第15話


 笑えるだろう。


 こんなにも天界を嫌っているこのわらわが元々は天使だったなんて。


 そして皮肉にも魔物の王、魔王をやっているなんて。


 そろそろ語らねばなるまい。


 主人公であるわらわについて。


「わらわは元は普通の天使じゃった」

「そこにいるマガミトロンやセラフィムのようにスゴイ技が使えるわけでもない、ただの平凡な天使」

「何かが得意なわけでもなく、かといって出来ないことがあるわけでもない。影の薄い天使だと自負していた」

「そんなわらわにとって転機となる出来事が発生する」

「……大天聖エシャトロニオスの反乱ねぇ」

「ほう、そんな大仰な名で語られておるのか」


 かつての名を久しぶりに聞き、思わず懐かしさを感じた。


 大天聖エシャトロニオス。


 それがかつてのわらわの名前だった。


 わらわは弱っちい天使だったが、ある時平凡な天使から大天聖へと出世する一つの出来事を引き起こしたのだ。


 それは……


 取るに足らない存在である人間に知恵を与え、天界の天敵であった魔物と戦うよう仕向けるという思いつきだった。


「最初は天使ですら苦戦する魔物に人間がかなうはずないと一蹴された」

「しかしわらわはある事に気づいていた」

「人間は天使や魔物が扱えない特殊な魔法元素を操る力があると」

「その魔法元素、”光と闇”こそが!」

「他でもない天使と魔物に必殺の威力を発揮する属性だったのだ!」

「魔王ちゃん、あなたの発見のおかげでこの世界は一気に慌ただしくなったわねぇ」

「うむ。なんせ今まで滅んでいないのが不思議だった人間が、まさか少数の賢者のおかげで生き長らえていたと判明したからのう」


 そしてわらわは人間の中でも数少ない、自力で魔法を操る術を身に着けた賢者と呼ばれる者たちと接触するのを決意した。


 最初は本当に人間が魔法など使えるのか半信半疑だった上級天使も何人か引き連れ、わらわはまずは物陰から様子を伺うことになった。


 すると賢者たちは想像通り、出くわした魔物を初めて見る魔法でいとも簡単に倒したのだ!


 天使の使う”天術”とは違う、光の魔法。


 それがあの強大な魔物を一撃で屠ったのだ。


 わらわの発見はすぐに天界のすみずみまで知れ渡り、一夜にしてわらわはヒラ天使から大天聖へと成り上がった。


「なぜ天の主がわらわをすぐに大天聖にしたか分かるか?」

「それだけあなたの発見が歴史を、天界の運命を左右するものだったからじゃないですか」

「違うのだ。わらわを大天聖にすれば、後の指導は言い出しっぺのわらわに丸投げできるからじゃ」

「つまり悪い結果になったらあなただけの責任にしようと思ったのねぇ」

「うむ。まあわらわは大天聖という肩書きを気に入り、何の躊躇いもなく事を進めたがな」


 大天聖となったわらわは自由を手に入れた。


 文字通りの自由だ!


 なんせ天界といえば、文字通りこの世界が始まってから今までずっと、どんな種族より強い者たちであったからな。


 多少魔物に脅かされることもあったが、基本ずっと最強であった。


 つまりその最強の中でわらわは頂点に近い存在になったのだ!


 最強の中の最弱だったわらわが!


 いきなり最強の上澄みにな!


 ちなみに大天聖になって最初にやったことは、手下のキューピッド下級天使にわらわの下着や衣服を編ませたことだ。


「いやぁ、初めて下着を履いた時は感動したのぅ。だって恥ずかしくないもん」

「あ、分かるミャ。一度服を着るとマッパは堪えるにゃあ」

「シャムは今懲罰の最中だから下は履いてないじゃない」

「なんてこと言うんだミャ、セーラ」

「ほぅ! そういえば償い中はあえて辱めるためにそういう決まりもあったのう。どれどれ」

「ギニャー! めくるにゃ!」

「お、俺は何を見せられてるんだ」


 冗談は置いといて、話は過去に戻る。


 賢者たちと積極的に交流を始めたわらわは順調に距離を縮めていって、人間に眠っている可能性をどんどん見出した。


 人間は魔物や天使と違って弱いこと。


 けれど魔物や天使と違い、代を重ねるごとに少しずつ進化すること。


 必ずしも子は親を超えるわけではないが、それでも着実に力をつけていく。


 その進化に果てはない。


 かつて交流をしていた賢者たちも、すでに多くの子孫を残し、やがてはその数だけ賢者と同等の力をつけた人間は増えるだろうと語っていた。


 わらわはその可能性に……


 あまりにも無限の可能性に……


 恐怖してしまったのだ。

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