第42話 バズ・ニンジャ(五/十五)



 翌朝、俺は打ち合わせのため、名古屋に来ていた。

 東京と伊賀の奥里のあいだにあり、二人で落ち合うにはちょうどいい。ダンジョンもあるから、打ち合わせ後すぐに配信もできる。


 待ち合わせは十一時、名古屋駅金時計前……、だったのだが。


「すまん、遅れた。待たせてしまったか」

「おつー☆ 待ってないよん。段蔵くんが遅刻って、前と逆だねー。あ、もしかして銀時計と間違えちゃったとか?」


 名古屋駅の待ち合わせ場所として定番なのが、金時計という金色の時計(説明文がそのまんまだ)である。付近に銀時計という別のモニュメントもあり、不慣れな人間にはややこしい。


「いや、そうではなく。電車を降りたところで、サインを求められたんだ」

「へー! すげー、有名人じゃん! ……いや、そりゃま、あんだけバズれば顔もおぼえられるか。で、どんな人だった? サインしたのん?」

「女子大生の三人組だった。サインなんて書いたことないから断ったら、連絡先を聞かれた」


 杏奈が目を細くした。


「……ほぉん? つまり、女子大生三人と仲良く繋がってたから、アタシを待たせていたってワケ?」

「いや、知らん人と連絡先は交換したくないだろう、たとえファンだとしても。断るのに時間がかかったんだ。結局、一緒に写真を撮るのは押し切られて……恥ずかしかった」

「うーん純朴。ま、それならいっか。許してあげましょう」


 許されたので、打ち合わせのため、喫茶店へ。

 杏奈が目をつけていた、なかなかレトロなお店だ。アンティーク調というか、昭和の雰囲気が漂うというか……。俺は昭和を体験したことがないから、もしかすると平成にオープンした店かもしれないが。


「杏奈、公社のリリースは見たか」


 二人掛けのテーブル席で向かい合う。

 注文したランチセットは、オムライスにエビフライがでん・・とのっかり、ナポリタンまで添えてある。ボリューミーだ。


「もち☆ 認定ギルドがダンジョン内でお巡りさん的なこと出来るようになるんでしょ?」

「いや、そう単純なことではないらしい。闇ギルドとの抗争が民営化されたんだ。それで――」


 オムライスを食べながら、爺さんの言い分をそのまま伝えてみる。俺たち『迷宮見廻組』が、闇ギルドに対する筆頭武力として数えられることになるだろう、と。


「――というわけだが。どう思う?」

「別に変わんなくね? アタシらはさ」


 杏奈はエビの尻尾を噛み砕いて笑った。


「だろうな。そう言うと思っていた」

「見られ方が変わっても、やり方が変わるわけじゃないし。ダンジョンで困っている人を助ける! それが『迷宮見廻組』だもん」


 まったく。頼もしいギルマスである。



 というわけで。


「ドモ~☆ あんまるでーっす!」

「どうも、加藤段蔵だ。本日のダンジョンは愛知県名古屋、大須のダンジョンだ。ユーラシア・カテゴリー、タイプ:フェイクロア、幻想深度は7500。珍しいタイプのダンジョンだな」


 スタンスさえ確定すれば、今日の配信の流れもおのずと決まる。

 俺たちは、喫茶店からその足で、薄暗い広葉樹の森が広がるダンジョンにやってきた。


「攻略を始める前に、先日についての説明と、それからダンジョン公社のリリースについて、俺たちのスタンスを話しておこうと思う」



※※※あとがき※※※

文章量調整の都合でチョト短い話が続くと思うのだ。すまんのだ。

本来はこの話で七万文字くらいの予定だったはずなのだが、まあいつも通り伸びたよね……。


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