第44話 バズ・ニンジャ(七/十五)



 『テルマウス』チャンネル。登録者数は十五万人。

 いわゆる迷惑系ダイバーで、主な活動内容はゲリラ凸、根拠不明な暴露動画など。


 俺が杏奈を抱えてダッシュしたことが功を奏し、木々の隙間に第二階層への扉を見つけられた。おどろおどろしい、洞窟のような石階段だ。

 そういうわけで、今は第二階層を歩いているところだ。


「攻略はせず、迷惑行為だけか」


 『最初は攻略してたけど、まったく伸びなくて歪んだ』

 『いちおう元プロ格闘家だから戦えなくはないけどね』

 『ダンジョンスキルも攻略向けじゃないしな』


 ダイバーである以上、手の内ダンジョンスキルは配信に載る。テルマウス氏のスキルも、ネットで調べられるのである。


「どんなスキルなんだ?」

「なんか、アレっしょ? ストーカーみたいなやつ」

「……ストーカー?」


 リスナー曰く、彼のダンジョンスキル『共歩きの悪魔チェイス・オーメン』は、顔を知っている相手なら、いる方向がわかるスキルだそうだ。

 攻略には使えなさそうだが……。


「……ヤマザキさんのときに欲しかったスキルだな」

「あー、たしかに。捜索向きじゃん」


 どんなスキルも、発想と使い方次第なのかもしれない。

 しかし、だとすると突き放しても追いかけてくる可能性があるな。


「あんまる、どうする? 追われながら攻略することになる。追いつかれたら、また変な質問をされるが……、いっそ今日は帰るか?」

「えー!? せっかく名古屋まで来たのに!? やだ!」

「やだか」

「うん、やだ!」


 『なんだその会話』

 『てえてえ』

 『気が抜ける』


 あんまるが頬を膨らませた。

 やだとは言わないが、俺もここで帰るのは避けたい。


「俺もだ。現状、交通費ぶんも稼げていないからな。だが、タイプ:フェイクロアは都市伝説と民間伝承がベースのダンジョンだ。ドロップアイテムは呪いのビデオや携帯電話が関の山だな」


 ダイバーが金銭を得る方法は主に三つ。


 ひとつ、ダンジョンをクリアして得たコアの換金。サイズ次第だが、少なく見積もっても数十万円の値が付く。

 ふたつ、モンスターがドロップしたアイテムの換金。これも公社が買い取ってくれるのだが、物によって値段がまちまちだ。

 みっつ、余ったマジチャの換金。リスナーがくれた投げ魔力は、実は公社に売却することができる。……ただし、レートは1ポイント1円と渋い。


 あんまるがデコったメモ帳を開いた。


「ええと……、うわ。呪いのアイテムって、ほとんど値段付かないじゃん」


 ドロップアイテムの情報まで書き込んでいるのか。マメだな。


「だから、できれば完全攻略クリアしてコアを得たいところだ。幻想深度7500なら、決して無理な目標ではないと思う」


 それに、ギルド『迷宮見廻組』は救援依頼を一回こなしているだけで、ダンジョンクリア実績はゼロだ。会社の今後を考えるなら、バズっているうちに実力を示しておきたい。


「そんじゃ、行こ!」


 あんまるは、まったく悩むそぶりを見せずに即決した。


「段蔵くんが"無理じゃない"って思うなら、アタシはソレを信じるよん☆」


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