第21話
マクセルが分不相応な名を叫んだ瞬間、明らかにマクセルから感じる力が増幅されるのをわらわたちは直感した。
これはまずい。
この膨大な戦意は本当にまずい。
なぜならこの感覚はわらわたち天使が慕い、敬い、好んでいたあの人の感覚そっくりだからだ。
「フハハハハ! ステータスオープン!」
「……なぜ全員魅了されているんだ!?」
「うう、まずいのう。もろルシファーじゃ」
「にゃあ。ボンクラのくせにルシファーそっくりでやりづらいみゃ」
「別に戦闘力はどうでもいいけどぉ、雰囲気がアレなのはずるいわねぇ」
「でもあたしたち、もう大天聖さまに鞍替えしたから耐えなきゃ!」
「そうだみゃ。裏切りは天使のお家芸だしにゃ」
そう言うと明らかに好意を孕んだ顔つきでセーラたちがこちらを見つめてきた。
その顔はやめるのじゃ。
なんか変な気分になるのじゃ。
あとマクセルがシカトされてブチギレてる。
「来ないのならこちらから行かせてもらう!」
「
「いかんっ! こちらもじゃ!」
「はいっエシャトロニオスさまっ!」
「わらわが補助をするからセーラは時を止めい!」
「了解!
「今じゃっ。
「みゃっ、これが大天聖エシャトロニオスの天術かニャ!」
天術など、いや魔法自体を久しぶりに使ったから何だか小っ恥ずかしいのう。
とはいえ身体は使い方を覚えているようで安心した。
何故かというと……
一瞬にも満たぬ間にマクセルの体にはぶっすりと、小振りだが鋭く光るセーラの剣が刺さっていたから。
「ぐふっ!」
「くっ、時止めはそちらが上手か……」
「よし、一発当てましたよ! 褒めてくださいエシャーティさま!」
「よくやった。さすがはセーラじゃ」
「クソ、こんな攻撃で俺は死なない!」
「
「甘いわァ! 今は戦闘中ぞ!」
「合わせろシャム!
「みゃあー!
シャムへ檄を飛ばしわらわが補助の天術を唱えると、ダイレクトヒール中のマクセルへとシャムが飛び込んでいった。
お得意のワープで加速をし、反撃もしくは防御をしようと気を伺うマクセルを翻弄する。
そして回復もままならぬまま、マクセルの懐へ一塊の毛玉が衝突した。
「喰らうみゃ偽ルシファー!」
「
「ふっ、不用意に近づいたなシャム!」
「
「
「ぶみゃっ」
「シャムッ! もろアッパー喰らったかッ!」
「アッパーではない! 高貴な土の聖なる一撃だ」
「ちがわい、ただのアッパーじゃい」
「オリジナルの方がただのアッパーって言うんならその通りねぇ」
とはいえアッパーを喰らって戻ってきたシャムは思ったよりデカいダメージをもらっていて悲惨だ。
さすがにルシファーと同じような雰囲気を纏っているだけあって、戦闘力もバカにはならないということか。
そんな中で普通に一発置いてきたセーラは中々のバトルジャンキーじゃな。
さて。
そろそろマクセルの分析も終わったし、あっちが逆にわらわの天術をコピーして使ってくる前に始末するとしよう。
わらわの
実はメルトバスターのように使うと使用者までもが死ぬような魔法の反動が返ってこないようにも出来る、結構すごい天術なのだ。
だからもしマクセルがわらわの天術をコピーしてメルトバスターを連射してきたら……
さっきまでのマクセルのメルトバスターならわらわのキックで相殺できたものの、ルシファーと同等のパワーで放たれたらさすがに相殺はできぬ。
だから一旦ズルをさせてもらう!
「よし、では頼むぞマカ」
「私の版ねぇ。どうするぅ?」
「体術じゃ!
「はいはーい。
「みゃあ、エシャーティにマカが攻撃してるニャ」
「ちがう! 魔王さまは体術を指定してたから……」
「ナイトクラスタの逆バージョン」
「つまり究極のバフ呪文を掛けてるのでしょう」
「……なんだと? そうはさせるか!」
「それはこっちのセリフじゃ! オラァ!」
「グガァッ!」
ふっふっふ、ただでさえ最強の我が身に数倍もの力が湧いているのが分かるわい。
なんせルシファーと同等であろうマクセルを、あんなにも手応えなく蹴り飛ばせたのだからな。
しかしこれの正反対の術を掛けられていたというのか。
……わらわ、結構すごくない?
これの逆のを掛けられたらスライム以下の能力になっててもおかしくないくらい、とんでもないバフだと実感しておる。
そんなんでよくセーラたちといい勝負してたのぅ。やっぱわらわ強いわ。うむ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「こんなに強力な潜在能力を引き出しても」
「魔王には勝てないと言うのか……」
「マクセルよ、やっぱりそなたはマクセルじゃ」
「どれだけ絶対の力を急ごしらえで得ても」
「わらわたちの好いたルシファーにはなれぬ」
「うるさい!」
「俺は堕天聖ルシファーとしてではなく」
「勇者マクセルとしてやってきたんだ!」
「誰かの生まれ変わりとして扱われるのは」
「うんざりなんだァァァァァ!」
マクセルの言うことは最もである。
結局わらわたちがルシファーだマクセルだと決めつけようが、本人が決める事には抗いようもない。
だからマクセルがマクセルとして、ルシファーとは似ても似つかぬ考えをしていてもわらわは咎めないし、ルシファーであることを求めはしない。
現にわらわが世界をはんぶんこにしよう、という問いかけを投げた際にマクセルはマクセルとしての答えを返してきた。
それについてはわらわもセーラたちも、誰一人としてルシファーはそんな事言わない! などとは言わなかっただろう?
何故ならマクセルの意思を尊重しているからじゃよ。
だからこそ……だからこそあのボンクラのような返事を聞いて興醒めしたのじゃ。
「オレは……オレダァァァァァァ!」
「魔王ォォ! そして堕天使どもォ!」
「貴様らを倒してオレは……」
「勇者マクセルの名を、この魂に刻むんだァァァ!」
「
「
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