第14話 YOUは何しにダンジョンへ?(一/四)
その後、四体の牛鬼の首を落としたあたりで、次の鳥居が見えてきた。
あれをくぐれば、第三階層になるのだが。
「これさー、アタシが高難易度ダンジョンでキャリーしてもらってるだけじゃね?」
あんまるが渋い顔でそう言った。
キャリー。もともとはゲーム用語で、実力に劣る者が強者のサポートを得て高ランク帯に到達することを指す。文字通り、弱者を上位に
「たしかに、あんまるが牛鬼狩りをやらないなら、そうなるな」
「うーん、段蔵くんに自分でやるダンジョン配信の楽しさとか面白さを知ってもらうって点では、問題ないんだけどねー」
俺を執拗に誘ったのは、楽しさを伝えるためだったと?
「そんな目論見があったのか」
「だって、もったいないじゃん! すごい力があって、それを披露する場所もあるのに、くすぐらせてるなんてさー」
「……燻ぶらせる、か?」
「それ! ねえ、いま楽しい?」
『ダンジョンには潜ってたのに、配信はしてなかったんだもんな』
『変な忍者だな、たしかにもったいない』
『そもそも、なんでそんな変なことしてたんだ?』
む。コメント欄が変な邪推を始めている。いかんな。元雇用主になったとはいえ、姫虎に迷惑をかけては忍者失格だ。
「ああ、それなりにな。……せっかくだ、次の牛鬼はあんまるが倒してみろ」
と、話を逸らす。あんまるが、もっと渋い顔になった。
「無理つってんじゃん。何回そのネタ擦るんー?」
「倒せると思うぞ。冗談ではなく。これは本音だ」
「……ふぉえ?」
怪訝な顔で首をかしげる白ギャルの手を引き――「わっ、ちょっと! 急に手ェ握るじゃん!」――階段の中央に立たせる。
「お、ちょうど次の牛鬼が来たな。危険なときは助けてやるから、やってみろ」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って……?」
俺は待ってもいいが、牛鬼は待たないぞ。
「ブモー!」と鳴きながら、拳を振り上げ巨体が迫る。時間はあまりない。
「いいか、あんまる。回避優先だ。格上相手だからって、腰を引くな。そもそもモンスターの大半は人間より強靭な肉体を持っている。武術、知識、身体強化系の魔術や呪術を用いて、ようやく渡り合っているに過ぎない」
俺はつかず離れずの位置で、長クナイを構えたまま、助言を飛ばす。
「ほっ、わアっ!? あぶなッ」
あんまるは、わたわたしながら拳を避けている。避けられている。思ったとおりだ。
牛鬼は強くて大きいが、素早くはない。あんまるの動きは、前回のダンジョンでも見た。初心者にしては、かなり動けるほうだ。
「戦う相手は、
体力もあるし、動きも悪くはない。おそらく、剣術かなにかをかじったことがあるのだろう。血筋と妖刀が結びつくような士族家系の出身だ、親に教わったりしたのかもしれない。
それになにより、やはり眼がいい。観察力、洞察力が尋常ではない。忍者が何年も鍛えて手に入れる
「ほら、あんまる。ちゃんと避けられているじゃないか。あとは反撃するだけだが、牽制にもならん生半可な攻撃なら、しないほうがマシだぞ。隙を作るための攻撃か、致命傷となる一撃が必要だ」
「そんなッ、こと! いきなり言われたってぇ! うわ、こわッ!」
普通はどちらもない。忍者でもなければ、持っていないのだ。
だが、ダイバーにはダンジョンスキルがある。
異界化したダンジョン内で、多くのリスナーに支えられ始めて使える、自分だけの必殺技が。
「幸い、あんまるの得物は俺のものより大きいだろう。威力を見せてみろ」
「……あーもうっ! そこまで言われたらっ、あぶねっ、やってやろーじゃん!」
あんまるが牛鬼を睨みつけ、妖刀鮫丸の柄を両手で強く握りしめた。
「鮫丸、マジチャ充填……ッ! たらふく食べな!」
刀身の青い波紋が、さらに青く輝く。【鮫丸推参】は
牛鬼の大ぶりな攻撃を、体ごと刀を振りまわして回避する。
「おらーっ!」
そのまま、流れるように放たれる一太刀。隙を狙った、首への一撃。決まった――かに見えたが。
ギンッ、と音を立て、刃が止められた。
牛鬼が首を傾け、その牛の角で妖刀鮫丸を受け止めたのだ。
「ヤバッ……!」
妖刀鮫丸が中ほどまで食い込み、止まった。それは、逆にあんまるの隙となる。牛鬼が腕を振りかぶり――。
「初めてにしては、上出来だ」
――俺が背後から振るった長クナイが、あんまるに目を取られていた牛鬼の首を落とす。
牛鬼の体が消え、あんまるが地面に尻をついた。そして、天を見上げて叫ぶ。
「あー、くそー! いまのめっちゃくやしーんですけどー!?」
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