第4話 回想・ピンチのギャルを助ける(前半)
一年の間に『ダンジョンひめこ』チャンネルの人気は、うなぎのぼりにのぼりまくった。
その清楚な美貌、物腰柔らかな性格(猫かぶりだが)、そして棘付きメイスを振り回してモンスターをなぎ倒す姿が、ウケた。
あと脇もちらちらするし。うむ。俺は忍者なので性欲とかないが、脇がちらちらすると見てしまう気持ちはわかる。俺は忍者なので性欲とかないが。ないんだが。
そして、人気になればなるほど……、姫虎は増長した。
「こんひめこ~! 姫虎のダンジョン配信へようこそ! です!」
一年間も活動を積み重ねると、挨拶も様になってくるものだ。
姫虎の白い騎士鎧ドレスも、一年間で得たお金や素材で強化改良されまくり、いっぱしのダンジョン配信者として見栄えの良いものになっている。
もちろん、俺は裏方だから見栄えは不要だ。カッコいい
『待ってた』
『こんひめこ~』
『こんひめこ~、今日もかわいい』
羽ばたく『目玉くん』の下部にホログラフィックディスプレイが浮かんで、視聴者のコメントをつらつらと流していく。
俺は『目玉くん』の画角に入り込まないよう、物音を立てずに姫虎についていく。これがなかなか難しくて、修行になるのだ。
「今日挑むダンジョンは、ローラシア・カテゴリーのタイプ:
『ダンジョン情報暗記してるのえらい』
俺の掲げたカンペを読んでいるだけだ。
姫虎は、決して馬鹿ではない。この程度の情報、一目で丸暗記できるだろうが、俺がカンペを出さないと怒るのだ。「モブ蔵、あなたその程度の仕事もできないのですか?」と鬼詰めされるので、毎回、カンペを用意している。
『無理しないで』
『むんって気合い入れるのかわいい』
『すきです』
『今日は和風の洞窟系ダンジョンか。珍しいな』
『初見です。どこのダンジョン?』
「初見さんこんにちは! 場所は言えないんです、ごめんなさーいっ。私、ソロダイバーだから、凸されると、その、ね……?」
姫虎が申し訳なさそうに両手を合わせて首を傾けた。
『ソロで幻深5000? すげー』
『変な男が凸したら困るもんね』
『そりゃそう』
『ひめこちゃん、男と喋ったことなさそう』
『小中高ぜんぶ女子高なんだっけ』
俺もいるので実はソロではないし、男と喋りまくりだが、姫虎は清楚系が売りだ。「無粋なツッコミはせず、夢を見せてあげましょう」という方針である。
……現実的な話をすれば、俺の存在を明かせば、姫虎は「男とダイブしてリスナーを騙していた女」になってしまい、炎上も視聴者離れも避けられまい。それゆえに、俺はぜったいにカメラに映ってはいけない契約なのだ。
「えー、男の子と喋ったこと、あったかなぁ。記憶にある限りでは、ないですねぇ」
ゆえに、
そもそもリスナーに嘘を吐くなと言われたら、その通りだ。俺も姫虎の共犯者で、そこは大変申し訳ないのだが……、姫虎には逆らえないんだよな。
罪のない視聴者を詐術にかけているようで、正直、心が痛む日もある。
雑談しながら洞窟を歩くこと、数分。姫虎が「あら」と声を上げた。
「モンスターがいます。あれは河童でしょうか。うーん、いかにも和風ダンジョンのモンスターって感じです。倒してみたいので……みなさん、投げ魔力をお願いします!」
『りょうかい!』
『いっぱいあげるね』
『おじさんの魔力、全部吸い取って♥』
色付きのコメントが勢いよく流れ、『目玉くん』を通して、大量の投げ魔力が姫虎に注がれていく。そして――。
「いきます! 【
ダンジョンスキルが発動し、白い光が姫虎の肉体を包み込んだ。
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