第23話
「………………」
「死んでしまったか、マクセル」
「大変な思いをしてまで生まれ変わらせたセーラたちには悪い事をしてしまったのぅ」
「いいえ、気にしないでください」
「マクセルは嫉妬にまみれて狂ったし、仕方がないみゃん」
「それにやっと楽になったルシファーの魂を無理に宿したから、これからの苦行に付き合わせるのも可哀想だしねぇ」
「そうじゃな……」
わらわたちはマクセルの亡骸を抱えてそれぞれの天術を唱えた。
これまでお見せした通り、わらわたちの扱う天術はそれぞれの名前を使うことになっている。
というか、自分の名前の入った呪文を唱えるといろんな天術が使えると言ったほうが正しい。
そして全ての天使が最初から使える天術が……
「
「
「
「
「祝福を司るわらわの、そして」
「天聖三者の名を以て天へ祈りたもう」
「勇者マクセルの魂を安らかに導き給え」
わらわたちが無意識のうちから自然と頭の中に刻み込まれてるのが、死者をあの世へ送れる
ちなみにわらわは死者を悼むだけのこの天術が大嫌いであった。
何故ならこれを唱える際は、必ず誰かが悲しい思いをしているからだ。
けれど弱き日のわらわはこれ以外に天術を覚えられず、否応無しにこればかりが上達したものである。
「さすが大天聖さまです」
「非常に美しく、まるで祭典をしているかのようでした」
「さすがにボクも大天聖直々のお見送りを目の当たりにしたら感動したにゃん」
「まさに慈愛の大天聖さまねぇ」
「よせやい。わらわはこんな大仰な言葉嫌いじゃ」
「それよりも!」
「本当にわらわに着いてくるのか?」
才能に満ち溢れ、憧れの天聖を生まれ変わらせるためにこの世の大勢の生物を倒しつくした三人の天使に問いかける。
最初はこの三人はわらわを倒そうとしてここに来ていた。
それが色々と交流する内にいつの間にか仲を深め、何故か味方のような間柄になってしまった。
しかしこやつらはわらわ抜きでも世界を再びまとめる事が出来る力を持っているし、実際今でもわらわが少しでも失望に値する姿を見せたらすぐに裏切り、また三人でどうにかしようと思っているだろう。
だから念のために聞く。
わらわはどのような世界を望んでいて、それがセーラたちと一致しているのかを。
「わらわはな」
「どんな種族も隔たりなく」
「富める者は貧しき者に手を差し伸べ」
「手を握った弱者は多くを手にして」
「多くを持つ者は持たざる者に分け与え」
「持たざる者はやがて富める者になってほしい」
「そんな平等が循環する世界が欲しいのだ」
そしてそれを崩さないようにするには、今の世界にはあまりにもずば抜けた強者が多すぎる。
そしてその強者が人間の元に集まりすぎている。
賢者の存在。そして人間の進化していく性質。
この2つを超越するほどの強さが今の魔物界、天界には存在しないのだ。
だからこそ、わらわの望む世界は苦しいイバラの道を歩むことが余儀なくされている。
きっとわらわの歩む道は考えうる限り最大の苦難を歩むことになるであろう。
セーラたちが本来描いていた世界よりも確実に甘ったるくて、そして夢物語のようなことだからな。
現実を見て考えるこの三人からしたら、相当考えていた道と剥離していて着いていくに値しないというのは分かりきっているはずだ。
けど、それでも。
わらわを信じてくれるのなら。
今の言葉が嘘偽りのないものであると絶対に見せてやる。
なんせわらわは嘘をつかないからのぅ。
「……」
「なにボケたこと言ってるんですか!」
「改まって何を言うかと身構えちゃったにゃん」
「そうよぉ。そんなの分かりきってた事よぉ」
「な、なんじゃおぬしら。ホントに分かっておるのか。わらわは本気で世界を平等にしたいんじゃよ。それこそ嘘じゃなくてホントに」
「ふふふ、魔王さまこそあたしたちの事をよく分かってないんですね」
「こんにゃ甘っちょろい夢の世界を作りたいのは、エシャーティだけじゃなかったにゃん」
「あ……そうか。そうじゃな」
……そうだった。
わらわがこの夢を抱くキッカケになった人も、さっきのような夢物語の世界へこの世を変えてみせると語っていたんだった。
ふふふ、わらわは本当に物忘れが激しいのぅ。
それにこの三人。
まさにその甘っちょろいルシファーの元に何千年もいた、純度の高い夢見娘たちであった。
と言うことならば、何も不安はありゃせんな。
「結局みんな、一人の男に惚れていて」
「そやつの夢の果てを描きたいってわけか」
「そうですよ魔王さま。今さら気づいたのですか」
「エシャーティも中々にボンクラかもしれんにゃあ」
「まあでも今までで一番強いリーダーだわぁ」
「そうじゃろうそうじゃろう。なんてったって」
「わらわは最強の魔王であるからな!!」
最強の天使三人を引き連れた、長い長い夢追い物語が幕を開ける。
この先にどれほどの苦しみが待っているのかは想像もつかないが、わらわの心には微塵も不安や心配はなかった。
これからわらわに裏切られて敵意剥き出しの天界にむかったり、天敵まみれの人間たちの元へ話をつけに行ったり、世界中へ僅かに逃げ延びた魔物たちを探しに行く旅が始まる。
けれど何故かわらわは、その旅が最後には笑顔で終わるような予感がしてならなかった。
きっと……きっとそれは。
ルシファーや先代の大魔王たちが、わらわたちを見守ってくれているからだろうな。
「それじゃセーラ、シャム、マカ!」
「わらわに着いてくるのじゃー!」
「はい、魔王さま!」
「たまにはお魚を食おうにゃん、魔王〜」
「ふふふ、すっかり魔王ちゃんって呼ぶのに慣れたわぁ」
「では行こうぞよ。あ、そうだ」
「留守を頼んだぞ、マクセル」
城の中で最も天に近い場所で眠るマクセルにそう告げて、わらわたちは果てしない旅へと出発したのであった。
ある大魔王の旅のはじまり エシャーティ @Ehsata
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