第10話 段蔵のダンジョンスキル(後半)
一緒にダンジョン配信することは決まったが、しかし、出雲杏奈は東京在住で、俺は伊賀の奥里に住む三重県民だ。
日を改めるには、少々、距離がある。出雲杏奈は「アタシがまたこっち来るし」と言ったが、それには及ばない。
「今日、いまから配信しよう。『目玉くん』はあるか?」
「へ? いちおう、帰りにどっか潜ろうと思って、遠征セットは持ってきてるけど……。この辺、いま開いてるトコあんの?」
基本的に、新規のダンジョンは、即座に攻略されて消滅する。
産出するモンスターのドロップアイテムによっては、ダンジョン公社から「もうちょっと資源を取って欲しい」と命じられることもあるが、ダンジョンコアの回収が優先されがちである。
ゆえに、今日いきなり配信となると、近場で都合よく開いているダンジョンが必要なのだが……。
「うちの山に、リポップダンジョンがある。産出品でレアなものは少ないが、配信目的なら問題ないだろう」
「うっそ、私有ダンジョン!? こんなところにあるなんて聞いてないよ、一般開放してないの?」
「ああ、私有地だ。修行用として利用しているから、一般開放はしていない。ここから歩いて五分ほどだから、すぐに始められるぞ」
リポップダンジョンは攻略しても消滅しない。
通常は初心者の研修用などに利用されるが、私有地にリポップダンジョンが開いた場合、ダンジョン公社への届け出と登録はもちろん必要なものの、私的利用も許される。
「修行用かー。それなら、アタシでも大丈夫かなー。あ、そのダンジョン、更衣室か準備室って、ある?」
「ない。用意があるなら、この部屋を使え」
「おっけー、あんがと!」
そう言ったが、出雲杏奈はなかなか準備を始めず、俺を伺うように見ている。
「どうした。準備しないのか」
「アタシ、いまから着替えるんですケド? そんなに堂々と見られちゃうと、さすがのアタシも恥ずかしいカナ~って」
俺は「覗かないでねー☆」と笑う出雲杏奈を放置して、自室に戻った。忍者装束を着て客間の前に戻ると、ふすまの向こうからシュルシュルと衣擦れの音が聞こえてくる。もう少し時間がかかりそうだ。
……いかん。ここで衣擦れに聞き耳を立てているなんて、なんだか変態のようではないか。それはよくない。冷たい麦茶と握り飯でも用意しておくとしよう。それと、俺も配信するのだから、俺用の『目玉くん』が必要だな。
裏方だったから使ったことはないが、姫虎に「モブ蔵も女の子とコラボする日がいつかきっと、いえ必ず来るので、そのときのために買いなさい今すぐ買いなさい」と買わされたものがある。押入れから引っ張り出してくるとしよう。
準備が終わると、出雲杏奈は白ギャルから袴甲冑ダイブドレスのサムライ風白ギャルに変貌していた。ただ、以前持っていたアレがない。
「武器はどうした。大太刀を得物にしていたと記憶しているが」
「ん? ああ、
「主武装がスキル依存なのか。サブ武装は? ダンジョンスキル発動までは、どう凌ぐプランなんだ?」
「他の武器使うと拗ねるんだよねー、鮫丸。安心して、刀身顕現だけなら
よくわからないが、問題ないらしい。
俺たちは家を出て――「戸締りしないの!?」「知り合いしかいない里だし、罠もあるからな」「それはそれでヤバくね……?」――裏山へ向かって歩く。
太陽は高く昇って、じりじりと熱を発している。そろそろ昼だな。
「ね、アタシのダンジョンスキルは大太刀の鮫丸を顕現させて、そこから派生的に妖刀の力を引き出していく、
「それは無理だ」
出雲杏奈は口を"へ"の形にした。
「なに、そんなにアタシが信用できない?」
「いや、
「ほえっ? ……あー、そっか。配信なしの裏方でマジチャ貰えないし、体術オンリーだったんだよね。冷静に考えたら、とんでもないことしてない?」
「身体強化の術符は使っていたし、武器もあった。とんでもなくはない。『目玉くん』が開発されるまでは、みなダンジョンスキルなしだったと聞く。それと同じだ」
「うん、数十人規模で徒党を組んで、重火器部隊と魔術師連れての、命懸けの攻略だったやつだよね、それ。ぜんぜん同じじゃないし。ソロで配信なしとか、どうかしてるからね?」
そうだろうか。俺よりすごい人を見て育ったから、あまり実感がない。
※※※あとがき※※※
このタイトルでダンジョンスキル見せるところまで行けなかったことを懺悔します。
次回! 次回は見せるから!!
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