第29話 白ギャルデートニンジャ(四/四)
そして俺は、オーダーメイドのダイブスーツと特注武器を購入した。
浮いたはずの旅費が吹き飛んだし、足りない分は杏奈に立て替えてもらった。
なぜ……、こんなことに……?
「段蔵くん、マジで流されやすいよねー」
「言うな」
現在はダイバー装備専門店を出て、とりあえず渋谷駅方面へと移動中である。もう夜の時間帯だが、まだまだ夏休み。空は明るく、東京は人でごった返している。
「見るだけとか言ってたのに、デザイナーさんにアレコレ言われたらぜんぶ『あ、じゃあそれで』になるんだもん」
「だから、言うな。自覚はあるんだ、自覚は……」
「アタシ的には、段蔵くんがカッコいいダイブスーツ買ってくれて嬉しいけどねー☆」
店員さんと杏奈の気さくかつ間断ないトークに圧されて、結局、買ってしまった。……あんな派手な衣装を着るのか、俺。
杏奈を横目で睨むが、気にする様子もない。
「ダイブスーツと武器の出来上がり、いつになりそ?」
「明日だ。俺の忍者装束をベースにした改造プランで、既製品のパーツを流用してくれるらしい。朝イチでダンジョンに行って、作ってくれるそうだ」
そう、デザイナーさんもまたダイバーだったのだ。
クラフト系のダンジョンスキルを持っているそうだ。素材をマジックバッグに詰め込んで、最寄りのダンジョン――だいたいは渋谷らしい――に赴き、第一階層で武器を製作するのだとか。
「武器も? アレ、良かったでしょ? アタシの思いつき☆」
杏奈が
「武器も明日だ。……デザイナーさんは爆笑していたがな。まあ、本来の忍者の武器ではないが……、こだわるのはやめておこう」
「観念してオシャレしな☆ それに、ちょっとお高かったケド、術式エンチャントも付けたんでしょ。ミノタウロスみたいなバリア持ちのデカいのにも有効でいいじゃん。使い慣れてるカタチだし」
「どうだろうな。実際に振ってみないことには、わからん部分も多い。【
「それじゃ、スーツと武器の慣らし運転、必要だねん。どっかで今後の予定、すりあわせよっか」
言って、杏奈は大きくあくびをした。
「てか、ねむ。疲れてるわ。午前中から運動して、お風呂入って、ご飯食べて、買い物して……」
ちらりとスマホを確認する。
「わ、もう六時半じゃん。段蔵くんは駅前のビジホだっけ。晩ご飯、どうするん?」
「昼が遅かったから、もう少し時間をおいてから、駅前でなにか食うつもりだ」
「んー。アタシもお腹はいっぱいだしなー。あ、そうだ。そんじゃ、ウチ寄る?」
「……なぜだ?」
杏奈は「んふふ」と笑った。
「なんでだと思う? ちなみにパパもママもいないよん☆」
「……あまり、俺をからかうな。心臓に悪い」
「ごめんて。ほら、段蔵くんトコのダンジョンでさ、『NITAMAGO』全72巻、貸したげるって言ったじゃん。あの約束を果たす時が来たってワケ」
そういえば、そんな話もあったな。忍者の漫画があるとか。
「……いや、多くないか。72巻イッキは」
「そこはほら、【
「どこのダンジョンで収納すればいいんだ、マンガを」
俺も「ふあ」とあくびが出た。それなりに疲れているらしい。今日はもう、このまま流れで解散になりそうな雰囲気だ。
楽しい……、デート(と呼んでいいのか? いいんだよな?)だった。
しかし。
もうすぐ駅に着く――、というところで、杏奈のスマホが鳴った。やけに前髪が長い実力派シンガーが歌うドラマの主題歌が、杏奈の指で断ち切られる。
「もしもしー☆ ……え? あ、はい、そうですケド……はい、はい……」
ちらりと俺を見る。なにかトラブルだろうか。
「……はい……、ひとまずメンバーと相談してからでいいですか? はい……少々お待ちください、また折り返しまーす。……段蔵くん、いい?」
「どうした? 誰からだ?」
いつになく真面目な顔で、杏奈は言った。
「ダンジョン公社の荻谷さんから。『迷宮見廻組』に打診……てか、依頼的な? けっこう厄介な仕事かも」
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