第12話 【風魔流忍法:吞牛之術】(二/三)



「……たしかに、地味かもしれんが。あんまる、お前は俺が、どんなスキルを発現すると思っていたんだ」


 あと、言い方が悪い。


 『言っちゃったよ』

 『火の玉ストレート』

 『あんまるの悪いところ出てるぞ』


 物おじしない性格は、良い面も悪い面もあるものだ。


「えー、忍者だから派手なやつかなって。口から火の玉を噴いたり、でっかいカエル出したりさー」

「……それは忍者ではなく奇術師や魔術師のたぐいではないのか」

「でもさー、忍者漫画では、もっとこう、派手なやつが……」


 地味なのは、否定できないが。ものを出し入れするだけのスキルだし。


「あ、あー、うん。でも、荷物がいっぱい持てるのは便利じゃん! 家からいろいろ持ち込めるじゃん、キャンプセットとかメイク道具とかあると便利そう!」

「フォローは下手なんだな、あんまる」

「あっはは、うるせい」


 あんまるは能天気に笑った。……ふむ。気づいていないのか。

 俺もダンジョンスキルは初発動だから、あまり深くは考察できていないが。


「いいか、あんまる。ダンジョンスキルはダンジョン内でしか使えない」

「ふぇ? そんなの当たり前じゃん」

「そうだ、当たり前だ。だから【風魔流忍法:呑牛之術ジャック・イン・ザ・ボックス】は家では使えない」


 あんまるが「あっ」と口を丸くした。


「そっか、出し入れ・・・・自体がダンジョンスキルだから、ダンジョン外での下準備はできないんだ……!」

「そうだ。別のダンジョンで入れたものを、また別のダンジョンで取り出すことは可能だろうがな」


 ただ、俺にはこの私有ダンジョンがある。ほかの人間よりは使いやすいはずだ。

 なお、出し入れするものの重量によって、消費するマジチャが変わるらしい。クナイ程度なら、さほど消費量は多くない。燃費がいいのも素晴らしい点だ。


 『あんまる、気づいてなかったの笑う』

 『でも、だから収納系スキルってハズレなんだよな』

 『なんでも収納できる(※ただし生き物は除く)とかだしな』

 『収納系は魔道具もあるし、スキルとしては大ハズレもいいとこ』


 リスナーたちは、素晴らしいと思っていないようだが。

 あんまるがコメント欄を見て「む、むう」と唸った。


「……段蔵くん、あの、その、さ? ハズレでも、いいじゃん。元気出しなよ。アタシ好きだよ、お祭りのくじ引きで貰えるハズレのちゃっちいおもちゃとか、ビンゴの参加賞のボールペンとか」

「本当に言い方が悪いな、あんまるは」

「ごめんて。ごめんて。ごーめーんーてー」


 両手をあわせて頭を赤べこみたいに上げ下げするギャルはさておき。

 俺は階段の先にある、大きな赤い鳥居を指さした。


「見えるか。あの鳥居の向こうが、二階層だ。風景は変わらんが、モンスターが出る。そろそろ得物・・を出せ。派手なんだろう? 俺よりも」

「割と根に持つタイプ……? ま、まあ、見せるけども。それじゃあ――」


 あんまるは両手を掲げた。


「――刀身顕現っ、【鮫丸推参サメマルエントリー】!」


 カッ、と両手が光り輝き、次の瞬間、青い刀身と荒波のような美しい波紋を持つ大太刀が握られていた。


「よーっし、行くぞー! あ、段蔵くんは見てていいからね! アタシの実力とか、知っといてほしいし! 幻想深度1000なら、出てくるのはせいぜい小鬼でしょ? アタシでもよゆーだ!」


 そして、意気揚々と走り出す。ダイブドレスの身体強化機能もあるだろうが、走るフォームがなかなか美しい。なにか、スポーツをやっていたのだろう。俺も付かず離れずで追走する。


 『めちゃくちゃ負けフラグみたいなこと言うじゃん』

 『ギャルがわからされる流れだ』

 『即オチ二コマだ』


「うっせ! アタシはそう簡単に負けないもーん」


 からから笑いながら鳥居をくぐると、鬼が出待ちしていた。身長三メートルほどの二足歩行で、牛の顔と角を持つ、筋骨隆々の鬼が。

 そいつは「ブモー、ブモー」と荒い鼻息を吐きながら、こちらを睨みつけてきた。


「あ、あえ……? こおには……?」


 あっけに取られているあんまる。見たことがないモンスターだったのだろうか。


「紹介しておく。牛鬼だ」


 『牛鬼!?』

 『幻想深度1000で出るモンスターじゃないぞ』

 『フィジカルだけならミノタウロス級のバケモンじゃん!』

 『本当にわからされる流れだ』

 『段蔵くん、あんまるを頼むぞ』


「あ、あの、段蔵くん? ここ、本当に幻想深度1000なの……?」


 頬を引き攣らせての質問に、「そのはずだ」と答える。

 ふむ。でも、幻想深度はたしかに1と0の羅列だったと記憶している。懐からダンジョン鑑定書を取り出して、念のため、確認するとしよう。


 ……姫虎がカンペを用意させていた理由が、少しだけわかった。記憶違いって、あるものなんだな。


「すまん、1000ではなく、10000だった。0ひとつ違うだけだ、些細な差だな。じゃあ、どうぞ。自由にやっつけてくれ」

「あほーっ! アタシがこないだ死にかけたトコ、5000なんだよ!? 倒せるわけないじゃん、やっぱり根に持つタイプなんじゃん!」


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