第58話 カチコミ・ニンジャ(三/六)



 このダンジョンは、公社による測定がされていない。

 タイプ、幻想深度の未確定なダンジョンに潜るのは、初めてだ。

 薄暗い水路が続くダンジョン。地下線路から、地下水路へ。近代系のダンジョンっぽく見えるが、さて鬼が出るか蛇が出るか。

 魔女が出ることだけは、間違いない。


「荻谷さん、歩きながらですが、配信を始めさせてもらいます」


 そう断って、『目玉くん』を起動する。荻谷さんが入らない画角で、俺一人だけが映るよう調整して配信開始。


「どうも、加藤段蔵だ。今日は普通にダンジョンを攻略する配信をするぞ」


 SNSでの告知なしでの突発配信だが、炎上によって注目度が高くなっているからか、視聴者数はすぐに1000人を超えた。

 人が人を呼び、どんどん増えていくことだろう。


 『ダンジョン? どこ?』

 『ひめこちゃんに謝れ!』

 『待ってた』

 『このタイミングでダンジョン攻略とか正気か? 説明責任とか知らないんだろうなw令和の高校生はw』


 いろんなコメントが、ホログラフィックディスプレイに流れていく。

 ……責任を知らないのは、どっちだろうな。インターネットの"たくさんのうちの一人"が居場所を晒さなければ、杏奈は刺されなかった。

 軽率に打ち込んだ言葉の責任は、匿名であっても、その人のものなのに。


「その前に、報告事項がある。もう知っている人もいるだろうが、昨日、東京駅で傷害事件が起きた。新幹線から降りた乗客が刺された事件だ。……その乗客は、つまり被害者はあんまるだった」


 『えっ!? 大丈夫なの!?』

 『アレあんまるだったんだ、Xwitterで目撃者が情報流してたけどフェイクだと思ってた』

 『相棒が刺されたのになんでのんびりダンジョン配信なんてしてんだよ謝れよ』


 コメントの内容は、俺をバッシングするようなモノも多い。ネット特有ののっかり正義感・・・・・・・でコメントしている、いわゆるネットイナゴも相当数いるのだろう。


 ショックじゃないかと聞かれれば、まあ、忍者不動術ニンジャ・セルフコントロールスキルがなければ、傷ついていたに違いないとは思う。

 ひどいものだと実感する。


「Xwitterなどでの目撃情報を元に、あんまるは名古屋で乗った新幹線を特定された。犯人は闇ギルドのヤヨ・ビシュハーマンだと、防犯カメラの映像から特定されている。報復だったんだ」


 『は? じゃあ呟いたやつが悪いんじゃん誰だよ』

 『情報開示請求したほうがいいよ』

 『加藤段蔵は闇ギルドと繋がっている、闇ギルドがあんまるを襲った、だったら黒幕は加藤段蔵だ』

 『陰謀論ヤバいやついて草w』


 だが、これがインターネットで、これが配信活動というやつなのだろう。

 俺の味方をしてくれるリスナーも、敵対しているアンチも、面白がって見ている部外者も、悪意ある情報に踊らされたネットイナゴも、みんな、画面のこちら側にはいない。

 こちら側にいるのは、俺だ。ダンジョンに潜っているのは、俺なのだ。


「そのことについて糾弾する気はない。警察か司法が、あるいはあんまる本人が起きてから決めることだ。……雑談ついでに言っておくと、そのあんまるから厳命されていることがある」


 大事なことは、それ・・だ。


「名古屋で言われたんだ。"ちゃんと姫虎と話せ、正面から向き合え"と。まったくもってその通りだ。俺は姫虎と話したい」


 リスナーもアンチも部外者もイナゴも、ぜんぶ巻き込んで、俺は俺の目的を果たしに来た。おもしろ半分だってかまわない。ああ、かまわないとも。


「だが、その姫虎なんだが、闇ギルドから違法なマナアンプルを購入して使用した疑いで――というか物証が出ているから確定で有罪なんだが――現在、逃亡中でな。闇ギルドに匿われている可能性が高い」


