第17話
ふぅー。めちゃくちゃ気持ちいいのう。
シャムのワープがこんなにも便利だとは思わなかったのじゃ。本当にいきなり目の前に便座があって驚いたわい。
「あぁ〜ジョボジョボジョボ」
「よく出るミャア」
「いやぁ寝起きのおしっこもしてなかったからな。ほれみろ、2リットルくらい出たんじゃないか!?」
「うわ、きったにゃい」
「なんじゃと……」
そんなにわらわのおしっこは汚いのか。ちょっとそう言われると悲しいんじゃが。
まあ気にしたところでしょうがないのでさっさと流し、シャムとともに元の部屋へ帰るとしよう。
「ではシャム、ワープするのじゃ」
「無理だミャ」
「そんな意地悪言うと叩くぞ」
「意地悪とかじゃなくてホントにできにゃい」
「ワープは本来かなり準備がいる魔法だから」
「マクセルのスキル補助がにゃいと簡単には出せにゃいんだみゃあ」
「そうか、確かにシャムがいくら優秀でもワープをあんな簡単に出しまくるのはおかしいと思ってたのじゃ」
意外なところでマクセルは役に立っておったのだな。
まさかあのやかましいスキル発動という掛け声が、シャムやセーラの大技を即座に発動するための補助だったとは思わなかった。
しかしワープはできないのか。
ということは……
ここから歩いて玉座の間まで戻らねばいけないのか。
それはちょっと困ったぞ。
実はわらわ、この城の地理なんてまったく覚えていないのじゃ。
広すぎて自分の部屋と玉座の間の周辺しか覚えてられんからのぅ。
「のうシャム、おぬしここがどこか分かるか?」
「は? 知るわけないミャ」
「なにっ、じゃあどうやってわらわの部屋まで来たのじゃ!」
「マカとセーラ頼りだったみゃん。ていうかおみゃえ、道案内するみゃ」
「出来るわけなかろう! こんな広い城の間取りなんて覚えてないわい!」
「うわあばかだみゃ!」
「バカはどっちじゃ! セーラかマカも一緒に連れてきてれば解決したものを!」
「うるさいにゃあ、バカエシャーティ!」
「う、本名を言われると若干ドキッとする」
エシャーティとはつまりわらわの本名エシャトロニオスの愛称である。
わらわが急に大天聖になったといっても強くなったわけではないから、それまで通りにエシャーティという愛称で呼ばれることも多々あった。
マガミトロン、シャムシエル、セラフィムのようにわらわよりは歳下だがすでに優秀で格上だった天使たちは気軽にエシャーティエシャーティと呼んでいたものだ。
だから唐突にエシャーティなどと呼ばれるとドキッとする。
わらわは魔物たちに本名を教えていないのだが、それは魔物の敵である天使の名を使って混乱を招きたくないのと、わらわ自身の気持ちの問題で使っていないわけなのだ。
エシャーティ。
この名は出来るならもう使いたくない。
「おい、にゃにボンヤリしてるみゃ」
「とにかくマクセルたちのとこへ戻るミャ」
「そうじゃったな」
「まあせっかくじゃし話でもしながら行こうじゃないか」
「裏切り者と話すことにゃんて何もにゃいみゃ」
「そう言わずにグチでも聞かせるのじゃ〜」
「なんかあるじゃろ、うざい上級天使の悪口とか」
とにかく当てずっぽうで階段を探しながらわらわたちは歩き回る。
幸いにも玉座の間は最上階だから階段さえ登っていけば最終的にはたどり着く。
その間ヒマなのでおしゃべりでもしないと間が持たんのじゃ。
「……そういえば」
「あいつはまだ元気かのう?」
「あいつって誰だミャ」
「すまん、わらわは名前を覚えるのが苦手でな」
「えっと、天界の主と唯一対抗できるやつで」
「天界で唯一の男であったあいつじゃ」
「ルシファーのことかみゃ」
「そうそう、ルシファーじゃ」
「あのお方は死んじゃったみゃ」
「……え?」
ルシファーが死んだ?
ルシファーは気に食わない天界の主と唯一対等な力を持っていて、天界の主が暴走しないように抑えている偉大な天聖だった。
わらわをはじめとする無能力で大して強くないが大勢いる普通の天使を支配する天界の主とは違い、シャムシエルやセラフィムなど優秀だが少数の天使を従えるのがルシファーだった。
わらわはルシファーとは派閥こそ違ったが、その”世界を平等に見つめ敵であろうと優秀な者には敬意を払う”価値観に尊敬を抱いていた。
そんな偉大なルシファーが……
「そうか、死んでしまったのか」
「信じられにゃいって顔だみゃ」
「当たり前だろう。なんせルシファーは殺しても死なないような男であったからな」
「それにあんな怪物を倒せるのは、それこそ天界の主か、今のわらわか、もしくは先代の大魔王くらいしかおらんじゃろうて」
「そう言われると結構いる気もするにゃん」
「確かに。今のわらわなんて最強じゃから誰も倒せんしな」
「天界の主にも、かみゃ?」
「ああ。天界の主にも」
「ルシファーの生まれ変わりにも?」
「……ルシファーの生まれ変わり?」
聞き捨てならない言葉にわらわはどこか引っかかりを感じながら、シャムと一緒に最後の階段を登り終える。
ようやく見慣れた廊下を目にして、嬉しさのあまりその引っ掛かりもすぐに吹き飛んでしまったが。
玉座の間に戻りマクセルの顔を見たら、再びシャムの言っている事が蘇った。
「まさか」
「まさか!」
「シャム、まさか!?」
「やっと気づいたのかミャ」
「マクセルこそが天界のツートップの一人」
「堕天聖ルシファー」
「その生まれ変わりだミャ」
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