第13話 【風魔流忍法:吞牛之術】(三/三)



「どうぞどうぞ、勝手にやってくれて構わんぞ。俺は見ているから」

「ごめんて! 謝るからお願い助けて!」


 ふむ。そうか。初見のモンスターだし、一太刀試してみるのもアリだと思うのだが……、先日死にかけたばかりだ。慎重なのは、悪いことではない。


「では、俺が倒すとしよう。せっかくだ、ダンジョンスキルも使ってみるか」


 あんまるの前に立ち、こちらに向かってくる牛鬼と対峙する。そうだ、あんまるのために、コツも話しておくとしよう。


「いいか、あんまる。牛鬼は力が強く、殴られると大変なことになる。サイズが大きいからリーチはそれなりだが、遠距離攻撃手段はない。動きは大振りで遅く、隙を見て攻撃を指し込める実力があれば、実はそれほど怖い相手ではないんだ」

「ウワーッ! こっち見て喋らないで前見て、前!」

「いや、話すときは相手の目を見るべきだろう」


 「あわわ」と震えるあんまるを見ながら、振り下ろされる拳をひょいひょい避ける。


 『なんだコイツ』

 『攻撃を感じ取るスキル持ち並みの回避性能』


 ただの忍者気配術ニンジャ・センシングスキルに過ぎない。姫虎の裏方をやっているときも思っていたが、コメント欄はいちいち大げさなのだ。


「次は隙だ。攻撃後を狙うのが基本だが、積極的に隙を作るように攻めてみるのもいいだろう。例えば――」


 忍者装束の袖から取り出したクナイを二本投げ放ち、両目を潰す。「ブモオッ!?」と、のけぞって呻く牛鬼。隙だらけである。軽く跳躍し、懐から取り出した長クナイで首を掻っ切る。


 首への攻撃は致命傷クリティカルだ。牛鬼は黒い霧になって消滅した。ドロップアイテムはなし。リポップダンジョンは旨味が少ないな。地面に落ちた二本のクナイを回収し、袖に戻しておく。


「――と。こんな感じだ。わかったな?」

「わかるかぁッ! 素早すぎん!? なに今の立ち回り!?」


 『瞬殺!?』

 『誰か今のところ切り抜いて、スロー再生したい』

 『牛鬼を翻弄する高速移動、動く対象の眼球を狙い撃てる精密投擲、高耐久モンスターの分厚い外皮を切り裂ける膂力と斬撃技術、これぜんぶ素です』

 『普通はダンジョンスキルでやるようなことだぞ!?』


 だから、そう大げさなことではない。忍者瞬歩術ニンジャ・マニューバスキル忍者投擲術ニンジャ・スローイングスキル、それから忍者斬捨術ニンジャ・キリステスキルを使用しただけだ。


「いまのは忍者の基本技術に過ぎん。鍛えれば誰でも可能だ」

「いや、それはどうなんだろうね……?」

「次はあんまるがやってみるといい」

「無茶言うなし。死ぬわ」


 無茶ってことはないと思うのだが……。

 あんまるは苦笑した。


「でもさー、いまの感じだと、ダンジョンスキルが戦闘向きなら、もっと強かったってことでしょ? やっぱり、もったいないなーって思っちゃう。収納スキルかー」

「いや、俺は戦闘向きのスキルだと思うぞ。……ちょうどいい、次が来た。ダンジョンスキルを使ってみるとしよう」


 あんまるが階段の先を見て、顔をしかめた。

 すでに、次の牛鬼がこちらに気づいて向かってきている。


「うげっ、連戦!?」

「このダンジョンは階段をのぼるだけの一本道だからな。こちらからも向こうからも丸見えだ。前に進みたいなら、ぜんぶ倒していくしかない」


 忍者の速度があれば、避けながら走り抜けることもできなくはないが。

 どすどす音を立てて走ってくる牛鬼。ダンジョンを照らすぼんやりとした灯りから、己の影の位置を確認しながら、広い階段の中央でやつを待つ。

 ――迫りくる牛鬼が、俺目がけて拳を振り上げた。今だな。


「起動、【風魔流忍法:呑牛之術ジャック・イン・ザ・ボックス】――」


 がくん、と牛鬼が前のめりに倒れ、拳が大きく空ぶって地面を叩く。轟音を立て、階段の一部が砕かれた。

 そして、牛鬼は手をついて、這いつくばっている。

 まるで、俺に首を差し出すかのような、無防備な姿勢だな。


「――では、これにて御免」


 長クナイで頸動脈を撫で斬る。牛鬼は黒い霧になって消えた。


「へ、は? 段蔵くん、いま、なにしたの!? なんでアイツこけたの? 今は、針クナイを飛ばしてなかったよね?」

「スキルだ。【風魔流忍法:呑牛之術】で足首までを呑み、影を閉じて割断した」


 『え?』

 『は?』

 『リアルタイムで切り抜き動画作ってる者だけど、マジで牛鬼の足首が影に埋まって、そのあと消えてる』

 『そんな収納スキル、聞いたことないぞ!?』


「モンスター収納したってこと? マジで?」

「俺はなんでも収納できる強力なスキル・・・・・・・・・・・・・・・だと言ったぞ」


 影から黒い塵がざらりと立ちのぼって消えた。呑んだ足首も分解されたらしい。

 半笑いのような顔で固まってしまったあんまるに、覆面越しににやり・・・と微笑んでみせる。


「ま、それでも地味ではあるか。ご期待に沿えず、申し訳ない限りだ」

「……もー! 悪かったって! ごめんて!」


 あんまるは両手を上げて降参のポーズを取った。


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