 『えっ』

 『おん?』

 『はあ?』


 リスナーからすれば、急展開だろう。センセーショナルなニュースがSNSを駆け巡っているに違いない。

 視聴者数は1万人を超えている。もっとだ、もっと増えろ。


「そういうわけで、俺は闇ギルドのアジトを捜索したいと思っていたのだが、公社から止められてな。断念して、普通のダイバー活動にシフトしたわけだ。……ところで、ここは偶然見つけた公社未登録のダンジョンでな?」


 『坂上って、例のダンジョン間テレポート可能な魔導犯罪者でしょ』

 『テレポートには縦断型モンスターの異界障壁が必要だから、アジトは公社未登録のダンジョンだろうって言われてたけど』

 『……偶然? 未登録のダンジョンを? 見つけた? このタイミングで?』


「偶然だ。あと、あんまるはいないが、ソロではない」

「こんにちは。偶然一緒にいる、非番の荻谷です。よろしくお願いします。非番なので、公社の職務とは無関係です。偶然ですね、加藤さん」

「ああ、偶然だな」


 『ん? いやいや』

 『んん? 公社無関係って、絶対裏があるでしょ。荻谷の独断専行か?』

 『おん?? ついにダンジョン公社の不祥事が世に出るのかな』


 視聴者数は2万を超えた。わざわざ説明はしない。せいぜい面白がってくれ。てきとうな妄想と考察でSNSを埋め尽くし、話題の中心にしてくれ。震源地である俺の配信に集まってくれ。あることないこと言いふらしてくれ。


 そして――俺にマジカルチャット投げ魔力を寄越してくれ。


 視聴者全員が投げてくれるわけじゃないが、母数が多ければ多いほど、総額は増えるものだ。煽りが必要か? なら、もっと盛り上げてやる。


「なんだ、リスナーのみんなは今日ずっと困惑しているな。どうしたんだ? 今日は普通のダンジョン攻略だというのに」


 俺一人の、加藤段蔵の"幼馴染と話したい"という欲求を満たすために。

 リスナーも、アンチも、部外者も、イナゴも、全員利用させてもらう。


「そういうわけだから、今日は偶然見つけたダンジョンを攻略して――と、失礼」


 ぐい、と荻谷さんの腕を掴んで前に引っ張る。

 彼女の首があったところを、銀色の刃物が通り抜けた。


「――シッ!」


 瞬時に敵襲・・だと理解した荻谷さんが、長い足で後ろ蹴りを放った。ナイフを振った男が両腕で受け、ざりざり音を立ててあとずさる。


「だぁから、なんでイマのが避けられンだよッ、てめえは! やっぱ背中に目ェついてんだろ!」

「おや、偶然にも坂上銀五郎と遭遇したな」

「いつまで茶番やってンだクソガキが……!」


 茶番。その通りだ。魔術で悪事を働く人間が、根城にしている場所への侵入者に気づかないはずがないし。

 そうなれば、目下敵対状態にある俺の動向配信をチェックすると思っていた。逃げずに襲ってくるとも、思っていた。杏奈には借りを返したつもりだろうが、俺はまだなにも返されていないから。


「テメェは腹ァ裂くだけじゃ済まさねェぞ、ガキ!」

「俺も今回は自衛だけでは済まさない。『迷宮見廻組』がダンジョン公社より委託されたダンジョン内での犯罪者取り締まり協定にもとづき、逮捕権を行使する」


 坂上は歯を剥いて獰猛に笑った。

 俺はまったく笑わず睨みつけた。


「【百里走バッド・ニュース】ッ!」

「――【風魔流忍法:吞牛之術ジャック・イン・ザ・ボックス】」



※※※あとがき※※※

自分でちょっと気になっているのだけれど、ひょっとして展開が早いのだ?

分かりづらいポイントやツッコミどころ等あれば感想くれると嬉しいのだ。

あとレビューもくださいなのだ。


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