第20話
「では再び問おう」
「天聖マガミトロン、セラフィム、シャムシエル……」
「そして勇者マクセルよ」
「わらわと共に」
「世界をはんぶんこにして」
「平等で平和な世界にしないか」
わらわの問いに耳を向ける四人の若者たちはまっすぐな瞳を返してくれている。
世界をはんぶんこ。
あまりにも壮大で、簡単に返事を出せるような問いかけではない。
だってわらわたちは全員が全員、実際にやる気になれば世界をどうこうできるくらいの力を持っているのだから。
だから一人が意を違えば簡単に崩れる。
力を持つ者はその責任を果たさねばならない。
それはすなわち、誰よりも正解を選び続けなければいけない苦しみを背負うことである。
この者たちはまだ若い。
わらわにして、ようやくルシファーのように正解を見抜けるようになったばかりだ。
だから苦しむのはこの老いぼれだけでいい。
頼む。
拒否してくれ。
「…………」
「俺は」
「世界を半分ももらえるほど偉くない」
「それに魔王よ」
「お前だってそうじゃないか?」
「なにっ」
「ど、ど、どうしたのマクセル!?」
「マクセル空気読むにゃ」
「あのねぁマクセル、この人はホントはすっごい魔王なのよぉ」
「分かっている」
セーラたちはマクセルの発した言葉に驚いていたが、わらわはその言葉に図星を感じた。
何故ならマクセルは”正解”を選んだのだから。
少なくともわらわに対しては”正解”を突き返してきた。
こやつ、ボンクラなようで……
しっかりとルシファーの遺志を残しているのかもしれんな。
「ふむ、ではマクセルよ」
「そなたはこの争いに満ちた世界を」
「魔物も、天使も、人間ですら数を減らし」
「このままでは争いの末に死にゆく世界を」
「どうしたい?」
「そんなの決まっている」
「勝手に死なせとけばいい」
おっと?
それはちょっと違うんじゃないか?
なんでそんな事言うのじゃ。
酷いぞよ。口悪いぞよ。性格も悪いぞよ。
わらわの好きだったルシファーはそんな事言わないよ?
お前やっぱボンクラか。
期待して損した。さっき正解を選んだのもたまたまじゃったのか。
「そうか」
「失望した」
「シャム、マカ、セーラ」
「おぬしらが一生懸命に転生させたマクセルだが」
「とんだ期待外れだったようじゃな」
「こんなに傍観を好む男に」
「一瞬でも心を許した己らを恥じよ」
「待て魔王」
「まだ言い終わってない」
「なにぃ?」
「世界がどうのこうのはどうでもいいが」
「お前は放っておけない」
どういうことじゃ?
つまり敵である魔王は野放しにしてはおけないとでも言いたいのか?
参ったな、ただ傍観しているだけなら興味も失せたしこっちから関わりを絶って、わらわだけで世界を再建しようと思っていたのじゃが。
まさかこの期に及んで楯突いてくるとは。
勇者勇者とおだてられすぎて図に乗ってしまったか。
「そんなに死にたいのなら来るがいい勇者よ」
「もはやお前はルシファーではない!」
「ちょ、ちょっと待ってください!……マクセルあなたおかしすぎるよ! あたしたちから見てもおかしい!」
「そうだみゃ。本当にボンクラっぽいからもう何も言わないでほしいにゃ」
「私たちの転生呪文が不完全だったのかしらねぇ」
「おいみんなどうしたんだ。俺そんなに変なこと言ってるか?」
「「「「言ってるよ!」」」」
「全員一致だと……」
というかよかったのじゃ。
セーラたちはマクセルを信頼してるからこんなバカなこと言ってても庇うのかと思ったけど、さすがにわらわと同じ気持ちでいてくれてホッとしたのじゃ。
やっぱこのボンクラおかしいよな。
なんというかあやふやな事をほざいてる。
ルシファーよ、他種族である人間に転生してしまいおかしくなったのか。
それとも本当に転生をミスっててコイツはルシファーにちょっと似てるだけの他人か。
「俺はただ、女の子が放っておけないと言ったまでだ」
「放っておけないってそっちの意味!?」
「当たり前だろセーラ。俺は困ってる子は助けたい。でも世界がどうこうっていうのは面倒だ」
「あ、クズだにゃ。ごめんエシャーティ、ボクはおみゃえに鞍替えしたいにゃ」
「あたしもこんな男よりエシャトロニオスさまのほうがいい」
「お、おい、名前を呼ばれると恥ずかしいって言ってるじゃろ」
「うふふ、かわいい。私もそっちに混ぜて?」
「俺を裏切るのか!? おい!」
うるさいのう。
お前、もう邪魔じゃ。
この世界はわらわたちがどうにかするし、そもそもお前なぞの協力があろうがなかろうが全然関係なかったのじゃ。
だから早く失せた方がいい。
これ以上晩節を汚すな。
哀れな勇者マクセル。
「クソ、クソ、クソォォォォ!」
「俺の前でイチャイチャと!」
「こんなに惨めな気分ははじめてだ!」
「そらそうじゃろ。だってお前が生まれたの最近じゃろうし」
「やかましいっ!」
「そんな口が聞けるのも今のうちだ、魔王!」
「ほう、何をしてくれるのかな」
急に怒り出したマクセルだが、知っての通りこやつはまだ生まれ変わったばかりで戦闘力はさほどない。
セーラもシャムもマカも、哀れな勇者が己に力があると自惚れている様をみて何とも言えぬ苦笑いをしておる。
しかしそんなことにも気づかずに、マクセルはいつものあの言葉をむなしく叫ぶのであった。
「
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