第39話 幕間:上杉姫虎の不調(二/ニ)



 ギルド認定試験は午前から。

 開始前から配信待機画面に張り付いて、捨て垢で「あんまるはビッチ」とコメント爆撃をしていたのですが、速攻でコメントを削除され、アカウントもBANされてしまいました。図星を指されたからでしょうね。顔真っ赤というやつです。

 最近、掲示板というところで、いろいろ学んだ私にはわかります。えへん。


 ……お、配信が始まりました。視聴中にBANされるのは嫌ですし、コメントはせず、大人しく見てあげるとしましょう。


「あ。段蔵、顔出しになっていますね。むう……」


 彼、自分では気づいていないようですけれど、お義母様譲りの端正な顔立ちをしています。世のメスどもが段蔵のカッコよさに気づいてしまうのは癪ですが、私も久々に写真以外で彼の顔を見られました。まあ、それくらいは許してあげましょう。


 第一階層はサクサク。白豚ビッチの「女の子を放置する男は最低」というトークには、敵ながら頷かざるを得ませんね。


 第二階層は戦闘。あんまる、なかなかやりますね。段蔵の補助任せだった私と違って、奥里でのコラボ以降も、自主練を怠らなかったのでしょう。負け犬感で脳がじんじん・・・・します。いえ、それはともかく。


「これが"妖刀の出雲"の本気ですか」


 妖刀を血に封印された神秘遺贈オカルト・インヘリタンスの家系。上杉家の持つ様々な伝手を使えば、"妖刀の出雲"の名は、すぐに調べが付きました。

 大昔、それこそ神話の時代に、刀に呪われた家系。歴史で言えば、上杉家よりもふるい家です。強力なダンジョンスキルが発現するわけですね。羨ましい……、いえ、私の【六秒間の蛮行】も強いですが。


 二人は第三、第四階層もサクサク攻略して、ボスのいる第五階層へ――。


「――えっ? ミノタウロスっ!?」


 いけません。異界障壁は、火力のない段蔵とは相性が最悪です。以前も逃げることしかできなかったはず。


 おろおろしながら見守っていると、段蔵が見事にミノタウロスを足止めし、あんまるが異界障壁を破壊、最後はダンジョンスキルを用いた連携技でとどめを刺してしまいました。


「ふっ、二人で決め台詞……!?」


 このシーン、鬼リピして――、いや、そうではなくて。なぜか垂れてきた鼻水を拭いつつ、耳鳴りのする頭で必死に考えます。


 これは、段蔵をサポート役として、自分自身の火力を叩き込むやり方。私と段蔵がやっていたやり方です。つまり。


「とっ、とらっ、盗られた……っ!?」


 なんなら、段蔵に「カメラに映らない」等の妙な縛りがないぶん、私よりも相性が良――ほっ、ほあっ、んやっ、あっ、ふう……、相性が良さそうに見えます。そんなの、許せません。


「今日はこの配信をリピートして、んふ、対策を考えるとしましょう。えへ、えへへ、これは対策を考えるためですから。何度見てもいいのです……ずびっ」


 鼻をすすりながら、私は何度も配信をリプレイしました。



 話が変わったのは、翌日です。


「いきなり救援依頼の指名入札ですって?」


 自分のダイブもお休みなので、のんびりカップ焼きそばを食べていたら、『迷宮見廻組』の配信が始まっていました。慌ててパソコンを起動します。

 すると……、段蔵の、衣装が。


「なあッ、なァんですかッその服はッ! し、信じて追い出した段蔵がッ、都会のギャルに染められて、そんな派手な色合いになっちゃうなんて……ッ!」


 信じられません。スタイルがいいから、どんな着こなしの段蔵もカッコいいですが、派手な服は段蔵の趣味ではないはず。つまり――あんまるの趣味。

 白豚ビッチが選んだダイブスーツだと思うだけでこう、あたまの内側がぎしぎし・・・・軋んでしまいます。ほォ……キくぅ……。


 しかし、そんな呑気に脳破壊を楽し――んではいたわけではないですが、呑気な時間はすぐに終わりました。


 闇ギルド。戦闘。階層縦断型モンスターの乱入。


 見ているこっちも混乱する展開が立て続けに繰り広げられます。固唾を呑んで見守っていたら、あんまるが段蔵のほっぺにちゅーをしました。


「キュッ」


 まじめに視聴する中での不意打ちだったので、衝撃を緩和しきれず、脳がびっくりして喉奥から変な声が漏れ、心臓が止まりました。



 ●



『かわ。はいらないの?』

『……こわいもん。また、おぼれちゃう』

『だいじょうぶだよ。また、ぼくがたすけてあげるから』

『……ほんと? たすけて、くれる?』

『うん。にんじゃは、こまっているひとを、みすてないんだ』



 ●



 はっと気が付くと、私は配信部屋の床に転がって、涙を流していました。

 いつの間にか、気を失っていたようです。

 ……ほっぺちゅー、アレは夢ではなかったようですね。


「私だって段蔵にしたことないのに……!」


 両腕に力を入れて起き上がり、配信終了画面のまま光っているディスプレイを、ネット回線の向こうにいる白豚を睨みつけます。


 取り返さなきゃ。私のものを。たとえ、力づくでも。


 でも、段蔵のいない私は――弱い・・

 いまの私じゃ、あの女サムライには勝てません。

 かわいさと清楚さなら私の圧勝で、胸のサイズと素直さではギリちょいほんの少し敗けくらいですが、ダイバーとしては、あんまるの方が明らかに強いです。悔しいけれど、認めざるを得ない事実です。


 ダイバーの強さは、持って生まれた魂の形、すなわちダンジョンスキルに左右されます。段蔵のようなイレギュラーもいますが、あれは例外中の例外。

 ダイブ歴一ヶ月の新人であっても、スキルが強ければ、強いのです。ダンジョン配信が一攫千金扱いされるのは、そのあたりが理由なわけですが……。ともあれ。


「白豚ビッチに、勝つためには……」


 あの女より強く、強靭なスキルを持たなければなりません。

 けれど、上位スキルへの覚醒なんて、一朝一夕で出来ることではないのです。【六秒間の蛮行】を、どうにかして進化させなければなりませんが……。

 そこでようやく、段蔵を取り返す計画に着手するときが来たのだと直感します。

 答えは配信の中にあったのですから。


「……あの、アンプル。使えそうですね」


 幸いにも。

 上杉の家には、いろいろな伝手がありますから。



※※※あとがき※※※

「捨て垢」とか「コメント爆撃」とか説明なしで意味通じるのだ?

配信モノ読む人には通じると信じているのだけれど、少し気になったのだ。

教えていただけると嬉しいのだ。


姫虎ちゃんかわいいね(ニコッ)


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