第43話 バズ・ニンジャ(六/十五)



「――つまり、先日のアレは完全に巻き込まれた形だったが、俺たちのスタンスは変わらない」

「ダンジョン攻略しつつ、人助け! 『闇ギルドと積極的に戦っていこー!』みたいなつもりはないから、期待しちゃってた人はごめんねー」


 俺たちの方針は、おおむね好意的に受け入れられた。

 マナアンプルのことなども含めて、ダンジョン公社は『迷宮見廻組』と闇ギルドとの戦いで映ったものの大半を説明してくれていたし。


 『いいと思う。高校生だし』

 『結成直後に大変なことに巻き込まれただけで、もともと人助けギルドって言ってたもんね』

 『犯罪者と戦わないのかよ。期待して損した』


 もちろん、もろ手を挙げて全員賛成というわけでもない。俺たちが悪人をぶちのめすところが見たいと思っていた人たちも、当然いる……、が。


「説明も終わったし、そろそろ攻略はじめよっか!」


 わざわざ過激な意見に触れる必要はないと判断したのか、あんまるは歩き始めた。俺も追随する。


 ここはまだ第一階層。危険は少ないが、森型ダンジョンは広い。第二階層への階段を探すのは、骨が折れそうだ。


「……む?」


 そこで、気配を感じた。視線を木々の奥にやると、遠くからドタバタ走ってくる人が見えた。ほかのダイバーか?


「男の人だ。……うわ、見覚えあるかも」

「あんまる、見えるのか。視力は忍者並みか、それ以上だな」


 あんまるが得意げに胸を張って、揺れた。ほう。


「で、知り合いか?」

「んにゃ……、知り合いじゃない。めいわ――凸系の有名ダイバーだと思う」


 珍しく言い淀む。凸系……突撃系? あれか、配信中のダイバーに、いきなり会いに行くやつか?


 『ホントだ、クソネズミだ』

 『てるま?』

 『てるまだな、あの変な色のダイブスーツは』


 その男は、小太りだがなかなかの俊足で、あっという間に俺たちの前までやってきた。右手にはインタビュアーが使うようなマイクを握りしめている。


「『テルマウス』やぞオラ! 今日はバズ・ニンジャに会いに来ました! いぇーい! お前ら、今日も突発凸コラボやっていくで!」


 自分の『目玉くん』の画角にわざわざ俺たちを収めながら、男は歯を剥きだしにして笑う。なんというか……。


「誰だ? 迷惑な人か?」

「段蔵くん、ストレートすぎるカモ」


 苦笑いするあんまるに、テルマウスと名乗る男――三十代くらいか? が、手に持っていたマイクを向けた。


「で、白ギャルちゃん! さっそく質問やけど、何カップ? ニンジャはやっぱり夜もすごいんか? ボーチュー術ってのがあるんやろ? どうせもうヤってんでしょ? ほらちゃちゃっと答えたって! みんな知りたがっとるで!」

「あー……。すいませェん、ウチらいま配信中なんでェ、そういうのやめてくださァい。あと、アタシ未成年なんでェ。わかりますゥ?」


 下品すぎる質問。なるほど、これは迷惑なやつだ。

 苦笑いのまま、あんまるが両手をひらひら振って、明らかにイヤそうな声音で質問を流した。テルマウスは舌打ちをして、次は俺にマイクを突きつけてきた。


「いやー、Xwitterで『名古屋でニンジャと会った』って呟き見て、最近大須に開いたダンジョンに違いないと思ったんや! 大阪から飛んできて大正解! ほな、バズ・ニンジャに質問を――」

「攻略中だ。邪魔をしないでもらいたい」


 マイクを手のひらで押し返してセリフを遮ると、テルマウスは目に見えて不機嫌になった。


「……ノリわる。なんやお前ら。バズって調子乗ってんやろ。そういうの、エンタメ的に良くないで。まあ許したる、ほんで次の質問やけど、バズ・ニンジャが『目玉くん』ナシでダンジョン潜ってたっちゅうんは――」


 ギラギラした目で、まくしたててくる。話が通じる相手ではない……、というか、通じさせる気がないのだろう。そういうコンテンツで生計を立てている、ちょっとどうかしている人。

 ……仕方ないな。


「埒が明かない。あんまる、抱えるぞ」

「え? ――わっ!」

「おいッちょッ、こら待て……はっや! なんやアイツ! みなさん見てくださいッ、ニンジャは卑怯にも逃げ足が速――ッ」


 あんまるを両手で抱えて、忍者瞬歩術ニンジャ・マニューバスキルで逃亡することにした。ああいう手合いは、相手にするだけ時間の無駄だ。


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