第19話
算段に算段を重ねた上での提案だった。
わらわとマクセルで世界を半分ずつ支配する。
まるで突拍子もないことに思うかもしれないが、現時点で誰よりも最強であるわらわと、ルシファーの生まれ変わりでゆくゆくは最強になるマクセルが組めば、世界をたった二人で治めることも十分に可能だ。
今までたった六人で維持していた世界を、二人で維持するのに変わるだけ。簡単じゃろう?
ひとまずは天界の混乱を収めて、その後に力をつけた人間たちと話をつける。
この二大勢力と話をつけて抑え込みつつ、各地にいるであろう魔物の生き残りを探し集めて再び魔物を一大勢力まで養ってあげる。
さすれば世界は再び安定に入るであろう。
しかも。
「もはや天界の主や」
「天敵である賢者を恐れるわらわではない」
「今こそ!!」
「目の上のたんこぶたちを葬ろう!」
「セーラ、マカ、シャム」
「おぬしらも気づいておるじゃろう?」
「出たわね、魔王ちゃんの口達者」
口達者で十分じゃ。
力で解決するのと口で解決するのは当然後者のほうがいいからな。
わらわは口論も最強じゃし。
えぐいよ、うむ。
ライン超えるのも余裕じゃ。
レギュレーション違反もなんのそのじゃ。
負けそうになったらドつけば一発で黙らせられるし最強よ。
「お前らも分かってるから天界の主ではなく」
「ルシファーの生まれ変わりである」
「勇者マクセルに忠義立てしておるのだろう?」
「流石に鋭いんだみゃ」
「そうにゃ。ルシファーが天界の主の卑劣な手で殺されたときからボクたちは決めてたんだみゃ」
「天界の主は、もはや頂きに値しにゃいと」
「だから私たちはかつての魔王ちゃんのように、反乱を起こしたのぉ」
「多くの天使と多くの魔物、そして人間を捧げて」
「禁術”転生”をしてね」
シャムたちの言葉でようやくマクセルの謎が解けた。
そうか、禁術である転生をルシファーに掛けたのか。
転生の呪文を掛けると多くの種族の命を犠牲にして一人の命を再び灯すことが出来るのだ。
と、いうことは……
魔物だけでなく、天使や人間も大勢いなくなったということか。
たった三人で天使も魔物も、果ては人間まで倒しまくったのか。
なんちゅう三人娘じゃ。
お前たちめちゃくちゃエキサイト思考じゃな。
さすがにルシファー一人のためにそこまでするのは引くぞ。
どんだけルシファー大好きだったんじゃ。
………………。
まあ、気持ちは分かるけども。
わらわもその、ルシファーは好きだったし。
「転生させるならわらわにも一言声を掛けてくれればよかったのに……」
「しようとしたわよぉ! ルシファーが死んだ時に一番最初にあなたのとこに行こうとしたのよぉ!」
「ええっ、そうじゃったのか」
「だって賢者も天界の主もヤバい独裁者ですから、まともなのが魔王さんだけですし……」
「でもおみゃえの手下たちがボクたちを目の敵にしてて全然近づけなかったんだみゃ」
「なので仕方なく、まず弱い魔物をいっぱい倒してマクセルを転生させ」
「そっから四天王を始末してようやくここまで来たんだミャ」
「それは手間をかけさせたのう」
「みゃあ最初の目的であるルシファー復活はできたし、魔王のおみゃえも倒すんだけどみゃ」
なるほど、あくまでシャムたちはルシファーだけの天下を望んでいるようだ。
確かにマクセルがルシファーと同じ心を持っているのなら、きっと世界は平等で誰もが笑い合う理想の世界へと導かれるだろう。
ルシファーはそれくらい、心が清くてそれを実現できる力をもった男だったから……
だからシャムたちはこのマクセルに、”ルシファー”を押し付けているのだろう。
だけど肝心のマクセルを見てほしい。
もうずっと話題の中心であるというのに、まったくついて行けずにわらわが食べ損ねていたお魚の目玉を食べたりしている。
ありがとう。
こわくて食えなかったし残したままで心残りだったのだ。
そういうとこ好き。
………………。
い、いかん、うっかり見惚れていた。
「とにかくじゃ!」
「マクセルを見ろ!」
「まるで何も分からずにいるではないか!」
「なんだと?」
「なんだと、じゃないよ! じゃあおぬしは何をすべきか言ってみろ!」
「この山盛りにいるタイたちの目玉を食べ切ることだ。うまいなこれ」
「みゃあー! マクセルなに食ってんだミャ。ボクもお魚大好きだみゃー!」
「おお食え食え。そういえばシャムはネコっぽいしお魚好きだったな」
こいつら偉いな、好き嫌いなく食べておる。
わらわも見習うべきじゃのう。
……という風景を繰り広げたら、セーラとマカもようやく自分たちの考えの詰めが甘いことに気づいたようだ。
そうじゃよ、マクセルは転生したばかりで普通に話をできる事自体が奇跡なんじゃよ。
だからマクセルだけで世界の王をさせるのは、今はまだ不可能じゃ。
「魔王ちゃん、あなたの言う通りねぇ」
「マクセルは世界を平和にできる勇者ではあるけど」
「決してルシファーではない、ってこと?」
「そうかもしれんな」
「少なくともわらわはマクセルはマクセル、ルシファーはルシファーだと思う」
「ようやく楽園へ逝けたルシファーに」
「また苦労をさせたくはないからのぅ」
「……そうですね」
「やっぱり最初に無理をしてでもあなたに会うべきでした」
「大天聖エシャトロニオスさま」
「その名はもう死んだ名じゃよ」
禁術転生についてはわらわはよく知らない。
ルシファーの魂をそのまま蘇らせるのか。
それとも生まれたばかりの状態に戻すのか。
はたまたルシファーの魂の跡を継ぐ、別な魂を生み出しているのか。
分からないことばかりである。
なんせ今までは我が右腕がそういうのは知っておったから。
わらわはただ、分からなければ右腕に任せるだけであった。
だからこそ、セーラたちがここまで来るのに苦労したとも言えるな。
「ふふふ、しかし本当に我が右腕は有能じゃったんだな」
「天界でも屈指の実力者であるセーラたちを」
「ここまで辿り着かせるのにルシファーの生まれ変わりまで用意させるほど難儀させるとは」
「ホントに大変だったにゃ……」
「ボクたちだって争いは嫌だから、天敵だけど魔物たちに話し合いを持ち掛けてたにゃ」
「で、で、でもみなさん、魔王様は天使がゴミだ! って言ってるからって聞かなくて……」
「セーラちゃんはあんまり怒鳴られた事ないから、殺意剥き出しの魔物たちに怯えっぱなしだったわねぇ」
「かわいかったわぁ」
……あー!
そういうことか!
面倒じゃし天使の言うことはロクでもないから一切耳を貸さずに退治しろって任せっぱなしだったから、みんな死に絶えるまでセーラたちに襲いかかってたのか!
わらわ、納得ぅ〜!
だってめっちゃ強い魔王からのお達しならみんな言う通りにするもんな!
ハーッハッハッハッハッ、すごい忠誠心!
………………。
いや、ほぼわらわの失態みたいなもんじゃないか!!
世界がこんなにサッパリしたのわらわのせい!?
うう、さむいのうさむいのう。
己のずさんさが憎いのう。
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