第31話 救援依頼と闇ギルド(二/六)



「ドモ~☆ あんまるでーっす!」

「どうも、加藤段蔵だ」


 救援依頼の発生から一晩明け、装備を受け取って……昼すぎ。

 俺達『迷宮見廻組』は奥多摩のダンジョンへとやってきた。岩肌の道が複雑に入り組んだダンジョンで、黄色みがかった霧がうっすらとかかっている。

 受付で聞いたのだが、ほかのダイバーは潜っていないらしい。階層縦断型が出たダンジョンは危険度が跳ね上がる。救援でもなければ、潜る理由はない。


 『救援やるってホント?』

 『段蔵くんがカッコよくなってる!?』

 『荻谷さんいるじゃん』

 『段蔵くん派手な衣装も似合うねぇ』


「本日は『ヤマザキ一歩ずつ』チャンネルさんの救援に向かう。……装備については、新しく仕立ててもらったものだ。正直、恥ずかしい」


 新装備のお披露目でもある。


 現代的なデザインを取り入れたフード付きの白い忍者装束は、色とりどりのカラフルなスプラッシュ柄で染められている。胸と腹、背中に軽量アーマーが追加され、各部に身体強化の術符を仕込んでもらっているから、以前のより性能もいい。


 ……以前のは、ただの布だったしな。術符も肌に直で貼っていたし。動きのキレは、間違いなく上がるだろう。


 『照れ段蔵くんかわいい』

 『ストリートっぽいファッションだね』

 『ゲーミングニンジャ』

 『インク塗る陣地取りゲーム思い出した』


「あは、ゲーミングニンジャだって、段蔵くん。ウケる~☆」

「ゲーミングニンジャって言うな。……本日は、初回委託ということもあって、ダンジョン公社東京支局の荻谷さんがサポートをしてくださる。よろしくお願いします」

「昨日に引き続き、荻谷です。よろしくお願いします」


 荻谷さんは、変わらず黒のパンツスーツ姿だったが、どうやらスーツに魔術的機能を詰め込んであるらしい。特注のダイブスーツと同等の性能があるとか。

 だが、『目玉くん』を連れているわけではない。


「荻谷さん、スキルは使わないんですか」

「使いますよ。ただ、公社の職員がマジチャを受け取る行為は、原則、禁止となっておりますので。スキルを使用する際は特殊な方法を用いる形になります」

「へー。なんでですか?」

「その、苦情を頂くことになりますので……」

「あー……。大変ですね、公務員も」


 当たり障りのない会話をしつつ、さっそく歩き始める。

 階層縦断型は、第一階層にも出没することがある。今日は単独で走り回ったりはせず、確実な攻略を目指してマッピングから始めよう。



 第五階層まで、特に問題もなく順調に進んだ。

 出てくるモンスターも、あまり強くはない。大型犬サイズの燃えるネズミ、火鼠かそや、鳴き声に精神攻撃波動を含む姑獲鳥こかくちょうなどだ。


 火鼠はあんまるが鮫丸で、姑獲鳥は俺が手裏剣でサクサク倒せる。やはり、警戒すべきは階層縦断型モンスターだけか。

 ダンジョンの全容は不明だが、測定された幻想深度は6000程度。長くても全十階層以上には、ならないはずだ。


 第五階層の探索を始めてすぐに、あんまるが「あ!」と声を上げた。


「見て、段蔵くん! セーフゾーンあるよ! ヤマザキさんいるかも!」


 指さす方に、虹色のシャボン膜で覆われた洞窟がある。セーフゾーンだ。

 救援対象がいるかもしれない。早足で向かい、中を覗き込むと……。


「……え?」


 そこには、二人・・の人間が座って休んでいた。


 ひとりはロックギタリストみたいな、ツンツンした金髪と入れ墨、シルバーアクセサリーをジャラジャラ付けた、目つきの悪い男。


 もうひとりは、小柄な体躯をフリルだらけのゴスロリ服で覆った、病的なまでに白い肌と毒々しいピンク色の髪を持った女の子。


 とうぜん、あちらもこちらの存在に気付く。

 一瞬、五人で困惑した視線をかわし合って……、男が溜息を吐いた。


「ンだよ。ダイバー、いるじゃねえか。詰めの甘い仕事しやがってよォ。ヤヨ、どうする?」

「待って、ギンくん。一緒にいるスーツの女、ダンジョン公社の荻谷チャンだよ♥ ヤヨ、お顔おぼえてるもん」

「あァ? 公社の犬コロだとォ?」


 ギンと呼ばれた男の視線が、ぎらりと荻谷さんに突き刺さる。

 荻谷さんは手元の端末で顔写真を確認し、二人と見比べていた。


「えー、該当アリ。坂上さかがみ銀五郎ぎんごろう及びヤヨ・ビシュハーマン。特定手配犯が二人も……。左慈支局長の悪い予感が当たりましたね。加藤さん、出雲さん、お二人は下がっていてください」


 特定手配犯。……指名手配されている人間ということか?

 ダンジョン内で? だとすれば。


「――まさか、闇ギルドか!?」


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