第22話
マクセルが大きな声で叫ぶと、絶対的なルシファー譲りの力に任せた凄まじいパンチを放ってきた。
そう、最強の技とは結局のところパンチである。
マクセルよ。
おぬしもわらわと同じ結論に至ったか。
ちょっと見どころがあるぞよ。
「ヌガァァァ! 勇者パンチ! 勇者パンチィィィィ!」
「ぎにゃー! ふざけた攻撃だけど尋常じゃない威力だミャ! 当たったらマジで即死だにゃん!」
「
「れ、れ、冷静に眺めてる場合じゃないですよ!」
「マカさんはワープも時止めもできないんだから避けれないでしょ!?」
「うふふ、だからセーラちゃんたちにくっついてるんでしょう〜」
「ああもう、絶対に話さないでくださいよ! 時よもっと止まれぇぇ!」
「ひーん、おデブをこっちに押し付けるにゃあ。お、おもい……ワープぅ!」
「あなたたちねぇ」
「勇者キック! 勇者パンチ!」
さすが天使の中でも最強に近いやつらだから心配しなくても大丈夫そうだ。
それならばわらわも存分に戦える。
これまで数千年もの間、わらわは自分の事を最強の魔王だと名乗っていたが、実は少しだけ後ろめたさを感じていたのだ。
それは、他に最強と呼ばれている賢者たちや天界の主とまともに戦ったことがないのに最強だと名乗ってもいいのだろうか、とな。
わらわは最強の一人として数えられていた我が右腕、つまり先代の大魔王をぶっ倒して部下にはしたのだが、あやつは六人の中では最弱であったから。
とはいえわらわは己の力に一点の疑問すら抱いてないので、正々堂々と最強を名乗ってはいた。
それに博識な我が右腕もわらわを誰よりも強いって褒めてたし。すごいじゃろ。
「お前を倒せばわらわの最強は証明できるというまたとない機会だ」
「ルシファーはもっと理知的に戦術を組み立てる男だったから、そなたとはだいぶ最強の純度に差があるがな」
「まあでも、強さだけは最強だ」
「だから来いマクセル!」
「がァァ! 死ね魔王ー!」
「スーパー勇者パンチ!」
「うぐぉぉ……い、いったぁー!?」
「バカ正直に食らってやがるミャ!」
「魔王さま、なにしてるんですか!」
うっ、これちょっとマジのパンチじゃ。
ぽんぽんがめっちゃいたい。
ぽんぽんが、痛いんじゃあ。
痛いんじゃあ、ぽんぽんが。
あっ、やばい。
倒れる!
「どてーん!」
「うそ……」
「エシャーティがワンパンだにゃん」
「やっぱマクセルのパンチを防御もせずに食らったらまずかったのよぉ」
「オラァ死ね魔王! 勇者サッカーボールキック!」
「ぶがっ! い、いたいのじゃあ……」
「勇者地ならし! 勇者ヤクザキック!」
「あうぅっ、ぎゃんっ!」
「この……あ、あ、あたしが相手だッ!」
「むっ、裏切り者め!」
「勇者バケツキック!」
「よせセーラ、あぶないっ!」
マクセルのめちゃくちゃな蹴りがセーラの細い脚を捉える瞬間、セーラの体はマクセルへ体当たりをして間一髪のカウンターをしていた。
その勇気にあてられたのか、シャムも続いてマクセルへ突進をする。
突然の猛攻にマクセルも不意を突かれ、さらにマカの放つ電撃が追い打ちをかけた。
マクセルが怯んでる隙にシャムに抱きかかえられながらワープされ、何とか距離を取ることに成功した。
「助かったのじゃ。すまんのうみんな」
「しかし」
「あんな危険なことはもう止せ!」
「わらわは一撃じゃ死なんから心配無用じゃ」
「で、でもホントに魔王さま痛そうだったから」
「……ありがとう。セーラ、マカ、シャム」
「ふん、素直じゃにゃいみゃー」
「本当よぉ。ほら、ここ痛むんでしょ。つんつん」
「ひぁぁ、やめるのじゃ……あひぃー!」
「ああ、魔王さまかわいいです、はぁはぁ」
「うぐっ!? セーラやめろ、なにを」
「はぁはぁ、魔王さまミントブルーなんですね」
「ヌガァァァ! 俺の前でイチャつくな!」
「どっせぇぇぇぇぇい! 勇気パンチ!」
マクセルは性懲りもなく同じ攻撃を放ってくる。
はぁ。分からんやつじゃのう。
わらわはずっと前に教えたじゃろう?
最強には同じ技は通用しないって。
もうおぬしの技は終わった技なんじゃ。
空気を読めぃ、マクセル!
「
「勇気パ……ぬぅっ!?」
「すごいにゃ、あのパンチをパンチで押し返したミャ」
「とんでもない気合ねぇ」
「さあ、来ないのなら行くぞマクセル!」
「殺す気の一撃を出せなかった己を、あの世で呪うがいい!」
「
「そして!」
「
「思い知れェェェ!」
「先代魔王の! そして堕天聖ルシファーの無念を味わえェェェ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
強靭なマクセルの体に、わらわのリスペクトに満ちた最強の一撃がめり込む。
全ての力を拳に乗せた一撃は、わらわを最強たらしめる要素がふんだんに盛り込まれていた。
最強とは、
決して相手を敵だと決めつけないことなのだ。
それが名もなき下級天使として生まれたわらわが大天聖、そして大魔王へと至らせた心だった。
ふふふ、実はこの技を放つのはこれで二度目だ。
一回目に放ったのは、もう数千年も前の事だから覚えておらんがな。
だってわらわは、物覚えが悪い女だから。
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