第9話 段蔵のダンジョンスキル(前半)



 ダンジョンは多くの貴重な資源を産出するが、最たるものはダンジョンボスを倒し、ダンジョンが消滅した際に生み出される巨大な宝石――ダンジョンコア。

 その正体は、超高密度に圧縮され結晶化した魔力塊である。


 令和の日本では、ダンジョンコアが発するエネルギーで熱を生み出して湯を沸かし、タービンを回して電力を得るダンジョンコア発電が主流なのである。二酸化炭素が出ないから諸外国に環境問題でちくちく突かれない。

 ここ数十年で主流となった発電方法だ。


「いいか、出雲杏奈。公社からダンジョンコアの回収を請け負うのが民間開拓企業ギルドだ。『目玉くん』の登場以来、業態をダイバーのマネジメントへとシフトしてはいるそうだが、おいそれと起業できるようなものではないだろう」


 一年間も姫虎のサポートをやってきた。それなりに知識はつけてきた。

 ちゃぶ台越しに、ギャルを見る。おそらく、同年代。胸の大きさから比較するに、姫虎より年上だろう。高校三年生か、大学生だとあたりをつける。


「……めっちゃおっぱい見るじゃん」

「出雲杏奈。何歳だ? 何年生だ?」

「脈絡ゥ。会話下手か? ……十六歳の高一だけど」


 年下だった。え、じゃあ姫虎は年下よりも……。


「急に悲しそうな顔するじゃん。どったの?」

「我が竹馬の友への憐憫の想いがあふれ出ただけだ。気にするな。いや、憐れに思う必要もないんだが。あいつにはあいつの良さがある。脇とか」

「ええ……? なんの話……?」


 ともあれ。


「ギルドの結成には、多くのハードルが存在すると聞く。学祭でやるアイス屋とはわけが違うんだぞ」

「学生起業なんて、もう古いくらいじゃん☆ まあ確かに、ダンジョン関係で学生起業は、なかなかないだろうケドさ」

「そうか。ならば、止めはしない。だが、俺はやらん。修行があるのでな」


 出雲杏奈は「えー」と頬を膨らませた。


「じゃあ、パーティー組んで配信するだけなら、どう?」

「断る。俺は忍者だ、表に出るような存在ではない」

「一回だけ、お試しでもだめ?」

「だめだ」

「うーん、そっかそっか。そこまで断るなら、無理強いはできないよねー」


 そう言って、出雲杏奈は机に突っ伏し、溜息を吐いた。


「はーあ。でもなー、せっかく来たのになー」

「そっちが勝手に来ただけだろう」

「一回くらい、やってくれてもいいのになー」

「やらんと言っているだろう」


 突っ伏したまま、俺を上目遣いに見て、にやりと笑った。


「おっぱい揉まれたのになー」

「おっぱッ……、胸は揉んでいない。不可抗力で触れただけだ」

「ガッツリわしづかみで堪能されたのになー」

「堪能なんてしていない。もう感触もおぼえていないとも」

「男の人におっぱい揉まれたの、アレが初めてだったのになー」

「だから、揉んでいないと……」

「あーあ、初めてなのに『揉んでない』とか『感触もおぼえてない』とか言われちゃうと、それはそれでショックだなー。アタシにとっては、人生最初の忘れられない思い出になる出来事なのになー」

「……おい」

「これはもう、ダンジョンに潜ってストレス解消するしかないなー。誰か一緒に潜ってくれないかなー」

「あのな……」


 呆れてしまう。なんという図太さだ。

 押しの強さだったり、行動力だったり、なんというか……、俺にはないものを、たくさん持っているギャルだな、こいつは。


「……わかった。一度だけ、潜ってやる」


 だからだろうか。俺はついつい、了承してしまったのだ。

 出雲杏奈は両手を上げて「やったー!」と喝采した。



※※※あとがき※※※

元気がある日は一日二回更新するのを目標にやっていきます。

今日は(元気)ないです。

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