第21話 ギルド認定試験(三/六)



 "考えが足りない"


 アタシが良く言われる言葉だ。

 小学校の先生にも、中学の担任にも、高校の生活指導担当にも言われた。


 ……友達のユカにすら言われてしまった。

 放課後、教室でお菓子食ってるときだった。


「はあ? ダイバーになりたい? なんで? "カッコいいから"ァ? そんな理由で命かけるのは、さすがに浅慮じゃないかしら」

「センリョってなに?」

「考えが足りないってことよ」


 ユカは赤いフレームの眼鏡をくいっ・・・と指で押し上げて、読んでいた文庫本を机に置いた。


「たしかにダイバーは花形職業よ。カッコいいし、資源回収のために必要な職業だと思う。だけど、女子高生が"カッコいいから"でやるのは、馬鹿でしょう」

「えー。ダメかなー」

「才能はあるでしょうね。アンタ、神秘遺贈オカルト・インヘリタンスの家系だし、スポーツ万能だし。でも、やるなら頼れる人と一緒にやんなさい。アンタひとりだと見てらんないわ」


 そう言われたので、免許を取ったアタシはちゃんと他人と組んだ。アタシと同じ、ダイバー活動に憧れてダンジョンにやってきた、三人の初心者と。

 高校一年生の夏休み、大冒険の始まりだと思ってた。

 ……そして、ユカの言う通り。アタシは考えが足りなかった。


 モンスターの大群に追われたとき、囮を買って出た。とっさに、だった。

 ぼろぼろにやられて、ダイブドレスの魔術的バリア機能とかも尽きかけて、ようやく気付いたんだ。


 ああ、そっか。

 アタシ、こんな序盤で、カンタンに死んじゃうんだって。

 大冒険なんて始まってないんだって。

 憧れだけで走り出して、命を投げ出そうとしているだけなんだって。


 ――そんなときに、彼は来た。



 ●



 ギルド認定試験は、アタシにとって大事な見せ場だ。


「鮫丸、魔力充填――切れ味強化!」


 配信的な意味で、じゃない。

 アタシだってヒーローになれるんだって、段蔵くんと並んで歩けるんだって、証明するための見せ場なんだ。


 だから、モンスター相手に怖気づいていられない。敵はすべて格上――、いちいち腰引いていられない。段蔵くんの言う通り。

 敵は複数。この廊下にいるのは、石巨人が一体、紫色のイノシシが一頭、角の生えたオオカミが二頭。合計四体。

 鮫丸を構えて突っ込む先はオオカミだ。石巨人は固そうだけど、素早くはなさそうだし、イノシシはたぶん小回りが利かない。だから、まずは厄介そうなオオカミから狙う。


 階段から降りてきて、接敵に気づいたのはアタシらが先。各階層のモンスターは、よほどの例外でもない限り、別階層に移動しないし、階段の存在を認識できないからね。

 とっさに噛みついてこようとしたオオカミを、その大きな口ごと切り裂いて黒い霧に変える。返す刀で、もう一頭も叩き切る。ほぼ不意打ちで、まずは二頭。


「次……っ!」


 イノシシが、アタシ目がけて突っ込んでくる。転がって回避しながら、横っ腹に鮫丸を走らせて、こいつも黒い霧に。


 最後、石巨人は――ドスドス走ってきて、アタシ目がけて拳を振り上げていた。鮫丸の背に手を添えて迎え撃つ。がきん、と音を立てて、鮫丸と拳がかち合った。

 ダイブドレスで強化されたアタシの膂力でも押し負け、踏ん張る足がズリズリと後ろに下がるほどのパワー。なにより……。


「硬っ!」

「石巨人が硬いのは外皮だけじゃない。おそらく、体そのものが石製なんだろう。ゴーレムに近いが、泥人形と違って再生はしない。……手伝いはいるか?」

「だいじょぶっ! ここはアタシだけで……っ!」


 ありがたいことに、最近はリスナーが増えて、マジチャもたくさん貰えるようになってきた。鮫丸に、まだまだ強化を積める。


「鮫丸、魔力充填――波刃霧ハバキリ!」


 鮫丸の青い波紋が輝き、刀身から揺らぎ出る・・・・・

 青い魔力の霧を纏ったこの状態の鮫丸は、斬撃に衝撃波を併せ持つ。マジチャの消費が速いのはネックだけれど、鍔迫り合いにはめっぽう強いってワケ。


「おおお……ッ!」


 刀身を押し込めば、衝撃波が石巨人の拳を砕く。たたらを踏んだ石巨人の、その無防備なわき腹に横薙ぎの一撃、鮫丸・波刃霧の衝撃波を叩き込めば……。


「――しッ! だいしょーり! ぶい!」


 石巨人もまた、黒い霧になって消滅した。

 ふう、と息を吐くアタシの肩を、段蔵くんがぽんと叩く。


「やるな、あんまる。さすがだ」

「えっへっへ。でしょー?」


 言いつつ、さりげなく『目玉くん』から顔を背ける。

 段蔵くんに褒められて、ちょっと顔がアツいからさ。


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