第18話
思い返せばマクセルとルシファーは似たような行動が多い気がする。
あまり指示を出すのが上手いわけではないのに、やたらとみんなに指示を出して戦いをグダグダにさせるところ。
敵であっても自分の信念と通ずる行動や言動があれば、敵意を捨てて話をしようとするところ。
不自然なくらい美形であること。
そしてわざとらしく相手の攻撃と同じ技を放ってくる嫌らしいところまで。
「マクセル、まさかおぬしがルシファーとはな」
「なんだ魔王。俺はルシファーではない」
「ははーん、記憶は曖昧なのか」
「シャムちゃん、話したのねぇ」
「どうせそのうち気付く事だミャ」
「マクセルがルシファーの生まれ変わりだと分かれば、少しは事の大きさも理解するはずだからみゃあ」
「そうか、そういう事か。お前たちがわらわを倒したいワケも分かってきたぞ」
ここ数千年の間保たれていた世界の均衡が崩れたので、それを正常化しようと奔走しておるという魂胆であろう。
この世界には最強と呼ばれる者が六人いる。
いや、いたと言ったほうが今や正しいか。
天界、魔物、人間にそれぞれ二人ずつ。
天界にはルシファーと天界の主が。
魔物たちにはわらわとわらわの右腕が。
そして人間には賢者の王とその妃が。
奇しくもみな男女に別れており、パワーバランスも絶妙に保たれて数千年もの間ある程度の平和が続いておった。
だがしかし!
ルシファーが死んだというのなら!
この三者で最も弱いのは天界になったということ!
しかも魔物の世界ではわらわが右腕を大きく突き放してワントップであったのに対して、天界のツートップは見事に対等な実力であり拮抗していた。
つまり片方がいなくなれば、大きく弱体化するのである。
しかも派閥争いも多いからルシファー亡き今の天界は、ルシファーが従えていた優秀な少数の天使を取りまとめる者がいなくなって大混乱であろう。
「クッフフフフフフハハハハハハ!」
「笑止!」
「あれほどまでに他者を見下していた天の主め」
「遂にバチが当たったと言うわけか!」
「認めたくないけどあなたの言う通りです」
「ルシファー様のいない今、天界は荒れています」
「マカさんやシャム、あたしなんかはまだ上澄みの実力者だったのですんなり天界の主から受け入れてもらえましたが」
「そうでない天使は、その……」
今の事態を説明するセーラは少し言い淀んだ。
きっと同胞の受けた仕打ちを思い出すのが辛いのだろう。
セーラは天使の中でも一際天界を至上だと思い、同種ならば多少の優劣はあれどみな高貴で品性を持った存在あるはず、という思想だったから。
それが、
同種たちが醜い争いをするのを目の当たりにするのは信じがたいことであっただろう。
天使は嘘をつかない。
だからこそ、真実だけしか見せない天使から裏切られた時の悲しみは途轍もない。
「ううっ、思い出せば思い出すほど最悪です」
「そうじゃろう。天界はゴミじゃろう」
「ま、ま、まさか一般の天使たちが」
「あんなに下着に執着してるとは思いませんでした」
「そうじゃろう。だってみなマッパだから……」
「生まれつき時の魔法を使えて衣服を纏うのを許されてるセーラには、マッパの羞恥は分かるまい」
「ううっ、キューピットたちの下着狩りはホント最悪ですっ!」
「あの子たちはどうして人の下着を奪うのかしらぁ」
「俺の想像している天国のイメージが崩れるからそういう話はやめてくれ」
マクセルよ、存分にイメージを崩すがいい。
天界なんて字面が良いだけで普通に治安悪いぞ。
セーラの言う通り、一般の弱い天使はマッパの恥辱に耐えかねて上級天使から服を奪い取ろうとするし。
今まではルシファーという優秀な天使たちを守ってくれる王がいたから、あまりそういう事はなかったのだろうがな。
けど今やルシファーはいない。
いや、目の前に生まれ変わりがいるけども。
………………。
そうか、生まれ変わりか。
「ホントに俺はセーラたちの言うことを信じていいのか」
「そこは信じて! あたしたち天使だよ?」
「その天使のイメージが悪いのだが」
「にゃんでだみゃ! ボクたちが嫌いにゃ?」
「そんなことはない」
「じゃあ一緒にこの魔王ちゃんを倒しましょうねぇ」
「うーむ……もっと話をしてちゃんと決めたほうがいいんじゃないか」
「マクセルは優しいんだからぁ」
ボンクラなところはあるが、確かにマクセルはルシファーの生まれ変わりで間違いないだろう。
かつてはわらわの属する派閥とは違う家、言うなれば敵側の王だったが、その信念にわらわは尊敬を抱いていた。
それがこうして姿を少し変え、かつての面影を残しながらわらわの前にいる。
あの時は到底身分が違いすぎてちっとも関われなかったあの人が。
今では対等な身として、再びわらわの前に敵として現れている。
(本当に戦わねばならないのか?)
(セーラたちによると、天界は今均衡が崩れている)
(魔物の方はもはやわらわしかおらん)
(それに対して人間のほうは絶好調のままである)
(………………)
(決断すべき時かもしれんのう)
わらわは頭上に広がる美しい空を仰ぎながら、一つの結論に至った。
それは。
「勇者マクセルよ」
「”人間”の勇者マクセルよ」
「この魔王とともに」
「世界をはんぶんこにしないか」
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