第19話 ギルド認定試験(一/六)
そんなわけで、八月頭。俺は東京を訪れた。
東京はすごいな。いつ来ても人間がいっぱいいる。これは地方民ならわかる気持ちだと思うが、普通に怖い。人間が多すぎるので。
なるべく壁際を移動しながら、路線を乗り換えて渋谷へ。午前十一時、ハチ公前で待ち合わせだ。
「うい~☆ おつでーす、あっちーね今日もクソあっついすわ」
待ち合わせ時間から五分遅れて、グラサンをかけた杏奈がやってきた。
今日もなにか、形状のよくわからん肩の出た服を着ている。腹のあたりに紐があって、なんだったか、こるせっと風? のトップスだかなんだかだろう。たぶん。胸が強調される服だ。すごい。
「ああ、お疲れさま」
「おっぱい見ながら挨拶すんなし。ほら顔見ろ顔」
杏奈はサングラスをずらして「かわいかろ?」と笑った。黙ってうなずくと、満足そうにサングラスを戻して、両手を広げた。
「東京へようこそ~☆ ……って、前にも来たことはあるんだっけ?」
「姫虎の家が東京だからな。打ち合わせで何度か呼び出された」
「遠くね? てか、えー? それってデートじゃないの? 打ち合わせならオンラインでもいいわけだし。どこでしてたん? おうち?」
「カフェの個室だ。やたら狭い上に、床がベッドのようなシーツ敷きのマットレスになっている、ネカフェみたいな店でな。値段は高いが、姫虎の身バレを警戒して、いつもその店だった」
杏奈は頬をひくっとさせた。
「それさー、イチャつき専用のカップルシートじゃん。やっぱりデートじゃね?」
「いや、デートではない。姫虎も『いいですかモブ蔵、これはデートではありません。いい気にならないでください』と毎回言っていたからな」
「あー……。ひめこちゃんもアレだけど、段蔵くんの鈍感さもどうかしてんね」
「いや、感覚は鋭いほうだと思うぞ。鍛えているからな」
「そういうとこだぞ。……まあ、もう終わった話だし、いっか。いこー、こっちこっち! ちょっと遅れ気味だから急ぐぞー」
遅れてきたくせに……、とは言わない。たかが五分だしな。
それよりも。
「杏奈、試験の予約はできているのか」
「もち☆ 書類もばっちり送付済みだから、あとは実技だけー」
歩いて向かう先は、渋谷のリポップダンジョンだ。一見するとピカピカのビルにしか見えない。ダンジョン公社の東京支局らしい。
一階のカウンターで「予約の出雲です、登録名は『迷宮見廻組』でお願いしまーす」と受付を済ませると、すぐにスーツの女性が出てきた。
「お待たせしました。本日、試験官を務める、ダンジョン公社東京支局の
「よろしくお願いしますーす☆」「よろしくお願いします」
「では、会場に案内します。更衣室もありますので、そちらでダンジョン攻略用装備へ着替えてください」
地下へ続く階段を降りながら、萩谷さんが書類を片手に説明を始める。
「時間制限は百二十分、二時間です。試験中、よほどの危機に陥らない限り、手を出しません。当然、私が介入した場合は不合格になります。この程度のダンジョンで手こずるようでは、認定できないってことです。ご注意を」
「了解でーっす☆」
杏奈の軽い返答に、やや不安げな顔をする萩谷さんである。俺も杏奈も学生だしな。
「また、攻略の成否、つまりダンジョンをクリアできるかどうかはもちろんですが、攻略の過程も査定の対象となります。無理な攻略やゴリ押し、準備不足は減点対象です。いいですね? ……では、ご準備を」
更衣室で着替えて、地下の一室に安置された
驚いたことに、萩谷さんはスーツのまま入ってきた。気配で察していたが、この人、かなり強そうだな。
「ダンジョンスキルを使用される場合は、先に配信を始めてください。……使用しない方を見たことはありませんが。そんな人がいたら変態ですね」
あんまるが半笑いで「変態だってさー」と俺を見た。無言で『目玉くん』を二台飛ばす。俺は変態ではない。
さて、やるか。目配せして、手元の端末で配信開始ボタンを押す。
「ドモ~☆ あんまるでーっす!」
「どうも、加藤段蔵だ」
「今日の配信はねー、なんと! アタシらのギルド認定試験です☆ がんばるから応援してくれー」
この試験に合格しないと、ギルドを立ち上げられないのだ。
そう。俺がわざわざ東京まで出てきたのは、『迷宮見廻組』を結成するため。本気で学生起業に取り組むためである。
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