第11話 【風魔流忍法:呑牛之術】(一/三)
森の中に建てた祠、その開き戸の向こうに、宙に浮かぶ黒い穴がある。ダンジョンへの入り口だ。
中に入れば、ごつごつした岩山の中を、大きな階段が延々と続く光景が広がる。一段一段が、学校の教室ほどの広さを持つ階段だ。
このダンジョンは、ずっとこれが続く。
「おお……。上に潜る系のダンジョンだ、珍しいね。カテゴリーは?」
「ダンジョン公社に測定してもらったが、ローラシア・カテゴリー、タイプ:
「和風ダンジョンかー。忍者っぽいじゃん。てか、意外と深くね? いいじゃんいいじゃん、やりがいありそー」
出雲杏奈は『目玉くん』を飛ばしながら「そういえばさ」と俺を見た。
「ダイバーネーム、どうする? アタシは『あんまる』だけど。段蔵くんは『だんまる』にする? おそろっぽくてよくね?」
俺も『目玉くん』を起動し、コラボ設定をオンにする。初配信がコラボか。出雲杏奈はひまわりみたいに華やかな白ギャルだが、男とコラボするのは問題ないのだろうか。
「段蔵でいい。加藤段蔵で。襲名した名だ、本名バレはない」
「おっけー。じゃ、さっそく始めよっか」
「待て。ここまで来て今さらだが、男とコラボしていいのか?」
「え? 駄目な理由ある?」
「ファンが怒ったりしないのか」
姫虎は男女問わずコラボしなかったし、ダンジョン内で他人と遭遇することさえ避けていた。俺の存在を隠すためでもあるだろうが、とはいえ、男女コラボは
だが、出雲杏奈は「アタシはだいじょーぶ!」とピースした。
「こないだ、段蔵くんが助けてくれたときだって、実はコラボ中だったしね。男二、女二でさ。……みんな、もう引退しちゃったけど」
「
「そ! 引き留めたけど、なんか『あんなに命懸けだなんて思わなかった』とか言われちゃってさ。せっかく命拾いしたのに、辞めちゃうなんてもったいなくない?」
「命拾いしたから、辞めるんじゃないのか。次は死ぬかもしれない」
「あー、そっか。そりゃそうだ。アタシ、昔っから、こういうときに退けない性格でさー。猪突猛進っていうやつ?」
「行動力があるのは、悪いことばかりではないだろう」
生きづらいところもあるだろうが……、とは言わない。
出雲杏奈は、俺が言わなかったことを悟ったのか、苦笑した。
準備が終わったので、互いの『目玉くん』の配信を開始する。……カメラに映っていいのは、初めてだ。緊張するな。
出雲杏奈――あんまるが「はーい!」と片手を上げてポーズをとった。
「ドモ~☆ あんまるでーっす! 今日もダンジョン配信やってくけど、なんと! 先日助けてくれた忍者の段蔵くんも一緒です! ぱちぱち~☆」
「……ど、どうも。先日助けた忍者だ、です」
いかん。変な感じになった。敬語かタメ口かくらい、決めておけばよかった。
『初見です』
『先日はあんまるちゃんを助けてくれてありがとう』
『マジで忍者じゃん』
『覆面しててもわかる緊張具合で草』
『感謝のマジチャ送ります』
と、コメントが流れていく。
「配信は初めてで緊張している。……です。マジチャ、ありがとう。感謝するます」
「ガチガチじゃん。おもろー。てかタメ語でいんじゃね? 自然体でいこうよ」
「……わかった。なるべく、そうする。十八代目加藤段蔵だ。忍者をやっている」
『十八代目?』
『加藤段蔵って、あの加藤段蔵!?』
『勝手に名乗っちゃダメでしょ』
「そうだ。あの加藤段蔵だ。正式な襲名者だから、名乗って問題ない」
「お、調子出てきたじゃん。あ、今日のダンジョンはローラシア・カテゴリー、タイプ:大和で幻想深度は1000くらいだって! アタシにもやさしー難易度だね」
あんまるは階段を上がりながら説明を続ける。
「でさー! ビックリなんだけど、段蔵くんダンジョン配信したことないんだって! この前も『目玉くん』なしで、体術だけだったんよ! こんな人もいるんだねー!」
『は?』
『え?』
『高速移動系のダンジョンスキル持ちじゃなかったの!?』
『すいません、腹筋五十二万回してきます』
「ちょっと待て。過度な腹筋はやめておけ。仰向けになって上体を起こす腹筋は背中や腰を痛める可能性がある。無理のない範囲、回数にしておくべきだ」
「なんでそのコメントを拾う……? まあいいや、そういうわけで、ダンジョンスキルも使ったことないらしいから、今日はスキルのお披露目回も兼ねてるってワケ。さっそく組んでもらっていい?」
「了承した」
『目玉くん』のベースパッケージに基本術式が入っている。それを励起すると、魂を含めたパーソナルな情報を読み取り、自分だけのダンジョンスキルを構築してくれる、という寸法だ。開発者は天才だな。
現在、それなりの量のマジチャが『目玉くん』を通じて流れ込んできている。あんまるのファンが、お礼と称して投げてくれているのだ。ありがたく使わせてもらう。
初期術式を起動すると、俺の魂や血、体質と結びついて、新たな術式を組み上げ、定着させていく。
……ふむ。なるほど。ダンジョンスキルとは、こういうものか。なにができて、なにができないのか。直感的に理解できる。
「――【
唱えると、俺独自のダンジョンスキルが発動する。
あんまるは「おおっ、かっこいい名前!」と目を輝かせて十秒ほど待ってから、おずおずと首をかしげた。
「……なんも起こってなくね?」
「いや、起こっている。見ていろ」
懐からクナイを取り出して、そのまま地面に落とす。クナイは俺の影に、ずぷん、と音を立てて吸い込まれた。収納の際、少しだけ魔力が減った。
「影の中に、なんでも収納できるスキルだ。重さは牛一頭分……、だいたい一トン弱ほどだろう。どうだ、強力なスキルだろう」
「あー……」
なぜか反応が悪い。どうしてだろうか。
疑問に思っていると、あんまるが首をかしげた。
「なんか、地味じゃね?」
おい。
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