第3話 回想・一年前(後半)
街の電器屋にも『ダンジョン配信コーナー』がある。
いまや小学生の将来の夢ランキングでも上位に食い込む職業だそうだ。
「そして、そんな夢の職業であるダンジョン配信を支えるのが、この『目玉くん』なのです」
姫虎は、本格的なカメラに蝙蝠の羽がくっついた、ダンジョン配信専用の
ダンジョン開拓免許はダンジョン内での資源採掘を許されるだけ。ダンジョン配信については、あまりよく知らないのだが、たしか……。
「このカメラがあるから、特別な魔術が使えるのだったか」
「そうです。それがダンジョンスキルですね。人間ひとりが持つ魔力の量は、せいぜい一〇〇ポイント前後。非魔術師の職が多いご時世ですから、たいていの人が魔力を持て余しているわけです。それを
「なるほどな。使わない魔力を配信を通じて配信者に贈与することで、普通は使えない大規模な魔術でも、ひとりで扱えるようになるのか。ダンジョン内は異界だから、地上よりもよほど楽に術が使えるのだろう」
「説明に割り込まないでください」
ガッと、すねを蹴られた。痛くもかゆくもないが。
「モブ蔵の言ったとおり、異界化したダンジョンでは、普通は使えないような魔術が簡単に使えるようになります。わかりやすく言えば、ダンジョンスキルとはダンジョンの中でのみ使える、自分だけの必殺技なのです」
「心得た」
「というか、モブ蔵。あなた、実家に私有のリポップダンジョンがあったでしょう。ダンジョンスキルを使ったことはないのですか?」
「ない。"あなぐら"は修行用でな、体術、武器術、忍術だけで挑むのが加藤家のルールだ」
リポップダンジョンとは「ボスを倒しても消滅しないダンジョン」のことである。一定時間後にボスが
伊賀の奥里、加藤家所有の山にもそのリポップダンジョンがあり、俺は普段、そこで修行しているのだ。
なお、開拓免許がなくとも私有地内であればダンジョンに潜ることは違法ではない。自動車免許がなくても私有地なら運転できるのと同じだな。
「そうですか、ダンジョンスキルなしでのダンジョン攻略が修行だったと。……やっぱり、モブ蔵はとんでもない
「掘り出し物?」
「なんでもないでーす。えい」
姫虎はにこにこ笑って、また俺のすねを蹴った。
「じゃ、さっそく明日からダンジョン潜りましょうね。特注のダイブドレスも用意してあるし、メイスも買ったし……。あ、そうだ。バイト代は出しますけど、三重の最低賃金にあわせますね。あと交通費は自腹です」
「……いちおう、俺もダンジョンで命を張るんだが」
俺のささやかな反抗は「え? なにか言いました?」と笑顔で押し流されてしまった。
――これが、一年前の夏の話だ。
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