第20話 ギルド認定試験(二/六)



 このデジタル社会。いまどき起業なんてスマホひとつで出来る……らしい。

 だが、危険なダンジョン攻略を担うギルドには、また別の認可が必要で、その認可を得られる場所は東京だけだ。地方民差別だろう、これ。


「担当者さんを待たせるのも悪いから、さっそく攻略開始しまっす! 段蔵くんも準備良いよね? ……それじゃ、萩谷さん、お願いします☆」

「わかりました。では……、公認ギルド認定試験、開始いたします」


 萩谷さんがストップウォッチを押し込んだ。試験開始だ。背筋を伸ばしていくとしよう。



 およそほとんどのダンジョンで、一階層はモンスターが出ない。

 この渋谷人工再生成ダンジョンもその例に漏れない。


「あんまる。ここは初心者研修にも使われているダンジョンらしいが、来たことはないんだな?」

「うん、ない! 研修は新宿でやったからねー」

「そうか。では、説明しておく。ローラシア・カテゴリー、タイプ:ギリシア3、幻想深度1500、全五階層だ。主なモンスターはオオカミ等の獣型に加えて、巨人型もいる。ボスはティタノマキア、乱闘する巨人の群れだ」


 『てか、段蔵くん、顔が』

 『今日は覆面してないんだね?』

 『けっこうイケメンでは』

 『さらっと始めるから触れずらかったんだけど、覆面やめたの?』


 ああ。今日から覆面をやめることにしたのだった。どうでもいいから、わざわざ言わなくてもいいと思っていたのだが。


「覆面は外した。あんまるが外せとうるさくてな」

「ダイブドレスは派手でナンボでしょ☆ ただでさえ真っ黒なんだから、せめて顔くらいは出しておいてもらわないと……。てか、よく考えたらソレ自前の忍者装束でしょ? ギルドの認可もらったら、ショップで装備を仕立ててもらおーよ」

「……金がないし、忍者装束で十分だ。かっこいいしな。だろう?」


 『かっこいい……?』

 『かっこいいっていうか、黒い』

 『黒いな』

 『黒いです』


 リスナーからは、色以外の感想がない。なぜだ。


「んー、まあ伝統感あっていいけど、その装束じゃなー。段蔵くんならすぐお金稼げると思うし、仕立てはそれからでも……。あ、ごめん脱線した。ダンジョンの詳細、続きをおせーて」

「釈然としないが、了解した。ここは典型的な石造迷宮ラビュリントス構造で、複雑なマップが生成されている可能性が高く、戦闘より探索が厄介だ。道に迷えば、大幅な時間ロスに繋がる」

「うーい☆ ほんじゃ、ひたすら歩き回ってマッピングか~」


 マッピングには『目玉くん』に搭載されたアプリを使う。神秘性の濃いダンジョン内では電子機器が狂いやすいため、魔術と科学のハイブリッド技術で作られた『目玉くん』がいちばん信頼できるのだ。

 そのため、『目玉くん』を連れて歩き回る必要があるのだが。


「いや、歩かなくていい。俺が『目玉くん』を抱えて走り回ってくる」

「え?」

「あんまるはトークで配信を繋いでおいてくれ」

「は?」

「では、これにて御免」


 俺の『目玉くん』を小脇に抱え、走り出す。


 『うお』

 『はっや』

 『なにこれ五倍速?』

 『酔った』


 角を三回曲がったところで、突き当たりにぶつかる。折り返して、また別の道へ。手元の端末を確認しつつ、マッピング状態のチェック。


 『あんまるキレてるよ』

 『高速移動する動画って面白いな』

 『世界陸上出てくれ』

 『めちゃくちゃ酔うからあんまるちゃんの枠に行きます』


「酔う人はすまん。無理せず視聴する必要はない。あと、あんまるだが……、キレているのか? なぜだ?」


 『こいつ』

 『うーん、この忍者』

 『これだから忍者は』


 なぜか罵倒されつつ、三分ほどで階段を見つけた。端末であんまるに地図を共有して合流。萩谷さんも書類に何事か書き込みつつ、無言で着いてきている。


「段蔵くん、あざ~☆ ちゃんとトークで繋いどいたよ~」


 あんまるは笑顔で、怒ってはいなさそうだ。少しホッとする。


「ちなみにトークテーマは"女の子をほったらかしにする男って最低だよね"だったけど、段蔵くんはどう思う? めちゃくちゃ盛り上がったけど☆」

「それはまあ、最低だろう。男女の性差に関わらず、放置はよくない」


 あんまるの笑顔が固まって、口から「スーッ」と息を吐いた。


「はあ。まあ、段蔵くん鈍感ノンデリ野郎だもんね。しゃーない、アタシが置いてかれないよう鍛えるしかないわコレ。段蔵くん、忍者のトレーニング教えてよ」

「修練法は秘伝だ。配信では話せん」

「じゃ、配信後ね。第二階層も走る?」

「モンスターとの遭遇があり得る場所ではやらんほうがいいだろう」


 と話しつつ、石造の階段を降りる。

 第二階層も、特に景色は変わらない。だが、しかし。


「モンスターがいるな。あんまる、頼めるか」


 降りた先、石の廊下には灰色の肌の石巨人や角の生えたオオカミ、紫色の巨大なイノシシがうろついていた。

 俺の得物はクナイと手裏剣だ。人間より大きいモンスター用に長クナイを用意してはいるが、基本は牽制武器の側面が強い。


 なので……、いまは大太刀に出番を譲るとしよう。

 あんまるはにやり・・・と笑った。


「やっとアタシの出番ってワケ! 刀身顕現っ、【鮫丸推参サメマルエントリー】!」



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