドーナツ一口ちょーだい。あーん☆』


 あ、あーん!? あーんですって!?

 段蔵は特に気にした様子もなく、手元のチョコドーナツをひと口大に割って、あんまるちゃんの口元に運び、『あんまる、あーん』と……!

 この手慣れた様子、さては普段から私の見ていないところでイチャついて……ほッ、ほわッ、んぶふッ。


「上杉さん! ちょっと尋常じゃないレベルの動悸が……、うわっ、鼻血! 呪いの影響ですか!? すぐドクター呼びますから安静にして――」

「あ、いえ、これは違いまして……!」


 その後、お医者様がいらっしゃって検査だなんだと言い始めたので、さすがに申し訳なく思って素直に「幼馴染の男の子が恋敵とイチャついているのを見て興奮してしまいました」と告げたところ、「それは治らないね」と呆れ顔で診断されました。

 照れ隠しで「恋の病ですからね」とまぜっかえしたら、看護師さんにめちゃくちゃ冷たい目で見られてしまいました。申し訳ありませんでした。



※※※あとがき※※※

SS向きのネタを思いついたので書いてみたのだ。


カクヨムコンがスタートしたのだ!

この作品も応募しているので、読者選考ってのを抜けるために、おすすめレビュー(☆☆☆)で応援してくれると大変嬉しいのだ!

まだの方は、この機会にぜひ☆☆☆をお願いしますなのだ!


12月中の「二之巻」更新は難しいけれど、1月中には始められるよう準備していくのだ。

よろしくお願いいたしますなのだ~!


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