第14話
「俺の考え?」
「はい、おしゃべりはおしまい。本当に口の回る魔王ちゃんねぇ」
「待てマカ、俺にも考えが……」
「あなたは私たちの頼みだけ聞いていればいいの。それでずっと上手くいったでしょう?」
みんな聞いたか、この傲慢さ。
これこそが天界に住む者の特徴じゃ。
今までマクセルに従うフリをしていたが、やはりそんなに長くは猫を被れるわけじゃないようだな。
まったく、天使はいつもこうだ。
言葉巧みに人をたぶらかし。
嫌いな魔物を滅ぼそうと夢中になる。
自分の手を極力汚さぬように動くのが本当に上手いんだ。
こういう腐った性格がわらわは許せない。
だからわらわは数千年前……
「相変わらず傲慢だな、天使どもめ」
「あらぁこわいこわい」
「ボクたちのどこが傲慢にゃん」
「お前たちはわらわがどれほど天使を嫌っているか見誤っているようだな」
「……そうかもねぇ。でもさ傲慢なのはお互い様よ。あなたはもう、数千年もの間この世界を楽しんだでしょ?」
確かにわらわは数千年前に魔王の座を得て、それからずっと自分の意志を、ある意味わがままを通し続けた。
だがそのわがままとは、何の面白みもない普通の願望であるよ。
ただただ、人間も魔物も仲良くいられる世界へしたいという願望。
それを人間が人間と争っている間にわらわは魔物たちをまとめあげ、一気に対等な力関係へと持ち込んだことで成し遂げたのだ。
天の者たちが人間を裏切り、人間同士が争うのをほくそ笑んで見下している間にな!
「わらわたち魔物は天に見下された人間へ、再び手を差し伸べた!」
「だが人間はそれを拒んだのだ!」
「おぬしら天界の者に裏切られたと認めたくなかったんだろうよ!」
「人間が天に裏切られただと? そんなの俺は聞いてないぞ」
「そうだろうな。マクセルよ、お前の背後にいる天使どもは嘘をつかぬ。しかし言葉巧みに真実を隠す」
「ごめんねマクセル。あたしたちそういう種族なの……」
天界の者の唯一の美点は嘘をつけぬところだ。
だが本当にそれだけだ。
嘘をつけないだけで約束は破るし裏切りもする。
マジで上手いこと他人を騙すんじゃ。
嘘をつけないのによくやるもんだよ。
……まあわらわも嘘はつけないタイプなんじゃけどな。
「さて、そんな天使どもがなぜ今さら地上に現れたのだ?」
「これまで数千年、少なくともわらわが魔王になってからはただの一度も見なかったのに」
「マクセル、きっとお前には理由を話しているんだろう?」
「このマガミトロン、シャムシエル、セラフィムの三人が何をしたいのかを」
「……ああ。だが魔王の言い分を聞いてからだと、こいつらのやりたいことが分からなくなってきた」
「みゃあ。ボクたちを疑うのかミャ」
シャムに悲しそうな表情で問われ、マクセルは何とも苦い顔をしている。
マクセルはこの世界の人間にしてはあまりにも天使に嫌悪感を抱いていない。
人間は過去に天使たちに裏切られた歴史があるので、普通ならば天使と気づいた時点で二度と関わり合いになろうとしないものだ。
たとえ裏切られたと認めたくなくてもな。
だがマクセルはこの三人が天使であることに何も嫌悪感を表さずに行動をともにしている。
勇者だなんだとおだてられているにしても、少々単純すぎるか、あるいはわらわでも想像のつかない理由があるとしか思えない。
マクセルよ、おぬしは何者なのだ?
「……詮索はそこまでです。これ以上マクセルに話しかけないで」
「セラフィム。そなたは誰よりもを天を至上としていたな。それがどうしてこんなに人間を好いておるのだ」
「あ、あ、あたしがマクセルを好き!?」
「セーラはマクセルすきすきが分かりやすいミャ」
「だよな! 何がセーラを心変わりさせたのか知りたいぞよ〜」
「そういえば魔王はまるでセーラたちと知り合いのような感じがするが、どういう関係なんだ?」
「え、マクセルあたしの好意は無視するの? もしかして知ってた?」
バレバレだろう……
しかしマクセルよ、お前ほんとにボンクラなりに気づくことは気づくな。
いかにもわらわとこの三人は昔からの知り合いである。
ただこの城に来た時は数千年ぶりの再会だったし、シャムとかマカとかセーラなんて愛称で呼び合ってたから気が付かなかった。
わらわは人の名前を覚えるのが苦手だが……
実は人の顔もあんまり覚えてないからな!
なんせわらわは魔王だから!
………………。
さすがにこれは魔王とあんまり関係ないな。
それでなんだったっけ。
わらわとセーラたちの関係だっけ。
「うーん、実を言うとあんまりわらわは昔の事を話したくないんだが」
「そうねぇ。裏切りの代名詞みたいな問題児だものねぇ」
「うるさいのぅマガミトロンよ。おぬしは昔から下級天使のクセになぜか風格があって偉ぶるな」
「あら下級天使なんて何百年も前に卒業したわよぉ。だから服着てるんじゃない」
「天界の下級天使は全裸強要ルールはホントに謎にゃ」
「シャムシエルは割りとすぐに
「あ、実はシャムは悪さして一回降格してるんです。ほらこの首輪が懲罰の……」
シャムおまえ……
優秀なクセに悪さしとったのか!
でも確かにシャムが着けてる首輪は懲罰の償いをするまで着けさせられるヤツじゃ!
まあこいつはワープできるから結構やりたい放題してたし、想像通りといえば想像通り。
しかしみんな嫌がっているのに、なぜ未だに全裸ルールが残っとるんじゃろう。
全裸っていうとあれだぞ。
ミントブルーすら履かせてもらえない、本当のすっぽんぽんじゃ。
みんなキューピッドって一度くらい絵画で見たことあろう。
あれだよ、あれ。
マッパでハートの矢を放つ変態。
あれね、名のある天使もみんな一回やっとるからな。
今ここにいる太ましいマガミトロンも。
ケモミミと尻尾が愛嬌あるシャムシエルも。
平凡な出で立ちだが、実は容姿端麗なセラフィムも。
「そして魔王ちゃんも、ねぇ」
「うわ! 何てこと言うんじゃ!」
「……えっ!? 魔王おまえ」
「バラされたのなら仕方あるまい」
そう、実はわらわは……
天使だったのだ。
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