第48話 バズ・ニンジャ(十/十五)



「このタイミングでこんな動画出されたら、誰だって段蔵くんがそのカレ・・だって、わかるじゃん! しかも段蔵くんが悪いみたいに……!」

「不正に加担していたのは事実だ。悪いのは否定できないが」


 スマホで俺の名前を検索すれば、出るわ出るわ。まとめサイトで特集されたり、ネットニュースになったりしている。それによると……。


「『登録者五十万人ダイバー、涙の謝罪。ゲーミングニンジャ関与か』。ふむ……、杏奈。気分を害さずに聞いてほしいんだが、俺が姫虎の元カレで、あいつを捨てて杏奈と乗り換えたという見方が主流らしい」

「え!? そんじゃアタシ、段蔵くんと付き合ってんの!? ……なんて、ボケてる場合じゃないかー」


 杏奈はグラスの底の溶けた氷をストローで吸い込んだ。


「ヤバいなー。実際、フリーになった段蔵くんを勧誘したワケだし、そもそもフリーになったのって、アタシを助けたからだよね? だとすると、正直に全部を話したところで、みんなの認識は変わんないでしょ」

「正直に話せば話すほど、泥沼になりそうだ。"捨てられたのは俺だ"と表明したところで、責任逃れにしか聞こえないだろうしな」

「だいたい、先に謝るのがズルいよ。かわいい女の子が泣きながら"私が悪いんですぅ"なんて言ったら、そりゃ元カレがワルモノに見えるって」

「元カレではないが。……しかし、予想以上に悪い奴だと思われているらしい」


 スマホの画面を杏奈に向ける。


「『ゲーニンは逮捕権を悪用して気に入らないダイバーを逮捕した』『闇ギルドと裏でつながっている』『実は半グレ集団のリーダー格』だァ!? ナニコレ!?」

「ネット掲示板由来の、無根拠で過激な意見が暴走しているようだ。Xwitterで軽くエゴサしただけでコレだ」

「どうせアタシらの配信も、ひめこちゃんの配信も、どっちもまともに見たことないヒトらでしょ! 気にしない……ワケにもいかないんだよねー、うー……」


 頭を抱えて、上目遣いで俺を見る。


「てかさ。ひめこちゃん、なにが目的でこんなことしたんだろ。自爆でしょ、コレ。ガチ恋リスナー離れちゃうんじゃない?」

「ああ。実際、姫虎に対するバッシングも強い」


 わざわざ杏奈に教えはしないが、非処女だの使用済みだの、ひどい言葉で罵倒しているアカウントが散見された。忍者不動術ニンジャ・セルフコントロールスキルを修めているから冷静でいられるが、幼馴染を罵られるのは、率直に言って不愉快だ。


「俺も目的は気になる。この動画によって、姫虎が得るものがわからない。バッシングを誘発させて、俺たちにダメージを与えて……、それでどうなる? なにを得られるっていうんだ」

「うーん。ねえ、これ、ひめこちゃんがただヒスっただけ――ええと、カンシャクを起こしただけって可能性はない? 段蔵くんが恋しくて、ヘラっちゃってさ」

「癇癪? 俺が恋しくて? ……どういうことだ?」


 杏奈が半目になった。


「あのさ、この際だから言うケド、ひめこちゃんは段蔵くんのコト、マジのガチで好きだったんじゃないの? アタシ、めちゃくちゃラヴの波動感じてるんだけど」

「それはない」

「なんで断言できるん」

「以前、聞いたんだ。毎週会いに来るものだから、『もしかして俺のことが好きなのか』と。そうしたら、罵詈雑言が飛んできてな。自意識過剰だの、モブ蔵なんて誰も愛さないだの……だから、姫虎に好かれている可能性は、万にひとつもない」

「二人ともめんどくせーね。なるべくしてなった結果だろうけどさ」


 溜息を吐いて、杏奈が自分のスマホでXwitterを開く。


「うわ。DM、二百件超えてる。大半は捨て垢からの凸っぽいケド。段蔵くん、家凸とか気ィ付けてね? アタシはまだ大丈夫だろうけど、段蔵くんのほうは暴走したひめこちゃんのファンが押し寄せるかもしれないし」

「伊賀の奥里に凸れるのは、士族の血を引く行動力過多なギャルくらいだろう」

「そっか。……来ても落とし穴もあるしね、段蔵くんち。だいじょぶだ。それにしても、こんなコトになったら、いろいろ予定が狂うよー。今日はダンジョンも攻略できなかったしさー」


 ふわふわのスポンジ入りなので、うっかり殺してしまう心配も減った。


「あーあ。どこでミスったんだろーね、アタシら」

「杏奈のミスじゃない。フリーになった俺をスカウトしただけだ。俺と姫虎がリスナーに吐いていた嘘を、なあなあで済まそうとしたこと――これが最大の問題だ」


 姫虎の活動を邪魔する気はないから、明かさなかった。そもそも不正していたこともミスだが、俺のそういう態度もまた、ミスだった。ミスは取り返さなければならない。


「これは俺の過失だ。謝罪動画を撮り、経緯をすべて説明する。俺と姫虎のあいだのトラブルとして処理すれば、『迷宮見廻組』の風評被害は最小限に抑えられるはずだ。そうだ、俺を解雇するのもアリだな」

「……あァん? 段蔵くん、ソレ本気で言ってる?」


 にわかに杏奈の視線が鋭くなった。



※※※あとがき※※※

段蔵くんに家凸できるやつがいるとしたら、そもそも家知ってる奴だけなのだ。

安心なのだ。……んん? 家知ってるやつがいるな……?


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